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キャリアを重ねた今だからできる役も――時代や自身の変化の中で、女優・香椎由宇が大切にするたった“ひとつ”のこと

坂口健太郎主演、ノンストップ・ドクター・エンターテインメントドラマ『Dr.チョコレート』に出演中の女優・香椎由宇。2020年代に入ってから本格的に活動の再開を決意したものの、コロナ禍の直撃もあって、仕事のペースはなかなか取り戻すことはできなかった。そこからさらに3年、『Dr.チョコレート』は新たな一歩になるかもしれないと彼女は語る。時代や状況の変化、それに対応する仕事への取り組み方――まだまだ模索の真っ只中にいる香椎の胸中を聞いた。

■復帰しようとしたときにコロナ禍がはじまってしまった

「あまり休もうと思って休んでいたつもりではなかったんです。ただ、スケジュールが合わなかったり、2020年に本格的に復帰しようとしたときにはコロナ禍になったりして……。タイミングが合わないまま、気がついたらまた数年が経っていた、という感覚です」
 
望むと望まざるにかかわらず、人の営みは絶えず変化していくもの。弱冠14歳で芸能界に足を踏み入れ、『ローレライ』、『リンダリンダリンダ』、『WATER BOYS』といった作品に立て続けに出演、すぐに人気女優となった香椎由宇。一方、プライベートでは結婚、出産を経ながら女優業も並行して続けてきたものの、2021年に放送されたドラマ『オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ』に参加するまで、じつに6年以上現場を離れていた時期もある。「どういう風に仕事へ向き合っていたかも思い出せないくらいのブランク」(香椎)がある中で、昨年には8年半ぶりにレギュラーメンバーとしてのドラマ復帰も果たした。
 
「ちょうど一年前、久々にレギュラーとしてドラマに出演させていただいて(『恋なんて、本気でやってどうするの?』の中川岬希役)。充実していて、現場の感覚を少し取り戻せたところはありましたが、 “復活したぞ”“働いているぞ”と言い切れるまでにはなりませんでした。そこからまた一年が経ってしまったんです」

■収録現場の激変に驚き。「“芸歴何年”という扱いはしないでほしい(笑)」

 時間の経過の早さに戸惑いながらも、2023年に入り、香椎が「本格的な復帰を」との意気込みで参加しているドラマが、4月から放送がスタートした『Dr.チョコレート』である。眞島秀和が演じる医師・北澤の妻役として、第3話から登場。これを機に、新たな仕事の向き合い方を見つけたいという。
 
 「今回は現場で過ごす時間も入る回数も多いので、よりしっかりと感覚を戻すことができれば良いなと思っています。急に10代の頃のような、仕事一辺倒の活動ペースに戻すのは難しいですけど、今の私の状況で、仕事との向き合い方を確立していければと。幸いにも、今回のドラマは、以前お仕事をご一緒したことがある監督やスタッフの方々がいらっしゃるんです。だから、久しぶりの再会で嬉しい気持ちと、(現場を離れていたことに)若干の戸惑いもあるのですが、“ごめんなさい、離れていたのでもう一度ゼロから”と、今の正直な気持ちをさらけ出せるのは大きいですね」
 
 ただ、香椎が現場を離れている間、コロナ禍もあって収録現場の雰囲気は大きく変化を余儀なくされた。そこに難しさを感じたのも事実だと、正直に告白する。
 
 「まず、マスクをしているのでみなさんの顔が見られない。こうしたインタビューもそうですけど、仕事をする相手がどのような顔なのか、どういう表情で受け止めてくださっているのか、何もわからないまま現場が終わっていくんです。撮影のときは一時的にマスクを外しますけど、カメラが回っていない時間が前後にあるじゃないですか。それでも、距離が近いと“あんまり話しかけちゃいけないのかな”という雰囲気にどうしてもなってしまいます。それはもう、私がこれまで体験したことがない緊張感でしたし、はじめて現場に入ったのと同じ気分なんです。だから、“芸歴何年”という扱いはしないでほしい(笑)。新人と変わらない気持ちです」
 
 久々の現場は、いつの間にか見たことのない現場へと変化しており、そこに合わせていく難しさを感じながらの復帰となった。現在も、「会社や家族など、周囲の協力がどうしても必要」な状況の中で、ベストな取り組み方を模索している香椎。一方で、女優業は求められなければ参加できないシビアな世界ではあるが、そこに居心地の良さを感じているのも確かなようだ。
 
「『Dr.チョコレート』への参加が、今後どういう風に動いていくかの試金石になりそうな予感がしていて。そう考えると、10代の頃は贅沢な時間でした。家を出て、親になってみないとわからないことがあったし、逆に言えば、自分ひとりの責任でできた時間や環境も代えがたいものでしたね。最近は、子供たちが学校で過ごす時間が増えたので、その分だけ自由な時間があり、仕事モードに切り替えることができます。もしかすると、こういう現場や、そこまでの移動中が一番落ち着いて、自分のことを考えられる時間になっているかもしれません」

■ものづくりって楽しいんだなと思えたのが、『リンダリンダリンダ』だった

 香椎は子育てに追われながらも、女優としての復帰を自然なことと捉えていた。そこには、天職とは言わないまでも、演じることの楽しさや、現場での経験が彼女自身を形成していった一面があり、そこからは離れがたいと思わせる魅力があったからだろう。話は10代の頃に遡り、香椎が「仕事」として女優業を捉えるきっかけになった作品について、このように語ってくれた。
 
