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ショートショート「クリスマスが嫌い」

百瀬七海さんの
クリスマスアドベントカレンダーをつくろうに
参加させていただいています。

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クリスマスは嫌いだ
この季節が憂鬱でしょうがない

付き合い始めてまだ半年もたたない頃のこと、
12月にまだ入ってもいないのに
クリスマスムード一色の街を歩きながら
彼はそう言った。

え!
大好きなのにどうしよう

奈江は自分の瞳が大きくなるのを感じながら
できるだけ落ち着いた口調で
理由を聞いてみることにした。

みんながクリスマスに向かって
まるで全力で一糸乱れず走っている感じが
すごく嫌なんだよね。

プレゼント選びとかすごいプレッシャーで
大っ嫌いなんだよ。

だから、僕はクリスマスプレゼント
いらないからね。

パチパチとまばたきをするのが
抑えきれなかった。
なぜなら、彼の部屋に飾ろうと
奈江はカバンの中に
小さなクリスマスツリーを忍ばせていたから。

がっかりする気持ちを
「まあ人それぞれだし」と納得させながらも
ついこう言っていた。

私は好きだけどな。
だって銀と白と赤って好きだもん。
クリスマスの色が好きなんだもん。

諦めが早いのと切り替えが早いのは
自分の良いところなのかもしれないと
奈江は思っている。

数日後にはちょっと未練はあったものの
今年のクリスマスは友達と楽しめばいいや!と
あっさりと気持ちを切り替えて、
彼へのプレゼントもなし!ということにした。

二人で迎える初めてのクリスマスだけど
まあ嫌いって言うんだからしょうがないよね
とプレゼントをもらうことも
綺麗さっぱりと諦めた。

とはいえ、いよいよクリスマスイブを迎えてみると
なんだかちょっぴり悲しくなってくる。

すれ違う恋人たちの周りはまるで
ふわふわと綿菓子で包まれているように
見えてしまう。

こうなったらチキンなんて絶対食べない

閉店間際のデパ地下で奮発して
美味しそうなキンパ(韓国海苔巻き)と
大好きなあんみつを買って
彼の部屋へ向かう。

そう、デートの約束だけは
数日前になぜかしていた。
たまたまいつも一緒に過ごす
第4金曜日だったせいだ。

窓辺にはあの日
奈江が勝手に置いてきた
小さなクリスマスツリーが
飾られている。

片付けられてしまうかと思ったけれど
不思議なことにそのままだった。

あれ?なんだか飾りが変わってる。

近づいてみるとツリーは
銀と白と赤になっている。

びっくりして言葉を失ってしまう。

え、まさか別の女が!

一瞬の間に映画一本分くらいの妄想をした後、
そんなわけないじゃん!と
頭を横に振っていると彼がこういった。

それ、奈江へのプレゼント

その言葉を聞いた途端、
なんだかポロポロと涙が溢れてきてしまう。
嬉しくてじっくりと眺めていると
ツリーの飾りがキラキラしている。

泣いたせいでキラキラに見えるみたい
別の女が!なんて
一瞬でも疑ってごめんね。
(心の声)

翌日、クリスマスツリーを
持って帰れ!と言われて
カバンに入れようとしたら

ちりんっと何かが落ちてきた。

銀と白と赤のネックレス

クリスマス大嫌いな彼と
クリスマスがやっぱり好きな奈江の
小さなお話はこの辺で。


***

どうぞ暖かいクリスマスを
お過ごしください♪


いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。