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【第35回東京国際映画祭&第23回東京フィルメックス+α】DAY 5 FINAL

こんにちはギルドです。
東京国際映画祭、東京フィルメックスに参加された皆さんお疲れ様でした。現地で鑑賞した作品の短評をまとめます。
鑑賞予定の映画の概要はこちら

前回はこちら

⑫ソウルに帰る

スコア:
81/100

養子としてフランスで育った韓国籍の女性が韓国の実父・実母を探す話。
自分を養子として捨てた事、韓国そのものを「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」と捨てる嫌悪感の変化を今を生きる連続性で示して、その先の遺伝子としてプログラムされた呪いに絶望する描き方が素晴らしいです。

フレディは韓国に降り立ってハモンドという養子施設に行く。その前にホテルで知り合った友人と居酒屋で会話していくが、フレディはフランスという環境で培ったのかその場にいる人に声をかけて大きな輪を作っていく。なんならお持ち帰りまでして精力的に活動していく。
しかしフレディは一貫して韓国籍でありながらも韓国語を話す事が出来ず、友人の通訳によって意思疎通をせざるを得なくなる。
その後、郡山へ実父の家族と出会って団らんをするのも実父からの施しを受けても友人の翻訳なしには会話もままならず、立ち振舞・服装・習慣どれをとっても異なる環境に辟易する。

本作がまず素晴らしいのは実親を探すロードムービーに留まらずに外国の環境に慣れた人間が母国籍にいる事の息苦しさというのを通訳・立ち振舞で表現する姿にあると思う。
随所に登場する韓国にいるけど外国にいるような錯覚や部屋で間仕切るカメラワークも相まって、彼女は韓国という場所に不安や苛立を覚えて実父の愛情を素直に受け取れず防衛反応故に天邪鬼な振舞で棒に振ってしまう。
環境によって水と油のような関係になり、異国の地での意味不明さが「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」にまで昇華して自己防衛のつもりが余計に愛情から無縁の存在になる姿はコミュニケーションの見限る側の表裏を描いている。そこがエレガントで重厚な映画だと思った。

本作が素晴らしいのは、そういった防衛反応故に母国籍に嫌悪感を覚えた人間でも違った形で愛情を還元する姿と、それでも相容れない部分で突っぱねた憎悪がブーメランのように帰ってくる覆水盆に返らずな複雑な心情を描く姿だと思う。
フレディ自身の憎悪は環境で生まれたと思っていたが実はプログラムされた事を知った時の顔は、その手前にある感動的な出会いとのギャップが凄まじくて感動的なのに凄く恐ろしい映画に昇華している奥行きある豊かさが面白かったです。

あのラストのピアノを弾くシーンは今でも忘れられない。

⑬R.M.N.

スコア:
78/100

この映画は2020年にトランシルヴァニア地方で実際に起きた事件から着想を得た映画で、新たな部外者を住民の種族的なマジョリティ・マイノリティ問わず新たなマイノリティを敵とみなして叩く話である。

本作はルーマニア映画節全開な「外国人嫌い」の映画で衛生環境・宗派の偏見まみれで叩きのめすのはラドゥ・ジュデ作品でよく観るけど、面白い所はそこに部外者を信じきっても良くないと警鐘を鳴らすギミックが搭載してて独特な映画だと感じました。

特に不安で感情的になる人間の主張に精度が悪いように、偏見に満ちた暴論の局地が終盤の無限議論に続き今年鑑賞した「アンラッキー・セックス」の異端審問のような匂いを感じさせ、暴論に暴論を重ねる姿はコメディに昇華している。
全体的に薄暗い寂れた画作りも良かったけど、本作の随所に散りばめられたブラックコメディが面白かったです!

部外者を叩きのめす姿は良くないが、では部外者が牙を全く剥かないと信じるのも…?色々な読みが出来る一作で二度目鑑賞したい作品です。


⑭自叙伝

スコア:
69/100

父親的な存在へ承認されたい青年のお話。

本作は疑似家族というテーマを扱いながらも家父長制の大きな存在で疎外感・不信感を得る過程を丁寧かつ病み上がるように描いていて、その質感が良かったです!
軍隊の一種の暴力的な象徴、欺瞞というのを将軍とRakibの生活の中で圧縮され、家父長制の深刻さに発展させる巧みさは見どころに感じました。

楳図かずお「ねがい」の様な展開で割り切れない想いを打破しようとする悲しさが特徴的な映画だが、本作を紐解くと家父長制に抗う青年の置かれた環境で家父長の磁場を纏うのが面白い、そんな作品です。

