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矢野聖人が“ありのまま”よりも見せたい姿とは? 13年ぶりとなる写真集に込めた思いと「キングオージャー」以降の仕事観

惜しまれつつも終了した特撮作品「王様戦隊キングオージャー」にて、シュゴッダムの王・ラクレス・ハスティー/オオクワガタオージャーを演じた矢野聖人。今年、33歳を迎える彼が3月15日、13年ぶりとなる写真集「TONE」(東京ニュース通信社)を発売する。
 
聞くところによると「普通の写真集にはしたくなかった」との思いで、自身のこだわりを詰め込んだという今回の1冊。いったいどんな思いがあるのか。20代から30代へと年齢を重ね、そしてキャリア初となる特撮作品への出演を全うした今、矢野が考えていることと併せて話を聞いた。

■必死にしがみつく心を思い出した「王様戦隊キングオージャー」

——約1年間出演し続けた「王様戦隊キングオージャー」(以下、キングオージャー)。昨年、リーズンルッカに登場した際には「特撮作品への出演を通して子供の目線を意識するようになった」とお話しされていましたが、それはなぜでしょう?
 
矢野 やっぱり子供たちから常に見られているという自覚からなのかなと思いますね。電車の座席に座っていいものかとか、当たり前なんですけど信号をめちゃくちゃ気をつけるようになったとかは、今までよりも意識するようになりました。
 
あとは、本当にちょっとしたことでいうと子供が着ている服をめっちゃ見るようにもなりました。「キングオージャー、着てないかな?」って。残念ながら、着ている子に会ったことはないんですけどね (笑)。
 
——そうなんですね。街で話しかけられることは増えましたか?
 
矢野 いや、全く(笑)。お子さんがいる時間帯、土日の昼間に外で活動していないからかもしれないですけどね。実は何度かGロッソ(ヒーローショーの準専用劇場)に行ったのですが、誰1人として声をかけられませんでした。
 
——それは意外です。
 
矢野 めちゃくちゃ堂々といますし、変装もしていないので視線はすごく感じるんですけどね(笑)。シャイなファンの人が多いのかも知れないです。
 
——なるほど。日常生活における変化を教えていただきましたが、キングオージャーへの出演を通して、仕事観の変化はありましたか?
 
矢野 “特撮だから”というよりは、これから活躍していくであろう若い俳優たちと一緒に1年を過ごしたことで考えたことはありました。彼らのハングリー精神だったり、必死にしがみつく姿勢だったりを見て、思い出すことがたくさんあったんです。今まで培ってきた技術でなんとかするだけじゃなくて、もっとそういうマインドで戦わなきゃいけない現場に行くべきだなと。みんなとまんべんなく話した中で、そう思いました。

■13年前から変わったこと、変わらないこと

——今回発売する「TONE」を作ることが決まった時はどう思いましたか?
 
矢野 正直、信じがたかったです。今年もう33歳なんですけど、今までの人生で写真集というのにほぼ縁がなかったので。出したくないわけではなかったんですけど、自分にとっては遠いものだと思っていたので考えたこともなかったんですよね。
 
——巻末の手書きのプロフィールページは、2011年に出版した「YANO MASATO BOOK」(2011年10月8日、宝島社)にある質問と同じものに回答しているそうですね。
 
矢野 これは、僕のアイディアなんです。13年前に出版した本を持っている人が、今回の1冊を買ったときに、より楽しめるんじゃないかなと思って。もちろんキングオージャーをきっかけに、僕のことを知ってくださった方も多いと思うので、そういう方に僕という人間を知っていただくためにもいいかなと。
 
——実際に書いてみて、変わった部分はありますか?
 
矢野 必然的に変わっていることはありますね。2011年当時はLINEではなくて、メールが主流だったのでそういう部分とか。あと、ちょっとした贅沢を感じる瞬間が駅から家までタクシーに乗ると回答しているあたり19歳だなって。今は回らない寿司を食べるって書いていますから(笑)。
 
——逆に変わらない部分は?
 
矢野 結構変わっていないと思いますよ。睡眠時間とか、移動中に欠かせないアイテムが11年前はiPodで、今はイヤホンって書いてある部分とか。お風呂に入って最初に洗うところも変わってないですね、どっちにも頭って書いてあります。

■ありのままよりも、できる役を見せたかった

——写真集パートは、ページごとに印象がガラリと変わっているなと感じました。
 
矢野 今回は矢野聖人としてのありのままの表情を見てもらうというよりも、僕ができるいろんな役を見てもらうことを意識しました。ひとつひとつのシチュエーションについても、打ち合わせの段階でいろんなアイディアを提案させていただきましたね。
 
——なぜ、そのようなコンセプトにしたのでしょう?
 
矢野 出すからには、普通の写真集じゃ嫌だなと思ったんです。それで「じゃあ何がいいかな」と考えた時に、自分のプロモーションにもなるようなものにしたいなと。
 
もう30歳を過ぎているので、かわいい感じとかいらないかなとも思ったんです。僕が20代だったら、バンバンやるべきだと思うんですけど、そこに重きを置かなくていいかなと。それで、髭ありのまま撮影していただいたり、ロックっぽいメイクをしていただいたりしました。本当に2日で撮ったとは思えないぐらい、いろんな表情をしています。
 
——2日で!?たしかに、そうとは見えなかったので驚きました。撮影中に印象的だったことはありますか?
 
