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若き白石隼也が出会ったマーク・トウェインの著書「不思議な少年」。稀代の作家が本を通して投げかけたメッセージへのアンサーを、二人の時を越えた対話の一部始終を、舞台の上で見せる。

若き白石隼也が出会ったマーク・トウェインの著書「不思議な少年」。稀代の作家が本を通して投げかけたメッセージへのアンサーを、二人の時を越えた対話の一部始終を、舞台の上で見せる。
 
「仮面ライダーウィザード」の主人公・操真晴人として1年間という時間を一つの座組の中で過ごしてきた時間を役者としてのターニングポイントだった、と言う白石隼也。その後も主演作品をはじめ朝ドラ、大河ドラマ、映画など幅広く映像作品で活躍を続ける。そんな彼が若手俳優時代に出会った一冊の本が、時を経て彼自身の手で舞台作品に。初舞台から10数年。監督としての視線を持つ彼が、初めて自身の演出、脚本を担い、舞台制作へ挑戦する。


■ターニングポイントは「仮面ライダーウィザード」

——2008年の俳優デビューから15年となった今、役者を続けてこられた原動力はどういったところにあると思われますか?
白石 いろんな場面で、いろんなモチベーションが僕を引っ張ったのはありますが、一番大きかったのは“反骨精神”ですね。特に20代の前半は「このままここで終われないな」という悔しい想いが強かったです。20代後半からはその感情とは違う、「よりいいものを作りたい」という欲求が、この仕事を面白くさせているのかなと思います。
 
——そんなキャリアに於いて、ターニングポイントとなった作品を教えてください。
白石 やっぱり「仮面ライダーウィザード」はデカいですね。僕を見てくれる方、応援している方に自分のやっていることが届いていることを初めて実感できた瞬間でした。自分たちが(芝居を)考えて、工夫して、とやっているものをお客さんがしっかりキャッチしてくれて「ちゃんと届いている」と思えましたし、そういう意味でのやりがいを感じられたのはあの現場が初めてでしたね。いい経験でした。お芝居以外にもイベントの出演などいろいろな仕事をやらせてもらえましたし、さまざまな経験をさせてもらいました。最近ではロケで高校や大学に行くと「子供のころにウィザードを見ていました」っていう子たちもいるんですよね。あの頃応援してくれていた子供たちが今、そういった年齢になったのだなと感慨深いです。
 
——映像作品から舞台作品へ。初挑戦したころの思い出をお聞かせください。
白石 2011年でしたね。20歳くらいで舞台に初挑戦をしたのですが、なにも出来なかったな、というのが思い出です。舞台での芝居を始めたばかりというのは僕だけで、共演者のみなさんは何年も舞台経験がある方ばかり。出演前から事務所のレッスンを受けてはいたのですが、実際にこんなにも出来ないものなのかという想いもありました。それでも自分が演じるからこその表現を模索しましたし、それを先輩たちが見ていてくださって、誉めて、励ましてくださったのも強く憶えています。出来なくてつらかった思い出よりも、みなさんにうまく乗せていただいて、楽しく舞台で生きられた経験でした。千秋楽ではガラにもなく大号泣もしましたね。役として物を見て、セリフを発することが出来たのは初舞台が初めての体験でもありましたね。その実感があったことがその後の自分にとっては大きかったです。初舞台で「こういうところを目指せばいいんだ」と芝居のヒントが見えたことは、今に繋がっています。

■演出家、脚本家としての白石隼也の顔

——このたびご自身が脚本、演出をされる舞台「The Mysterious Stranger ザ・ミステリアス・ストレンジャー」の上演が控えておられますが、演出に意識が向いた経緯をお聞かせください。
白石 きっかけは「この作品を表に出したい」という欲求でした。今回の舞台もとてもユニークな原作ですし、「この作品を世に出したいけれどそう考えているのは僕くらいしかいないのではないか」と思っていたから。これは自分でやるしかないと動き出しただけでした。何年か前にWOWOWでショートフィルムを撮ったのですが、それもやりたい作品があったから監督を務めたんです。演出をやりたい、ディレクションをしたい、というそもそもの欲求は「この作品を世に出したい」という想いが形になったからこそということで間違いないです。もちろん演出をすることの面白さを感じてもいますけれども。
 
