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-今の時代に物語を紡ぎ続ける意義について- 劇団おぼんろ主宰・末原拓馬インタビュー

2022年2月13日より開幕する、劇団おぼんろ第20回公演『パダラマ・ジュグラマ』。おぼんろとホリプロインターナショナル、講談社とのタッグ作として世に放つ三作目となる本作は、“信じることの強さ”についての物語だ。数々のおぼんろ作品で作・演出を手がけ、絶えず新作を産み続けてきた主宰・末原拓馬が今作に選んだ『パダラマ・ジュグラマ』は、2014年に上演し3500人強を動員した、劇団にとっても特別な物語である。8年の時を経て今作の上演を決めた理由、新たなキャストとともに物語を続けていくことへの意気込み、そして、今の時代に物語を紡ぎ続ける意義について末原拓馬に話を聞いた。

■数ある作品の中から『パダラマ・ジュグラマ』を選んだ理由

ーおぼんろとホリプロインターナショナルのタッグは今作で3作目、講談社とは2作目ですね。そして、今回は新作でなく、過去に劇団公演として上演した『パダラマ・ジュグラマ』を選ばれました。そこにはどんな思いがあったのでしょうか?

今作に限らず、作ったものを「普遍的なもの」にしたいという気持ちが常にあって、いわゆるシェイクスピアや近松門左衛門のように、全ての作品が“古典”とよばれるものになっていったらいいなって思っているんです。そんな想いから「一度上演した作品も繰り返していかないと」という気持ちに駆られて……。特に演劇という媒体は、上演していないと存在していないと一緒になってしまう。「自分たちの作品を長続きさせたい」という気持ちと「誰かにとって救いになるものをどんどん渡していかなきゃ」という気持ち。そんな想いから、今回はあえてかつて上演したものを選びました。新作を描き続けるというリズムと、常にこの世界に自分たちの物語が在るということ。その二つをこれからも同軸で続けていきたいですね。

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ーおぼんろとして上演してきた作品が数多くある中、なぜこの作品を選ばれたのでしょうか?

『パダラマ・ジュグラマ』は、もう一度上演することを最も躊躇していた作品だったんです。過去の自分たちにとってすごく大事な作品で、当時の僕たちを反映している作品でもあった。その時間があまりに美しく完璧で、まだ客観視できないくらい、あの時間が自分の中にはまだ生きていている……。だから、正直なところ「大切に閉じ込めたままにしたいな」って気持ちもあったんです。でも、だからこそ続けないと、という想いも同じくらいの強さでありました。子どもの頃可愛かったからといってそのままにしとくのはダメじゃないですか(笑)。あと、もう一つの大きな理由は“劇団員の声”でした。

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ー劇団員のみなさんからも、「今作でいきたい」という声が多く挙がったと。

そうですね。どれもが自分たちにとってかけがえのないものだけど「これがやりたい」という声が最も多く大きかった作品が『パダラマ・ジュグラマ』だったんです。「エネルギーが大きい」「あのメッセージが好きだ」「この役をもう一度やりたい」。それぞれのモチベーションと言葉で各々が語ってくれたんですけど、そんなポジティヴな声が挙がりました。作品を作る時って、ものすごく多くの人間が関わってくれる。語り部であるキャストをはじめ、スタッフ、参加者……その全員が大事なものを注ぎ込んで一つの物語ができると思っているんです。そんな風に命懸けで作った物語を続けていく責任が、旗を振っていた人間、同じ船に「一緒に乗ろうよ」って言った人間にはあると思うんです。だから、「続ける」っていうニュアンスが大きい。再演というよりも続演という感じですね。

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■予期せぬ出会いとともに続ける、物語の行方とは

ー時を経て『パダラマ・ジュグラマ』という物語を続けていくことになったわけですが、新たに加わったキャストの方も多くいらっしゃいます。過去のインタビューで『「客演」という言葉はあまり好きじゃない』と仰っていたのが印象的だったのですが、今作のキャスティングにはどんな経緯や想いがあったのでしょう。