⑮コンビニエンスストア

スコア:
81/100

モスクワのコンビニエンスストア「Produkty 24」で働く移民労働者ムハッバトの話。

本作はコンビニで働く外国人労働者の息詰まる生活を描いた映画であるが、コンビニで働く空間の狭さが薄暗くて先の見えない辛さとして見事に描いていると感じました。
ムハッバトはコンビニでは酒コーナーで販売しているが、酒を買う客の日本でいうタバコ買う時に番号で言わずに銘柄で言うレベルの横柄さからスタートして、そこから料金違うと指摘すると逆ギレして殴られるクソ客対応から映画は始まる。

その後にもタコ部屋のような部屋でプライベートのくそったれもない部屋で寝たり、急なタスクで叩き起こされたり、店長の謎の雑用に疲弊したり…と働いているコンビニではあまり良い待遇で働かされていない事が見える。
そこに加えて空間を狭く狭く映すカメラワークや内装のチープでノイローゼになりそうなBGMや全く音の無い空間で仕事をし続ける姿にも外国人労働者が劣悪な労働環境で働いている事を如実に伝えていて、酒コーナーでポツンと佇んでいるムハッバトをかなり引いて撮影する「狭さ」は白眉であると感じました。
店長も中々にクソっぷりを発揮していて、逃げ出した店員をとっ捕まえてリンチしたり人狼ゲームで人以下の扱いをしてきたり自分には子供いないから他人の子供を我が子のように接したり、足で子供に雑用させて上手くいかないと罵る…とやりたい放題である。

そんな本作は外国人労働者が置かれた「労働と搾取」「支配と被支配」を鋭く描いていて、移民労働者の目線でロシアの労働環境を描いているとは言うけれども、実際には日本含めた先進国の話ですと言われても全然成立するようなリアリズムな作品が強いです。
そこにカメラワーク・セットデザインの巧みさ、少しだけ入る非現実的な展開が良いアクセントになってて面白さ・怖さに直結している作品に感じました。

その後、ちょっとした事件があってコンビニという牢獄から離れて広がる空間に「これは希望の展開か…?」と思わせて、結局のところ「労働と搾取」という関係は「外国人労働者」という立場である以上は呪いとして避けられない運命にある事、どんなにより良い生活を目指してもそれを阻む出来事の連続の末にある最後の希望の場所は「お前の居場所はここしかないぞ?」と絶望を覚えさせる演出が恐ろしかったです。

途中から鈍重になって退屈にはなったものの、前半1時間のしんどさ・徐々に不安になっていく展開に圧倒された映画で面白かったです!

⑯フェアリーテイル

スコア:
69/100

死後の煉獄の廃墟でチャーチル、スターリン、ヒトラー、ムッソリーニ、ナポレオン、イエス・キリストが現出し延々とお喋りをするお話。

主にチャーチル、スターリン、ヒトラー、ムッソリーニが何人も分裂しながら自身のイデオロギーについて声高に話し続けるが、それに並んでディープフェイク技術(ちょっと前に流行ったMAD「ばかみたい」と同じやつ)と液状化した群衆、ノイズ混じりのモノクローム映像で展開する映像のインパクト強めな作品でした。

いわゆる思考実験な要素の強い映画で、虚構装置で様々な独裁者たちが目覚めてからは神門を開けるが開けれなくて…道端でスターリンとヒトラー、チャーチルとムッソリーニ…など様々なカップリングで思想や宗派についてお喋りする。
とはいえお喋り言う割には会話のドッジボールの如く、一方向に何なら誰に向けた言葉でもない内容を飛ばしまくる映画で「女王陛下に連絡しなきゃ」「レーニンのお気に入りはなんてろ」「パリやロンドンを焼き払えばなぁ」「こいつらきっしょw」の会話でもない言葉が飛び交うのが個人差別れると思う。

個人的には自己心酔の極地に達して「他人よりは俺の言ってる事を聞けよ!ぴえん」てなるおっさんが様々な時代バージョンで変わり代わり言い続ける姿に滑稽さがあって、そこだけは面白かったと感じました。
どんな独裁者でも群衆という存在で「こいつらは俺の事を応援してるわうれぴー」て悦に浸るのは笑えたので、話が多少つまんなくて退屈でもまぁ許せるかなって思う。

