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花札みたいな散歩をした(エッセイ) #シロクマ文芸部

紫陽花を窓越しに見ていた。その彩りに誘われて、散歩に出ることにした。

かれこれ2ヶ月半(チハヤさんが会いにきてくださった時をのぞいて)日常の中で散歩をしていなかった。全然そんな気持ちになれなかったし、外にでて、誰かに会うのも億劫だった。自分を無理に鼓舞しないことにしているので、日々のまにまに紛れていった。

昨日は久しぶりに昼寝をした。昼寝から目を覚ました後の気だるさったらない。1時間寝たら、自分のものではないような気がする体をその後1時間持て余す。これが嫌いなので昼寝を避けていた。それでも疲れていたので昼寝をした。そして案の定、ぼんやりした目覚め後の時間を過ごしているうちに夕暮れ時になっていた。窓越しに、紫陽花が見える。風は清涼に私を誘い出した。

そして、花札みたいな散歩をした。
本当は、花束みたいな恋をした、と言いたいところだけれど。

🦌

最初の曲がり角にある家の庭には「ねじりそう」がたくさん咲いていた。ねじりちゃんを思い出しながら、つい、と目を挙げると、セージの花が目に入る。


チェリーセージ
初恋の色ってこんな色かな
紫陽花の花びらに目を奪われる
こちらはくるんとしている
見惚れてしまう
いつの間にか
富士山の雪もだいぶ溶けました
大きな桑の木
小鳥たちがたくさん「なっている」みたいに
止まっています。
おいしい桑の実を
楽しんでいるご様子。


家から5分ほどのところにある川沿いの堤防の上を歩く。少し時間が遅めだったからか、いつもよりお散歩している人が少ないのでトラオさんに電話することにした。

この木立の中にはうぐいすの大家族が住んでいるらしい。夕暮れ時はことりたちも一日を終える準備を始めているのか、ひっきりなしにさえずっている。

ホ〜〜〜〜〜〜ホケキョ
 ホ〜〜〜〜〜〜ホケキョ

「いい声だね」とトラオさんにもうぐいすたちの声が届いたので、ふと花札って知ってる?と説明を始めた。

昔ながらのカードゲームでね、
梅とか桜とかそういう絵が書いてあるのがあるんだけど、
うぐいすも描かれてて
まあ、おめでたいっていうのかしら。

説明が下手+英語が下手、なので、分かったんだか分からなかったんだか、きっとトラオさんの想像と花札は別のものになっている、そう確信しながら歩いていた。

が、楽天モバイルの電波は突如悪くなって、無音になる。

もしもーーーしっ

と叫ぶこと数回。周りに人っこ1人いない状況で遠慮なく叫ぶ。そのうちにピロリンっと通話終了の音がなった。

とその時、目と目が合った。

つい口からこぼれた。

あら。そこの、お若いの。

え?もしもしって
僕のこと?
ここここんにちは
逃げていく様子はないので
トラオさんにもう一度電話して
見せてあげた

花札には鹿もいるんだよ、というのを言い忘れたなと後から気づいた。すっかりと嬉しくなって、足取り軽く家に向かった。ポツンポツンと雨が頬に当たる。それがなんだか気持ちよくて嬉しかった。日常は日常のままで。

それにしても花束、じゃなくて、花札みたいなお散歩だった。あ、シカに恋したんだから、やっぱり、花札みたいな恋をした、なのかしら。

小牧部長、小牧部長のお住まいの地域には鹿はいませんよね。私も鹿とばったり会ったのは初めてでした。この茂みにはキジや小鳥たちはたくさんいます。バード天国です。それからハクビシンも住んでいます。

今週はエッセイでお届けしました。

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