そうですね、その気持ちは今も変わりません。劇団員と客演じゃなく「一座を作ろう!」というモチベーションで今も作品に取り組んでいます。今回の一座には、この物語を知っている役者と初めての役者が混じっているけれど、そういった部分もフラットに見つめていきたい。キャスティングに関しても「必要な縁が巡ってくるはず」という想いがあるので、自分一人で決めるというよりも全員に探してもらいました。その結果、こうして魅力ある方々と会わせていただきました。予期せぬ出会いによって世界が広がること。それは、今の自分が求めていることでもありました。自分の懐の中だけで全部を完結させてしまうと「こんな感じになるだろうな」って予測ができてしまう。そこに収まってしまうのは、これから先のおぼんろにとってもきっとよくないし、何より自分自身が新たな出会いを楽しみたいっていう気持ちがありました。

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ー“予期せぬ出会い”とともに、同じ作品の中にも新たな物語が吹き込まれていくのですね。稽古を通して感じるみなさんの魅力についてもお聞かせいただけますか?

富田翔さんとは、奇しくも僕が初めて商業演劇の演出をやった作品にご出演いただいた、というご縁があって……。久しぶりに一緒に作品を作りますが、とにかく人間が魅力的。色気があり、今回のトシリモ役における素養も備わっていて、立ち振る舞いもすごく素敵です。彼自身が持っているものを融合させて、役をどう化けさせていくのかがとても楽しみ。

同じくトシリモを演じるのが、同い歳で過去に二回の共演歴もある八神蓮。おっとりしている蓮に対して、荒くれ者で暴力的なトシリモですが、芝居に向かう気持ちの純度やオーダーへの的確なレスポンスでみるみる役にハマってくれています。蓮はきっと、自分の世代を代表する俳優になるんじゃないかな。

リンリンを演じる塩崎こうせいは、演劇界をどう変えていくかという話を絶えずしてきた同士であり、おぼんろにとってもほぼ劇団員のような存在。セクシャリティやジェンダーの問題にも関わってくる重要なキャラクターを塩崎に演じてもらえるのは心強い。彼は、物語において自分の役がどんな存在であるべきかをしっかり押さえながらも外してくる、とてつもなく強度のある芝居をする役者です。そんな塩崎と劇団員の高橋倫平とともに、リンリンのような存在が決して特別ではなく、普遍的な存在であるということを伝えられたらと思っています。

ー様々な縁が重なった頼もしい座組の魅力が伝わってきます。今作で初めてご一緒する方にはどんな印象をお持ちですか?

岩田華怜さんは、お芝居が大好きで発せられるエネレギーがとても強い方。若い頃から人を楽しませてきた経験をお持ちなので、彼女がいることで起きているものが作品において大きいと感じます。

登坂淳一さんは長年NHKアナウンサーでいらした方です。最近はドラマやバラエティなどでもご活躍されていますが、舞台は今回が初めて。最初にお話をした時にその聡明さに心を奪われました。それもそのはず、長年日本の顔として、テレビの向こうから世界のことを僕たちに伝えてくれていた人ですから。プロ根性というものに関しても一流。セリフの入り、オーダーへのレスポンス、どれもがとても素晴らしい方です。役回りでいうと、うちの劇団員のさひがしジュンペイと同じところになるんですけれど、持っているムードやタイプが全然違うところがまた面白いなあと。

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■ミックスキャストという新たな挑戦を前に

ー今回は、ダブルキャストならぬミックスキャストということで、回によってキャストが違うというのも新たな試みではないでしょうか。

そうですね。ただ、ダブルキャストやミックスキャストだからタイプの違う人を同じ配役にしよう、といった狙いはないんです。もちろん、「この役はこんな感じのことができる人がいいな」というイメージはあるんですけど、古典の演劇が繰り返し様々な俳優や演出家によって上演されてきたこと。そういった物語の幅をより重んじています。違う人がやっても同じになるということと、違う人がやるとこんなに変わるんだということ。その双方を感じたかった。一人一人が全く異なる個性を持っているので、それらを生かしたいと思っています。