⑰クロンダイク

スコア:
75/100

ロシアとウクライナの国境付近で爆撃で家に穴が空いても住み続ける妊婦と夫の話。

穴が空く映画というと同じ東京国際映画祭で上映された「ヌズーフ 魂、水、人々の移動」を思わせる。
しかし「穴が空く=自由になる、夢を観る」という戦争の爆撃が家族にとっては突破口的なヌズーフと異なり、本作は「穴が開く=社会の動乱で脅かす」という戦争の爆撃が家族のライフラインを破壊しようとする存在というストレートなコンテキストで展開していく。

この映画は実話であるマレーシア航空17便撃墜事件から着想を得た映画で、爆撃で空いた広大かつポツポツと点在する居住の画作りから妊婦のイルカ、夫のトリク、イルカの兄弟の三人の行く末が展開されていく。

イルカ夫妻の家はリビングルームの壁に南国の島のレイアウトが塗られている。リアルの広大で何もない更地と対照的に映される壁は映画が始まって数分で兵隊のミス?で爆撃されて穴が空いてしまう。南国の島という夫婦だけが共有する理想郷が外部の攻撃によって破壊され、ロシアとウクライナの個々人を殺す程の緊迫感という現実を突きつけていく。
この映画は一貫して家族だけのミニマムな理想郷を抱いている映画なのだ。
そして、本作はイルカ夫妻の行く末を描いていくにつれてイルカの兄弟とトリクとの間である亀裂を生じさせる出来事が発生する。これこそ、セルゲイ・ロズニツァ「バビ・ヤール」「ドンバス」で描いていた歴史的なしがらみの片鱗が牙を剥き事態の深刻さを色濃くさせる。

本作はそういった歴史的なしがらみ、歴史の中で起きた戦争という個々人の理想郷・幸せ・尊厳を破壊する刃に翻弄されそれでも強く生きていこうとするミクロな人間たちを描いていて、そこが魅力的な映画でした。

穴から広がる広大で途方もない画作り、「ヌズーフ」と同様な穴を塞ぐ事と攻防戦…も良いが本作の白眉はラスト15分の悲劇的な出来事だと思う。
ここに「敵の得体のしれない不気味さ」と「誰が敵か分からない中で尊厳を護る救いを汲む人は皆無の非情さ」を描いて、その先にある狂った世界を嫌でも刻ませる作りは大きなカタルシスがあって良かったです。

⑱石門

スコア:
69/100

大人になりかけた女性が妊娠した事で葛藤するお話。

この映画は監督夫妻の娘に「なんで私を産んだの?」と聞かれて監督夫妻なりの答えを映画で返したい、という思いで作られた。
監督の実父、実母をもキャスティングして個々人の豊かな経験を封入して「石門」に生きていくための壁が存在していくことを明示する。
「石門」とは本作主人公リンの子供から大人になる未熟な段階で置かれた妊娠した事、母親の借金・周りの医療訴訟という外部への環境で現状を打破するのが容易ではない事を象徴している。
実際にリンは映画の中で客室乗務員の学校を辞めて様々なアルバイトを転々と行うが、裏話ではアルバイトの経験を習得するのに時間がかかったらしくて、その姿を脚本に落とし込んでいるらしい。

そんな本作の製作話、本作を実際に観ると「リズムの映画」であり面白かったです。
つまりシャンタル・アケルマン「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」のマインドを継承したキャリア・国の過度期・社会上のしがらみ・ジェンダーという存在がリンのリズムを変速させていく姿に本作の魅力が詰まっていると感じました。

というのも本作はカメラワークに原則を設けていて、それこそジャンヌ・ディエルマン〜のような一定距離でリンを映し続けるカメラワークで一貫している。
家事ルーティン+αを行う主婦が徐々にルーティンのパターンが崩れ始めるジャンヌ・ディエルマン〜のように本作は外部の変化(妊娠、キャリア、コロナ)によって彼女の意思・行動のリズムが変化していく。
そこには中国社会で生き延びるには怪しくても利己的に突き進む利己心であったり、死産の医療訴訟を回避する良心に対して思わぬ形で返ってくる非情さ…と社会の冷たさが露呈していく。
が、本作は一貫して一人の女性のか細さ・孤独に新たな生命の尊厳を守り続ける姿を映し続けていて、そんな不器用ながらも石門を突破しようとするリンに突きつけられた現実のギャップにショックを感じました。

作風故に特に大きな見せ場がないため初見の意匠性を知らずに観たときは退屈さは否めなかったが、製作意図を知って面白さが増す意味で令和版「ジャンヌ・ディエルマン〜」な映画で良い経験が出来た気がします。

⑲ノベンバー

スコア:
97/100

シアター・イメージフォーラムにて鑑賞した作品です。
大傑作でした!!

