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大学受験のその先へ―大学生活のための入門書


世界史講師のいとうびんです。

今回はちょっと毛色が異なるテーマで。

この記事を書いている3月上旬は、大学受験がひと段落する時期です。多くの受験生のみなさんは、いよいよ進路がほぼ確定し、「受験生」から「大学生」へと向かう過渡期のような時期だと私は位置づけています。

だからこそ、大学への準備、とりわけ大学での研究に先立つ入門書に触れる必要があると思います。言い換えれば、大学受験で学んだことが、大学やこの先の人生でどのように糧となるのか、ということです。

というわけで、この時期だから手に取ってほしい、受験と大学の橋渡しとなるような本を、いくつか紹介します

ここでは、私が担当する科目である世界史から、人文学それも歴史学に関係するものを中心に述べていきます


もちろん社会人の方々、歴史の学びなおし、あるいは単に新しく読む本を探している、という方々にもおススメです!!


今回ご紹介するにあたり、以下の2つの特徴を重視しました↓

① 文庫や新書など、全体の分量が比較的少ないもの

② 文体や内容が専門的過ぎず、適度な読みやすさを備えているもの(※個人の感想です)


ではでは、前置きはこれくらいにして、ここから本題です~




【1】 小田中直樹『歴史学ってなんだ』

まずはこちら! これは歴史学専攻に進む方であればまずは読んでほしい入門書です。そもそも、受験も含めた「高校までの日本史・世界史」と「大学の歴史学」では、やることなすことがかなり異なっています。その違いを感じ取ってもらうための、うってつけの書がこちら。

歴史学専攻に限らず、教養課程などで歴史学の講義をとる前に、是非一読してほしい、そんな本です。講義の質がガラッと一変するハズ。

また、これが読み終われば、E・H・カーの古典的名著、『歴史とは何か』にも、目を通しておきたいところです。




【2】 橋爪大三郎×大澤真幸『ふしぎなキリスト教』

西洋世界の根源ともいえるキリスト教。なぜ西洋が世界を制したのか? その答えは、キリスト教という他に類を見ない極めて異質な宗教のせいだった…

一神教やユダヤ教からさかのぼって、キリスト教の特徴と宗教改革まで含めた歴史を、現代日本の大御所哲学者2人が、対談形式でわかりやすく紹介!

とにかく読みやすい、この一言に尽きます。この本が読み終わればキリスト教という宗教、そして西洋世界というものが、より新鮮に捉えられることでしょう。目から鱗の連続です(←これも聖書に由来します)!

また、この本を橋渡しに、関心が高まったのであれば、マックス・ヴェーバーの名著『古代ユダヤ教』にもぜひ手を伸ばしてみてください!




【3】 山口周『武器になる哲学』

人文学に進むにあたり、避けては通れないのが思想史。歴史上の様々な思想家が唱えてきた数々の思想を、どのように捉えればいいものか…

この本は、古今の思想を単に分かりやすく紹介してくれるだけでなく、人生のどういった場面で役に立つか、という実践的な目線で書いてあることで、より理解が深まります。

欧米のコンサルタントの世界では、必修といわれる哲学。なぜコンサルタントの世界で哲学が不可欠なのか? 文系の底力と思想家の神髄が凝縮された1冊です。

実は私の授業の文化史の元ネタは基本コレだったりもします(小声)。



【4】 V・E・フランクル『夜と霧』

歴史の中でどうしても埋もれてしまう市井の声。その時代・出来事を経験した一人の人間の記録を、私たち現代人はどうとらえるべきなのか。

この本のテーマは、ナチス・ドイツの悪名高い強制収容所。しかしその実態を知る人は意外にも少ないです。

著者フランクルは、自身もユダヤ人として収容所で強制労働に従事しながら、極限状態の人間がどのような反応をするかという心理学の立場に立って分析しようとします。この本が『アンネの日記』などと異なる一線を画しているのが、収容者でありながら、なるべく客観的な姿勢でありのままに自らの体験を捉えようとしていることです。終わりの見えない収容所生活の先に、彼は何を見たのか…


単なるナチスの所業の記録としてだけでなく、過去や記録とどう立ち向かうかという姿勢を養うものとして読むことで、私たち現代人に常に問いかけ続ける、そんな著作だと考えています。




【5】 兼好法師『徒然草』

ちょwwwなんでここで古典www、いえいえ、ちゃんと訳があります。

歴史学はある種、過去に対面することでもあります。しかし、だからといってかしこまり過ぎてしまうのも、また問題やもしれません。

『徒然草』といえば、古文の授業で必ずと言っていいほど触れたはずです。ですが、全段通してちゃんと読んだことはありますか?

『徒然草』がなぜ現代まで読み継がれるか?それは読者がついつい同感を抱くからにほかなりません。兼好法師が700年近く昔に述べたことは、多様性が叫ばれる現代でも充分通用します。

要は人間ってそうそう変わんないってことですね。

過去に生きたのも、私たちと同じまた人間たちである。そんなことをこの作品は、私たちに再認識させてくれるのです。そうしたエピソードを数多く拾った兼好法師は、洞察力が抜群としか言いようがありません。


それ以上に、「古典って発見なんだな」という意識を私に目覚めさせた、そんな作品でもあります。

『徒然草』は漫画化作品も数多くありますが、まずはサクッと、というならこちら↑ 数ある漫画化作品の中では、この中公文庫のものが一番コンセプトが素晴らしいです!




【6】 エリック・H・クライン『B.C.1177-古代グローバル文明の崩壊』

予め断っておきますと、この本はガッツリ専門書です

ですが、それにもまして、何といっても面白いんです!!


この本のテーマは、紀元前12世紀末期の東地中海。この時期に、当時の地中海世界を代表する数々の大国や勢力が、原因不明の衰退や滅亡を同時並行に繰り広げます

なぜこの時期にこれほど大規模な混乱が生じたのか? そしてそのカギとされる「海の民」の正体とは…?


最新の考古学の成果を反映させた一大スペクタクル! 現行の教科書にさえ反映されていない、最新の発掘や研究の成果がこれでもかと盛り込まれ、毎回「え、そうだったの!?」という驚きの連続! 

次の展開への続きが気になってしょうがない、知的興奮を刺激してやまない本書。世界史選択だった皆さんには、ぜひ手に取ってほしい一冊です。




【7】 上田信『海と帝国 明清時代』

こと大学受験の中国史の授業で、明や清はやや消化試合のような、味気ないものになりがちかもしれません。

しかし、明・清朝期の中国は、非常に活発に人・モノ・カネが行き交う、世界規模の交流に彩られた時代だったのです。

そんな明清の中国をとらえなおすこの一冊、なかでも「海禁」という政策の概念がしっかり理解できるものです。

春秋・戦国時代や三国時代にない、独特の魅力にあふれた明・清を、ぜひこの本でご堪能あれ!


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以上になります。今回もいかがでしたでしょうか?

ここで紹介した書籍を機に、みなさんがより歴史や人文学の奥深さに触れていただければ幸いです。


今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました!

読んでいただいただけでも、充分嬉しいですよ!