ーそんな新たなキャスティングの方法や稽古の中で、苦労していることややりがいを感じる瞬間など、日々物語にアプローチするにあたって感じていることをお聞かせください。

ミックスキャストは、ダブルキャストともまた違う。これをやるためには全員が全てを把握しておかなければならない、という前提があると思っています。物語の意味はもちろん、セリフのどこが大事なのか、そこで何が起きているのか。そういった基本を全員が理解した上で自由に遊んでいくという方法で挑んでいきたい。ここさえ押さえておけばいい、稽古をつけられたことだけやればいい。そういったことでは成立しないものに挑戦していくのだと感じています。全員の作品愛がイーブンにならないと叶わない景色を共に見たいと思っています。

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ー今の稽古の状況、雰囲気はどんなものでしょう?

ちょうど立ち稽古が始まったところです(取材は2022年1月某日)。まず、みんながどうやって芝居を作っていくのか。そういうところをしっかり見た上で、どう進めていくかを構築している最中といった感じでしょうか。今は、少しずつそのあたりが分かり始めて、一座のルールができ始めたかな、というところ。基本的には物語をどう伝えるか、この物語をこの9人で、8日間で、より多くの人にどう広めていくかというモチベーションがその最たるところかなと思います。だから、物語の深度を深めるディスカッションは稽古中にもたくさんしています。これってこういう意味だよね?とか、このキャラクターはこうじゃない?とか。そういうことを最初は自分がトップダウン的に話していたんだけど、徐々にみんなが主体になって会話をしてくれるようにもなって……。それがとても嬉しいですね。

■世界が変わったこの二年で、末原拓馬が見つめてきたもの

ー遡ること2年前、ホリプロインターナショナルとの初タッグの折に「誰かと手を組むからといって何かを変えるのではなく、変わらないままでやっていきたい」と語られていたのも印象でした。あれから2年と2つの作品を経て、ご自身の中で何か変化はありましたか?

劇団員の一人が「今は第三章だね」って言っていたのがとても印象的で、しっくりきています。第一章は僕が一人芝居をやっていた学生の頃、第二章は劇団おぼんろになって五人で作品を作っていた時。そして今は、大きなカンパニーと手を組んで、世界に広めていくという時期に入った。2作品を経て、チームで時代に切り込んでいくっていうフェーズに入ってきたことがようやく理解できてきた感じがあります。インディーズがメジャーになって、変わった変わらない云々……っていうところを恐れていた2年前があり、それから3回目を迎えて、今は「むしろ自分は変われないんだな、どうやっても、おぼんろは変わらないんだな」っていうことがはっきりわかって。じゃあ大丈夫だ!って悩まずにやれるようになったのが大きな変化かな。一番大事なことは、いかに物語を広げていくか、それによっていかに多くの人が救われるか。そこさえブレなければ、道はどこから行こうといい、という風に思えていますね。

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ーこの2年、世界を取り巻く環境も大きく変わりました。末原さんはそんな中、どんなスタンスで物語や創作に向き合ってこられたのでしょうか?

今の世界がこうだからこういうものを作ろう。そういった感覚は今に限らず、ずっとありました。リアルタイムに自分の中にあるものを形にすることで自分自身も生き延びている感覚があるから、新作を書くこともちろん自分にとって重要です。これまで自分たちは「物語は世界を変える」って言い続けてきたけれど、今は世界の方が変わりつつある。だけど、それを知った今だからこそ、書けることもあるんじゃないか、と思っています。つまり、「世界は変わる」ということに対しての物語。そういうものを作ろうと思っています。

ー“何もかもがうまくいかない世界がありました”。これは数年前から在った『パダラマ・ジュグラマ』のあらすじの最初の言葉です。この一文を目にした時、たしかに今の時代を思わずにはいられませんでした。今作が今、上演されること、そこにどんな思いを込めたいか。最後に上演を前に、末原さんが感じていることをお聞かせください。