本作は東欧映画のダークファンタジーなラブロマンス映画であるが、全ての要素で隙がない魅力的な映画でした。

一言でまとめるならば、東欧映画の視覚的な素晴らしさとハリウッド映画の見せ場の良さの良いとこ取りしたハイブリッド映画って感じがします。 まず視覚的な素晴らしさは言うまでもないくらい最高でした!
東欧映画でいうと「マルケータ・ラザロヴァー」「サタンタンゴ」、それ以外ならば「イレイザーヘッド」のモノクロ映画のアート要素強めの作品群を換骨奪胎した作品でした。 しかも本作の何が素晴らしいかって、そういった他作品群のエッセンスを引用しながらも互いを食う事無く、むしろ相互で絵的な魅力の底上げをしてくれる所にあるところが良いです。
シンメトリーかつ広大な屋敷と農村の狭く息苦しいカメラワークの対照的さ、クラットという独創的かつ「お前ドラえもんの道具かよwww」と思わせる利便さ・演出が村人に都合良く利用されて「お前いらね」と言ってバグらせて壊して、その衝撃できったねー池に投げ込まれた後に「NOVEMBER」とタイトルコールされた時は「これだよ!これこれ!!」と唸らせる演出の白眉でした。

画作りの素晴らしさもさながら、BGMも面白くて前述した「マルケータ・ラザロヴァー」のスペースオペラのような荘厳さ、「サタンタンゴ」「イレイザーヘッド」のようなおどろおどろしさもあるけど、それに加えて「そのBGMぶっこむのマジ?ヴァイブス上がるんだけど!!」と思わせるBGMの意外性もあって素晴らしかった!
総じて、画作り・演出だけでもチケット代を十二分にとるレベルの面白さでぶっちゃけ画作りの為に本作を鑑賞しても問題ないレベルです。

ストーリーも「ノベンバー」はハリウッド映画のような面白さも踏襲していて良かったです!
そこが他の東欧映画にない隙がない所以で、アカデミー賞外国語映画賞でエストニア代表として上映されたり、京都ヒストリカ国際映画祭で上映されて大好評だったのも頷けます。

本作の世界観は「サタンタンゴ」のように窮屈で閉鎖的である。村人も総じてクズで陰キャでクラットというドラえもん道具を使うのに「悪魔に捧ぐ血も使うのだるいし騙したろw」とか「お前そろそろ結婚したいっしょ?こいつ見た目はアレだけど良い男だぞ」と言って豚のような農夫と結婚させようとする…といった具合で世界観が終わってるのが面白いです。
しかも、本作に登場する悪魔のキャラが立ちすぎて彼の仕草のどれとっても素晴らしいので沢山笑っちゃいましたw

本作のストーリーは農村の娘リーナ、男爵の娘、青年ハンス(、豚のような農夫)の恋愛の行方を追っていく話である。 そのストーリーにはアニミズムとキリスト教を含む宗教神話を合体したような話であるが、その展開も素晴らしい。
宗教事情に詳しくなくても生と死、聖と俗という「黒水仙」テイストな主題に対して明快かつ爽快感ある展開で進んでいき、神秘的なラブロマンスとして非情に強度のあるストーリーラインに仕上がっている。
個人的には「そんなオチある?w」と思わせるほど、男女の恋愛の行く末について「そうゆう展開になるのかな?→あ、ハンスそうなるんだ…→てことはリーナも…?→え、そんなことあるの草なんだけど」 て感情が揺れ動くのが最高でしたw 
本作には様々な背景もあるので、その背景を紐解きながら鑑賞するのも面白いと思うし二度目観てあの世界観に再び包まれたい!と思わせる大傑作でした。

⑳チャイコフスキーの妻

スコア:
97/100

京都ヒストリカ国際映画祭にて鑑賞しました。
この作品の為に鑑賞して良かった!と強く言える大傑作でした。

詳しい感想はこちらにまとめました。日本公開を強く希望します!


■まとめ



ということで僕の映画祭めぐりは終わりです!!
今年は映画を深堀りするために様々な要素で分解して映画感想の解像度を高めてみましたが、これが凄く良くて勉強にもなったし有意義な時間を過ごせました。

一方で文字に起こす解像度については難しさを実感しています。これは次回以降の課題として精進します。

今後の予定としては11月〜12月の新作映画を鑑賞して、年末年始くらいに年間ベスト記事を出そうと思います。
今年は映画のクオリティがインフレしていて熾烈な選定になると思うので、乞うご期待を!

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