 「ものづくりって楽しいんだなと思えたのが、『リンダリンダリンダ』(05年)でした。それまでは役を演じることにただただ必死だったんです。『リンダ~』は女子高生がバンドを結成するお話で、演じると同時に演奏もしないといけなくて。そういう意味でも、自分たちでゼロからキャラクターを作り上げないといけなかった。スタッフさんたちとも一緒にスタジオに入ってくださったり、現場で撮影用のライティングをしている間に演奏の練習をしたりとか、とにかく現場の一体感がすごく強い作品でした。そこでちゃんと周りを見て、現場の流れも見ないとダメだということを痛感しましたね。そんな密な時間を過ごしたのもあって、あのときのバンドメンバー(ペ・ドゥナ、前田亜季、関根史織)とは本当に仲良しで、いまだに連絡を取っていますね」

■やってみたい役ですか? 美味しい役ですね(笑)

 このときに確立された「仕事にとって大切なこと」は、彼女の一部として今も息づいている。時代や状況は変われば、自身の立場も変わり、変えなければいけないことは増えていく。一方で、変わらないもの、もしくは変える必要がないものも確実に存在する。香椎が仕事をするにあたって “不変”だったものとは?
 
「キャラクターを演じる立場からすると、作品は監督のものなんです。すべてを背負っているのは監督で、できるだけ監督のイメージに役を近づけることが大切だと思います。一方で、キャラクターのことを一番良く知っているのも自分ですよ、という自信はつけて現場に臨みたいですね。例えば、演じるキャラクターの性格や癖を考えたときに、こういった話し方はしないだろうって考えたり。それくらい、自分の中でキャラを確立させた状態で監督と向き合うという気持ちだけは昔から変わっていないです」
 
 10代の“香椎由宇”に触れた人と、20代、30代の彼女に触れた人では、そのファーストインプレッションが異なるのは当然である。ただ、それもキャリアを重ねることの醍醐味とも言えるだろう。次に進むべき道は、一体どこなのか。香椎自身も、その道の先に何があるのか、楽しみながら日々を過ごしているように見えた。
 
「今はそれこそ、目の前にあるものをきちんとやっていくので精一杯です。やってみたい役ですか? それは美味しい役ですね(笑)。これまではクールな役どころが多かったので、私のイメージにないような役を望んでくださるのであればそれも嬉しいですし、ブランクがこれだけあったからこそできる役というのもあるのかな。これから初めて香椎由宇を見てくださる方もいらっしゃると思うので、すべてプラスに考えていきたいと思います」

【リーズンルッカ’s EYE】香椎由宇を深く知るためのQ&A

Q.やってみたい趣味は?

A.ずっと陶芸をやりたいと思っているんです。土をいじるという行為に集中できそうなので。目の前にある仕事をやりながら、そうした趣味からも新しいものが見えてくるようになれば良いですね。

Q.これから芸能界を目指す方へアドバイス!

A.このお仕事って、周りに何かを言われてその通りにするというのがあまり大事ではないと思います。言われた通りにしたとしても、自分で責任を負わなければならないので。なので、自分でこうしたい、こうやりたいというのは持っておいた方が良いかもしれません。私は10代前半からこの世界にいるので、周囲から心配もあって「ああしなさい、こうしなさい」と言われてきましたけど、評価を受けるのは自分なので、「これは違うな」と思ったら、意見してみることも大切です。最初はそれが難しいと思いますが、流されすぎるよりは絶対に良いと思います!

<編集後記>

アメリカのロサンゼルスに、「The Linda Lindas」というティーンズ・パンクバンドがいて、昨年はサマソニで来日したり、今年はコーチェラ・フェスティバル(アメリカ最大級のポップス/ロックフェス)に出演したりと、大変注目されています。このバンドが日本でも知られるようになったのは、ザ・ブルーハーツの「リンダリンダ」のカバーを動画サイトにアップしていたからなのですが、じつは彼女たちが「リンダリンダ」を知ったのは、映画『リンダリンダリンダ』を観たことがきっかけだそう。バンド名も、この映画に由来しているそうです。香椎さんにこのエピソードをお伝えしたところ「鳥肌立ちました!」とびっくりしつつも喜んでくださいました。配信が当たり前の時代になって希薄になるものもあれば、こうやって言語が異なる若者たちの刺激になることもある。香椎さんへの取材を通して、そんなことを実感しました。

<マネージャー談>

俳優としてだけでなく、人間として、すごくかっこいい女性です。
リプトンのミルクティーが原動力で、いつも飲んでいるお茶目な一面も!
これからも新しい香椎由宇を見せていくために挑戦していきます。
一度目があったら、香椎由宇の魅力に虜になると思います。
私は虜になった一人です。(笑)

【撮影の様子はこちら!】

【プロフィール】
香椎由宇(かしい ゆう)
1987年2月生まれ、神奈川県出身。小学6年間をシンガポールで過ごした帰国子女。10代前半から芸能界で活動し、数々の映画、ドラマに出演。2022年には『恋なんて、本気でやってどうするの?』にレギュラー出演、現在は『Dr.チョコレート』に参加している。

『Dr.チョコレート』
日テレ系土曜夜10時放送
Huluでも配信

取材・文/森樹
撮影/嶌村吉祥丸

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