——演出することの面白さはどんなところにありますか?
白石 絵にしても芝居もカメラも照明も美術に関しても自分が思い描いていたものを総合的に形にすることが出来るので、下準備したものや努力がしっかりと絵に映るんです。役者として準備をしつつも「果たしてこれが正解なのか」と思いながらやってきたものが、考えれば考えるだけ「正解」として形にできることは監督や演出の面白さだなと感じます。
 
——脚本についてはいかがですか?今回の「The Mysterious Stranger ザ・ミステリアス・ストレンジャー」は脚本も担当されています。原作をどのように調理したいですか?
白石 100年以上前に書かれた本で時代感の齟齬もありますし、2023年の東京の人に見せるためにそこでのギャップを埋めるために、ただ舞台サイズに編集するのではなくマーク・トウェインと僕との対話を織り交ぜたいと思って書きました。マーク・トウェインは晩年の著書であるこの本で「人間はこんなに愚かだ」とその存在を否定しながら亡くなりましたが、僕は今を生きているので、彼の綴る圧倒されるほどの“人間は愚かである”という理論に立ち向かわなくてはいけない。特にこの2年くらいの時間、マーク・トウェインから言われたことへのアンサーを一生懸命に考えてきました。本作にはサタンとテオという登場人物がいます。サタンは悪魔で、テオは人間。サタンの言葉はマーク・トウェインの想いとしてお借りして、原作ではサタンの言葉を受け入れるテオですが僕の脚本では反論させていきたいと思っています。

■白石の見る出演者・斉藤莉生という役者とは


——キャストとして斉藤莉生さんが決定しています。舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」のスコーピウス役で非常に素晴らしいお芝居を見せていた斉藤さんの印象をお聞かせください。
白石 ものすごくピュアな子ですね。今の芸能界は10代からやっているのが当たり前になってきて、普通の社会なら大卒1年目とか社会人になってまだ少しくらいの時期と言えるような20代前半の役者さんだったとしてもお芝居がかなり成熟してきているし、人としてもう出来上がっているな、と共演者を見ていても感じます。でも斉藤くんはまだ若い役者さんとは言え大学を出てから「ハリー・ポッター」に合格をして東京に出てきて芝居を始めた人だからこその本当のピュアさを感じさせる役者さんです。きっとこれから芸能界でやっていく上でいろいろなことを考えなければいけないし、大人になっていかなきゃいけない瞬間もたくさん生まれるのでしょうけれど、まだ染まっていない今の彼と作品を共に出来ることは貴重だなと思いました。それとお芝居への情熱と繊細さ、そして危うさをも感じさせる役者さんなので、今の彼にしか出せないそういった部分を僕が引き出せたら面白いものが出来るだろうと予感しています。
 
——そんな斉藤さんと共に作る「The Mysterious Stranger ザ・ミステリアス・ストレンジャー」をレコメンドしてください。
白石 大人の社会の中にいながら「大人はわかってくれない」という感情を抱きつつ反骨精神を持って自分なりに抵抗もしてきたけれど、やはりその大人と向き合わなければならず、もがき苦しんでいた時代に出会ったアメリカでとても尊敬されている作家マーク・トウェインが晩年に書いたとてもペシミズムに満ちた作品です。僕が抱えていたモヤモヤとした負の感情を全部言語化してくれていて、読んですごく楽になったことを憶えています。それからずっとこの本は僕の心の中にあって、巡り巡って舞台をやるようになったことで舞台化することとなりました。それがちょうどコロナ禍に入る直前の2020年。コロナ禍で一度は止まった企画が再開となったときに今度はウクライナでの戦争が。この本は反戦的なストーリーでもあるので「今やらなければいけない」と心を決めました。今の世の中で起きていることに対してみなさん自身が考えるきっかけになるかとも思っています。ぜひ見に来てください。

【リーズンルッカ’s EYE】白石隼也を深く知るためのQ&A

Q.夏になると必ずやることを教えてください。

A.必ずやるのは「素麺を食べる」ことです。夏になると、シンプルな素麺を作ることが多いですが、茹でるときに差し水をしたり、締めるときには冷水でしっかり締めるようにするなどちゃんと調理をした方がおいしいものになると信じています。最近おすすめの食べ方が、女優の杏さんが紹介していた「豆乳アレンジ」です。めんつゆ3に対して豆乳7くらいの割合でつゆを作って、そこにきゅうりとミョウガと長ネギを細かく切って、ごまと共に入れて、さらに食べるラー油をちょっと入れるんです。担担麺っぽい感じになって、すごくおいしいです。

Q.今、夏休みがあったらどんなことをして過ごす?

