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読書感想:「いのちの科学の最前線 生きていることの不思議に挑む」チーム・パスカル

(見出し画像はChatGPTのDALL-Eで作成しました。)
10の異なる研究について書かれている。全てを紹介することはできないが、いくつか面白かったものを紹介したい。

いのちとは、戦略だ。生物はそれぞれに工夫された美しい戦略を繰り広げている。

いのちの科学の最前線

腸内細菌との共生

マウスを無菌状態で育てると、正常に生育しないという。おそらく人も同様で、菌の存在を前提として身体は作られている。もしも腸内細菌が存在しなければ、まともに生きていく事ができないそうだ。
この章の研究で驚いた部分は、腸の仲は厳密には「体の外」という部分だ。

口から食べたものは、食道を通って胃腸に届き、消化されて、胃腸の壁を通じて体内に吸収される。そして体内に吸収されなかったものの残滓が、肛門から排出される、すなわち私たちヒトは、中央に穴が開いた「一本の長い管」でもあるのだ。マカロニのようだと言っても構わないだろう。

いのちの科学の最前線

たしかに、いわれてみればそうだった。
腸内細菌の小さなシグナルは人間の心身に絶えず影響を与えるので、腸内細菌の状態を良い状態に変えることが重要だという。

脳の無い生物にも知性が

粘菌の研究についての章では、粘菌がまるで個性があるかのような動きをすることが書かれている。餌に対しての反応が異なるらしい。脳も神経細胞もないのに、まるで味覚を持っているような動きをするらしい。
粘菌ネットワークの実験がとくに面白い。
関東地方の地図が描かれた寒天のプレート上に、関東の主要都市に相当する部分に粘菌の餌を置き、山間部や河川、海に相当する部分には粘菌が嫌う光を当てる。東京駅に当たる部分に粘菌を置くと、東京駅と餌のある主要都市を結ぶ粘菌のネットワークが形成され、それは実際のJRの路線図とよく似た形になるというのだ。

免疫の暴走

病原体から体を守るための免疫についての研究。しかし、免疫は時には自分の身体を攻撃してしまう事もある、そして「自己免疫疾患」が起こらないようなブレーキの仕組みもある。

新型コロナウイルスの感染で患者が死に至ってしまうのは、ウイルス自体が起こす悪影響よりも、ウイルスに対する免疫応答が強く起こりすぎてしまう事、その現象が大きな要因なのである。

いのちの科学の最前線

コロナウイルスによる混乱は、まだ記憶に新しい。
私も感染した事があり、高熱が続いて苦しかったのを記憶している。
幸いにして死なずには済んだ。
マスクが買い占められたり、ワクチンについて突拍子もない話が出てきたりと混乱していたことを思い出す。いまではマスクの品薄などはなくなっているが(でもマスク高くなったと思う)ウイルス自体がいなくなったわけではない。できるだけ予防するしかない。

老いが制御できるようになったら

Nrf2の活性化で抗老化作用がもたらせるという研究。
まだ少し先の未来かもしれないが、老化が制御できるようになるかもしれないそうだ。
マウスの寿命は24~34か月で、Nrf2を活性化させているマウスは18~20か月目までは老化の表現型も出ず、非常に良い状態だが24か月目手前になるとNrf2を活性化させていないマウスより先に弱ってしまう。Nrf2活性化により、健康寿命は延びるが短命になるということで、

彼らが私たちに投げかけている問いは、ほどほどの細く長い人生か、活発で太く短い人生かを選べるようになった未来、私たちはどのように判断するのか、ということかもしれません(中略)
老化の研究と、そこから生まれる医療は、そうした自らの寿命と向き合う方法や選択肢をより増やしていくことだろう。つまり、死に方はより多様化するのかもしれない。そうした進歩派、老いることを身体的な苦痛からいくぶん開放するかもしれない。しかし同時に、死に方の多様化と対峙し、「選べない」という精神的苦痛もまた、新たに生まれるのかもしれない。私たちは、生き方だってうまく選べないことが多いのだから。

いのちの科学の最前線

心の問題にも流行がある

うつ病や依存症、摂食障害、解離性障害━。こころの働きに関係する病は、種類も症状もさまざまだ。だが、こころの問題に悩み、心理療法を受けに来る人達の訴えは、まるで流行があるかのように、時代の傾向があるという。(中略)
30年ほど前は、自傷行為や過食で悩む人が多かった。また、その前には「境界例」と呼ばれる、対人関係に問題を抱えている人たちも多く存在した。だが最近では、それらの相談はほとんどなくなった。代わりに増えてきたのが、「発達障害」である。

いのちの科学の最前線

発達障害の多くは「主体」が弱く、発達障害の悩みが増えてきたのは、時代が変化したせいではないか、とある。
現代は自然発生的なコミュニティが減って、個人の自由度が増したからこそ主体性の問題があぶりだされているそうだ。
(この本の発行は2022年なので最近と言ってもいいだろう)


多くの実験でマウスが使われていた。科学の進化の陰にマウスあり。
様々なジャンルの研究が紹介されていた本でした。

#読書   #読書感想文 #いのちの科学の最前線

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