矢野 表紙の写真は窓越しで撮影していただいたものなんですけど、実はヘアメイクさんのスマホに貼ってあったシールが光に反射して、虹みたいな感じになってできたカラーなんです。それに、光の粒みたいに見えるものは窓のホコリ。偶然が重なった上で、ライティングとかピントを調整していただき、出来上がった1枚なんです。

■30代になってからの役者観の変化

——先ほど「20代だったら…」とお話しされていましたが、お芝居においても年齢を重ねたことで変化したことはありますか?
 
矢野 20代のうちは「何かこの作品で得たい」「新しい武器を手に入れたい」という気持ちが大きかったのですが、30代になってからは「自分が身につけてきた技術をどうやって、作品に活かせるか」考えてお芝居するようになりました。自分の持っているもので、どれだけ戦えるかという思いが強くなったんですよね。
 
——具体的に矢野さんの強みはなんでしょう?
 
矢野 表情、もっと言えば目ですね。それは20代のうちに気づいたし、20代のうちにトレーニングをしました。
 
——どんな時に気づいたのでしょう?
 
矢野 しっかりと芝居場がある作品のときに、目のことを言っていただけることがすごく多かったんです。それで瞬きをしないようにトレーニングするようになりました。
 
——なぜ、瞬きなんですか?
 
矢野 僕が作品を見ている時に、視聴者として気になったからというのが最初だった気がします。例えば、シーン的に瞬きしない方がいいなと思うことってあるんです。特に感情的なシーンだと、見ている人の気持ちを揺さぶらなきゃいけない。そのときに瞬きの回数が多いと、見ている側の気持ちが切れちゃう気がするんですよ。
 
——具体的にどのようにトレーニングしたのですか?
 
矢野 市村正親さんが「テレビを見ていて、CM中だけ瞬きをしない練習をした」と話していたことを知って、自分も20代前半のときから取り入れてみることにしました。今では余裕でできるようになりました。
 
——すごいですね!最後に、今後やってみたい役を教えてください。
 
矢野 ベタですけど、ヤクザものとかいいですね。キングオージャーでは悪役っぽくあったものの、最終的にはヒーローだったので、もう1回悪に戻りたいなと。もちろん爽やかな役とかもやってみたいんですけど、悪の方が落ち着くんですよね。屈折してる方が自分の個性が最大限に出せそうな気がするんです。

【リーズンルッカ’s EYE】矢野聖人を深く知るためのQ&A

 Q.3月は出会いと別れの季節。思い出は?

A.ぱっと思い出すのは、舞台『身毒丸』主演オーディションが3月だったなってこと。そう言う意味では、僕の転機になった月だなと思います。矢野聖人としての人生が始まった3月だなと。

Q.プライベートで最近ハマっていることは?

A.ジムですかね。写真集の撮影が終わってから、ちょっとさぼっちゃってますけど(笑)。ジムでの目標は、どの種目においても自分の体重以上の重さを持ち上げられるようになること。格闘技がすきなこともあって、井上尚弥さんとかの体に憧れます。

Q.この春、新たに始めてみたいことは?

A.ボクシングをやりたいなと思っています。実は1回だけ、無料の体験レッスンに行ったことがあるのですが、なかなかハードで2回目から行かなくなっちゃったんですよね。何も知らない状態なのに、会員の皆さんと同じメニューをやったこともあって。でも、やっぱり格闘技を見ていると、やってみたいなと思います。

<編集後記>

小雨が降る中、ハイテンションなカメラマンさんによる独特な撮影に終始、自然な笑顔を浮かべる矢野さん。そんな矢野さん、インタビューでも答えてくれたように移動中は音楽派だそうですが、寝る時はラジオ派なんだとか。特にお気に入りは芸人さんのラジオだそうで「ネタも好きなのですが、芸人さんがプライベートで起きたことを相方さんに話している生っぽさが好きで。気づいたら1時間半フルで聞いちゃうこともあるんです。そんな時は、寝不足になりますよ」と楽しそうに話してくれました。写真集や芝居に対する熱い思いを語る時とは一変した柔らかな雰囲気。まだまだ矢野聖人から目が離せなさそうです。

<マネージャー談>

写真集は、実は今回初めましてのカメラマンさん、スタイリストさん、ヘアメイクさんで撮影をしていただきました。初めてと思わせないチームワークで現場は終始和やかだったりパッション的だったり、楽しく進んでいきましたが、撮影までの準備期間が短い中、ボクサー並みに身体づくりを追い込んでもらいました…!これは本当に脱帽でした…。
なので、今ボクシング始めたら、かなりいい線いきそうな気がします(笑)

<撮影の様子はこちら!> 

【プロフィール】
矢野 聖人(やの まさと)
1991年12月16日生まれ。東京都出身。2010年、ホリプロ50周年事業 、蜷川幸雄演出の舞台「身毒丸」オーディションでグランプリを獲得。同年、テレビドラマ「GOLD」で俳優デビューを果たした。代表作は2019年ドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」悠木倫役、2020年大河ドラマ「麒麟が来る」土岐頼純役、2022年WOWOWオリジナルドラマ「薄桜鬼」斎藤一役、2023年「王様戦隊キングオージャー」ラクレス・ハスティー/オオクワガタオージャーなど。2024年3月15日に写真集「TONE」を発売した。
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取材・文/於ありさ
写真/是永日和
スタイリスト/藤長祥平
ヘアメイク/友森理恵


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