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ショートショート「国宝級の男」

「先生、お願いいたします。
 わたくしの脳の手術をしていただきたいんです。」

東武香澄とうぶかすみ55歳は
こう口火を切った。

「脳外科界の国宝とよばれる先生なら
 きっとできると信じてまいりました」

香澄の目はまっすぐとこちらを見ている。
躊躇いがちらちらと映しだされるように
うつむきがちだった睫毛の先から
視線をあげて、話し始めたときには
迷いは地球の果てに置いてきたような
強さを秘めていた。

思わず気圧されて、
その瞳をじっと見つめていた。
44歳になったばかりの自分からしたら
ずっと年上のはずの彼女に対して
なぜだか変な保護欲に駆られていることを
否定するべきなのか、
受け入れてしまうべきなのか迷っていた。

徳岩直志とくいはなおし44歳、
脳外科界の国宝とよばれる男。
彼の治療法は斬新であり、数々の難しい手術を
成功させてきた。

がむしゃらに医療に身を投じてきた男の前に
今、難題を突き付けようとする女が座っていた。

「わたくしの頭はさびついております。
 だって、身につけたはずの知識が
 頭がかすむように消えていくのです。」

なんだそんなことか、と
口にしようとした瞬間、
まるでそれを見透かしたように
香澄がこう続けた。

「先生、どうか、私の頭を手術で開けて、
 このさびをそぎ落としてほしいのです。
 先生ならできますよね?
 だって、脳みそが溶けてしまった
 患者さんをお救いになったと聞きました。
 脳がなくなっても大丈夫なように
 奥さんが体内で脳細胞を再生して移植したと
 伺ってわたくし感動いたしましたわ」

直志は不可能だと思いながら
もうすでに考え始めていた。
さびを落とすのはやっぱりやすりだろうか、
いやわさびをおろすなら
やっぱり鮫皮だ。といっても、鮫ではなく
エイが使われるときいたことがある。
どこにいけば、いいエイの皮が手に入るのか。
わさびには抗菌効果もあるというしな。

いやまてよ、さびといえば、わびだ。
ここはひとつ、茶室にこもって
考えるとしよう。

「東武さん、わかりました。
 なんとかしましょう」

人は直志を天才という。
しかし、実は、違う。
国宝級の素直さをもつ男なのだ。

※こちらはショートショート架空のお話です。実際の医療とは全く関係のない地球ではないどこかの星の出来事ですので、ご承知おきください。地球の方向けに書きましたので、地球基準に合わせております。

こちらの作品は
猫田さんのショートショートを読んで
突然書きたくなって書いてみました。
自分でも驚きのスピードで書き上げたので
なんのひねりもありませんが、
自分の中のちょっと違う一面を
垣間見ました(笑)

ぜひ猫田さんの作品もお読みくださいね。

猫田さん、快諾してくださってありがとう
ございました。
勝手にお話しの続き、
ハッピーエンドにしちゃいました♪





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