安心どころだったものが崩れ、ずっとあると思っていたものがなくなり、いると思っていた人がいなくなって……。そんな中で「どうやって生きていく?」っていうこと。正直しんどいな、って思うことが今の時代誰しもにあると思います。だけど、生き抜ける方法は必ずあって、どんな時でも人は笑うことができる。幸せを諦めることはない、ということ。そういうことを考えながら物語を描いたり、作品を作ったりしています。今作は、“信じることの強さ”についての物語でもある。現実よりも何を信じているのか、信じられるのか、っていうことの方が実はよほど重要で、信じているものが真実である必要もなくて……。だから、僕らはどんな場所でも幸せになれる。そういうことを突き詰めるための道具として、僕たちは物語を持っているのだと思っています。

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劇団おぼんろ 第20回本公演『パダラマ・ジュグラマ』

【作・演出】末原拓馬
2022年2月13日(日)~2月20日(日) 全14ステージ
【会場】
Theater Mixa
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1-14-3 Mixalive TOKYO 6階
https://mixalivetokyo.com/

<出演者>
タック役:末原拓馬(劇団員)
トシリモ役:富田翔/八神蓮
リンリン役:高橋倫平(劇団員)/塩崎こうせい
メグメ役:わかばやしめぐみ(劇団員)/岩田華怜
ジュンバ役:さひがしジュンペイ(劇団員)/登坂淳一

<チケットについて>
一般発売:2022年1月22日(土)正午~
絶賛発売中!

プレミアム 10,000円(税込)
特典:毎ステージごとに内容が変わる「日刊パダラマ新聞」付き

一般 7,800円(税込)

いいね 投げ銭
※初日の13日18:00の回に座席数限定でいいねを発売します。 いいねは基本入場無料。 終演後に言い値での投げ銭になります。
お客様は事前にお席だけご予約してご来場いただき、 お代は当日投げ銭になります。

取り扱い:楽天チケット

<生配信について>
発売日:2022年2月10日(木)正午
料金:プレミアムチケット 5,000円(税込)(特典:日刊パダラマ新聞付き)
(auスマートパスプレミアム会員価格4,500円(税込))
一般チケット 3,500円(税込)
(auスマートパスプレミアム会員価格3,000円(税込))

生配信日程:2月20日(日)11:30 / 16:00
アーカイブ配信期間
・2月20日(日)11:30公演→当日17:00~2月28日(月)23:59まで
・2月20日(日)16:00公演→当日22:00~2月28日(月)23:59まで
配信プラットフォーム: uP!!! (アップ) 

おぼんろ公式サイト
おぼんろ公式Twitter

【表】劇団おぼんろ第20回本公演『パダラマ・ジュグラマ』2022年2月13日(日)~2月20日(日) 全14ステージ

<プロフィール>
末原拓馬 profile】
1985年7月8日生まれ。劇団おぼんろ主宰、俳優、脚本家、演出家。演劇にとどまらず、絵本作家、イラストレーター、詩人、作曲家、作詞家としても活躍。路上での独り芝居から徐々に注目を浴び始め、CATプロデュース『HAMLET-ハムレット-』、NODA-MAP『ザ・キャラクター』、T Factory『愛情の内乱』など多くの舞台に出演。主宰劇団おぼんろの公演や自身の単独公演を基盤に活動。その他外部公演での脚本の提供や演出も行う。2020 年4月よりホリプロインターナショナルとのタッグもスタート。『メル・リルルの花火』(配信公演)、『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』を上演。

おぼんろ profile】
2006 年、早稲田大学在学中、末原拓馬を中心に結成。大人のための寓話を紡ぎ出すことを特徴とし、 その普遍性の高い物語と独特な舞台演出技法によって注目を集める。末原拓馬の路上独り芝居に端を発し、現在は4000 人近くの動員力を持つ劇団へ。廃工場や屋形船、特設テントなどあらゆる形で劇場を追求するとともに、どんな場所でも360度を取り囲む立体的な上演スタイルで、絵本の中に迷い込んだような独特な世界観を確立させている。2020 年4月より、ホリプロインターナショナルとのタッグを組み、『メル・リルルの花火』(配信公演)、『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』を上演。来る2/13より3作目となるタッグ作であり、劇団おぼんろ第20回公演として『パダラマ・ジュグラマ』が開幕する。


取材・文/丘田ミイ子  

カメラマン/ヨシノハナ


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