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夜を知らない

下校間際の校庭で、破り捨てられたラブレターを見た。俺のだった。破片が風に乗って宙に舞った。沈みゆく太陽と空の間、遠くへ飛んで行った紙切れを見た。遠く遠く、手の届かない、紫のどこかへ吸い込まれていったのだった。チャイムが鳴った。ゴーン、ゴーン、キンコンカン。鐘の音は授業の終わりを告げ、そして就業開始の意味を告げた。俺はため息を吐く間もなく、終わってしまいたいと思った。 "下校の時間となります。就労対象の皆様は、お手提げの物品の確認の上…” 何万回と聞いた放送が鳴った。沈みかけ

    • ヘルムヘルメツホウサクロウ

      滲んだ宵で。 先輩は学校の制服のまま信号機に腰かけ、口笛を吹いた。 沈む陽。 夜になるのを眺めていた。 スカートから白い肢が伸びていた。 俺は横になってそれを見上げた。 下着が見えそうで顔を顰めた。 「静かだね」 先輩の声で俺は体を起こした。 目先に映る街並みのどこにも人はいなかった。 もう2時間経つ。 焼べられた宵。燻ってもう闇。 「上手くやれますかね」 「何が?」 「俺です」 「知らない」 「知らないって」 「失敗したらまあ、死ぬんだよ」 先輩は双眼鏡

      • 4:00 AM

        窓越しに燃える我が家を眺めた。僕は到底ヒーローには成れなかった。 「早く詰めろセド、早く」 オオマが急き立てた。事務所の暗い部屋に炎が差していた。 散らばった書類、現金、旅行鞄。 消防車が近づく音。 オオマの金のネックレス。 朝は近い。 夜が明ける前に。 「リストは?」 手元の紙束を見せるとオオマはOK、OKと小刻みに頷いた。 「あと30分どうする」 「待たない」 「何で前倒す?」 「外と、あとは移ったら説明する」 オオマは顔を顰めたが、外を眺めた後、「わか

        • イケブクロアンダーテイク

          俺はオオマでお前は初対面。 はじめましてでさよなら。 お前に酒はいらない。俺もだ。 俺の体は機械で頭はヘルメット、そして葬儀屋。 お前が飲むのは鉛玉で十分。 「ふざけッ…!!」 俺は返り血をもらう。 それで十分。 血は温かく生きている実感を思い出す。 それで十分。 お前を担ぎ、棺に詰める。そして製薬会社ピサシス に売り払い50万を貰う。 俺はそれで生きている。 俺の人生はそれだ。 パンッ。 紅い花のように男の頭が爆ぜる。 項垂れた首を見て胴を抱える。 棺に詰める。

        夜を知らない

          さよなら世界征服

          「世界征服できなかったなぁ」 灯りが切れた病室でフユカは口癖を呟いた。フユカは小学生の頃から世界征服を夢見ていたが、恐らくそれは実らない。俺は俺で『お前の余命はあと2ヶ月だ』とまた言えずにいた。 さよなら。 「ねえ、私あとどれくらいなのかな」 「博士号は取れそうにないかも」 俺は曖昧な嘘を吐いた。フユカは嬉しそうだった。 「俺は学部も出れる気がしない」 「そっかぁ」 19歳で修士の身、博士号の価値はいかほどと思う。 俺がフユカを追っかけ、浪人し私大薬学部に入った頃に

          さよなら世界征服