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キーパーソンを重んじる医療の陥凹

「キーパーソン」医療や介護の現場で患者さんの状態の説明や治療方針を決める家族内の責任者、一番身近な家族と説明するとわかりやすいでしょうか。
今回の母の入院を通して、「キーパーソン」をあまりに重要視する病院はトラブルを避けたいのかもしれないけれど、かえって家族へ不安をあおっているという話です。

在宅療養中の母、骨折で入院しました。
でも、実は骨折だけではなかったのです。
入院したA病院では腸の状態が悪く、そちらの治療が優先されていました。
実家の近くに住む姉がキーパーソンになっています。
姉は母の介護には関わらず、病院には一緒に行くという関係でした。

整形外科医の私からすると、大腿骨頚部骨折は緊急手術の適応です。
それなのに、私にはそして父にも、はっきりした病名が知らされず不安がつのりました。
もう手術できないほど全身状態が悪くなっているのか?
お話ができるのか、ご飯を食べているのか、もしかしたら意識がなくて、もう会えないままになるのかもしれない。

今日私が話したいのは家族が入院した時に、医師が説明する先を統一化するキーパーソンについてです。

母が入院している病院と同じようなシステムが掲載されていました。

キーパーソンの役割についてかなりはっきり書いてあります。

病状説明を聞き、その内容を他の患者関係者に伝達していただきます。数名が同席して、一緒に説明を聞くことは差し支えありません。
②病院からの重要な連絡や問い合わせを受ける窓口となり、患者関係者からの要望などを取りまとめて、ご連絡していただきます。
③病状急変時あるいは緊急時に、病院から連絡を受ける窓口となっていただきます。
④キーパーソンと連絡がとれない場合には他の患者関係者にご連絡させていただくこともございます。

人吉医療センターのHPより

私が直接、主治医からの説明を聞きたくても、キーパーソンを通して来院してくださいと言われます。
以前は入院している家族に直接病棟で会えたので、本人から事情も聴けますし、病室の雰囲気で治療のやり方も何となく点滴しているな、足をギプスをしたのね。と理解することができました。医師の説明を聞くまでもなかったのかもしれません。
でも、今は感染対策で患者さんの近くに行かれない、様子も見られない病院がほとんどです。
そういう家族に対しては、病院を訪れたときに医師でなくてもスタッフから、「今日も朝ご挨拶していましたよ」、「先ほどはゆっくり寝ていました」「お昼ご飯は半分くらいでしたが、デザートは全部召し上がっています」
なんて、病院生活の一コマが伝えられるとか家族も安心しますし、病院への信頼も高まると思うのです。
一言もキーパーソン以外に話してはいけないというのは、杓子定規だなと思うのです。

先日、私は病棟に直接電話しました、医師からでなくても、意識があるかお話しできるかとても心配していること、なぜ骨折の手術がなされないのかキーパーソン(姉)から十分な説明がないこと。
「キーパーソンでなければ説明できません」を繰り返す病棟スタッフ(多分看護師に)。
思わず、「とても具合が悪いのですか?」と尋ねるとそれも答えられません、あなたが娘さんと電話では、わからないからとの返事。
名前と電話番号は伝えましたが、とにかくキーパーソンを通してくださいとの一点張り。
それなのに、Zoom面談はできますとのこと。
早速行ってきました。
母は健忘があるので、元気に話してくれましたが、骨折で入院していること、今どこの病院に入院しているかはわかっていませんでした。
にこにこして
「私は大丈夫だから、皆も元気でね。おうちで美味しいものを食べたいわ」
と安心させてくれました。
どうしてこの母の状態が病院から伝わってこないのでしょう。
キーパーソンは伝えられなかったのでしょう。

私も入院患者さんのキーパーソンを決めることは治療をスムーズに進めるため、医療側の負担を減らす(何回も同じ説明を繰り返すなど)ためには有効と思っていますし、実際に使っています。
でも、例えば年が同じくらいの旦那さんとか、あるいは仕事で忙しい息子さんの時は他の家族の方に説明することもありました。説明がわからなければ家族で相談して質問してもらってまた答えればいいんです。そのやり取りの中で治療や療養について決めていくものです。

そしてキーパーソンには、患者さん状態を家族間で共有して、疑問質問を医療機関に返して答えてもらう役割があるのです。それを十分に果たせない家族がキーパーソンになった時は柔軟に対応してほしいと家族の立場になった今切実に重います。
病院の対応を見ていると、家族間のトラブルを病院に持ち込まないでほしい、熱心な次女(私)よりも病院の方針で満足している今のキーパーソンの方が楽でめんどくさくないという考えているのかと穿った見方をしたくなります。

コロナ感染予防で病院を閉鎖している間に、患者さんの背景にある家族(キーパーソンだけではない)、そして今まで住んでいた背景を知ろうという気持ちが医療側から無くなっているように感じました。

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