A.学生時代は夏休みもサッカーしかしていなかったです。合宿や練習、試合に明け暮れていましたが、それはそれですごく楽しかったです。今は30歳も越えましたし、ゆっくり過ごしたいですね。軽井沢のような避暑地でのんびりしたいです。休みともなれば僕はだらだら過ごしたいタイプでもありますが、暑い東京を離れて何日も過ごしやすい避暑地で過ごせるとなったら、時間を見つけてテニスなんかもしたいですね。ほどよく体も動かせて、しかも好きなテニスが出来たら幸せですね。それから渓流釣りもしたいなぁ。それが理想の夏休みです。

<編集後記>

20歳の頃に出会ったマーク・トウェインの「不思議な少年」がずっと自分の中に住んでいた、という白石さん。我が家にも高校生になった「シャバドゥビタッチヘンシーン」していた子供がいるのですが、白石さんのようにさまざまなことにぶつかりながら人生に影響を与える素敵な本に出会ってくれたらいいなぁ、と感じました。多感な時期にもがきながらも自分の道を見つけた白石さんの背中はあの頃のキッズたちにも響くことでしょう!

<マネージャー談>

最近の白石は、ドラマの撮影をしながら、note「into」の準備をしながら、舞台の準備をするという怒涛の日々を過ごしておりました!
初めての脚本と演出ということもあり、もがき苦しみながらも、楽しそうに準備をする姿を見てきました。
素敵な作品になっていると思いますので、ぜひ劇場でお楽しみいただけたら嬉しいです。
お待ちしております!

【作品概要】
■作品タイトル:The Mysterious Stranger ザ・ミステリアス・ストレンジャー
■上演スケジュール:7月22日(土)~7月30日(日) <予定>
■浅草九劇
■脚本・演出・出演:白石隼也
■音楽:サミエル
■出演:坪内守、斉藤莉生
■原作:マーク・トウェイン「不思議な少年」(1916年刊行The Mysterious Stranger “Chronicle of Young Satan / A Romance”)
■概要
マーク・トウェインは、「トムソーヤの冒険」、「王子と乞食」などアメリカ文学を代表する児童小説作家だが、
晩年に人間の存在そのものを否定するペシミズムに溢れた作品をいくつか遺した。
そのうちの一作がこの「不思議な少年」である。
中世オーストリアのごく平凡な田舎町に、自らをサタンと名乗る若者が現れ、数々の事象を巻き起こしながら、人間の本質を暴いてゆく。
世界的パンデミックの収束と共に訪れた東ヨーロッパでの戦争。世界の均衡が脆くも崩れようとしている今、日本も例外ではないだろう。
トウェインのユーモラスで魅力的な人物描写、奇想天外なストーリーを織り混ぜて
現代版の新たなる“The Mysterious Stranger”をここに登場させたい。 


【プロフィール】
白石 隼也(しらいし しゅんや)
1990年8月3日生まれ。神奈川県藤沢市出身。2007年「第20回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で準グランプリを受賞して芸能界入り。2008年、俳優デビュー。2012年「仮面ライダーウィザード」で主人公・操真晴人/仮面ライダーウィザード役に。2016年にNetflix配信ドラマ「グッドモーニングコール」のスピンオフドラマで自身初の監督、脚本、出演を担当。2021年にはWOWOW開局30周年プロジェクト「アクターズ・ショート。フィルム」で監督作品「そそがれ」を制作した。近作にドラマ「テイオーの長い休日」伊集院大樹役、ドラマ「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」村木一太役など。
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取材・文/えびさわなち
写真/まくらあさみ


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