#たりない親父

夕方仕事終わり。家の駐車場に車を停め見上げるとリビングには明かりがつきうっすらと2人の人影が映る。扉を開けると炊きたてのご飯、生姜のほのかな香りとジューっと焼ける肉の匂い。今日は生姜焼きか。
走ってくる足音が聞こえる。「パパ今日は学校で友達と野球したよ。今度キャッチボールしよ!」
こうなった時、野球経験がなく球技全般が苦手な場合どう切り抜けたらいいだろうか。
このたりない親父はまず短い距離でキャッチボール初め、徐々に距離が長くなり子供が成長したら「お前もいい球が投げれるようになったな。あっという間に抜かれちまったよ」と褒めて褒めてあとはフェードアウトすればいい。そうすればきっと子供はプロ野球選手にでもなれるだろう。
しかし私のたりないはこういう逃げ方は出来ないだろう。
つまり私のたりないは「ご飯は残さずに食べなさい」と言えない少食ということである。

私は自他ともに認めるガリガリである。学生の頃部活をしていたから筋肉があったが辞めてからは筋肉とともに体重も消えていった。
運動習慣の減少は食欲の減少に繋がった。
職場のおばちゃんからは「ちゃんとご飯食べてる?」毎日のように言われる。
さすがにこの体型でコンプレックスを感じずには居られないしできることなら沢山食べて腕や足を太くしたい。鶏みたいな足だから半ズボン履くにも抵抗がある。

こんなこと言うと「食費がかからなくていいね」と言われるが、食事に無関心な訳ではないので自分がその日その食事の時の気分で食べれるものを考えなくてはいけない。だから食材は毎回買わなくてはいけないのであまり得をしている実感がない。

普段からももちろん少食で、妻ともほとんど同じ量しか食べれない。
妻は痩せ型おチビなのだがそれのどこに入るのかと言うくらいよく食べる。ご飯が終わった瞬間に次のご飯のことを考えている。
デート中もご飯の話が多いし、趣味の欄には食べることと書く。
なぜそれでおチビなんだ。
特に辛いのは旅館の夜ご飯だ。ご存知おもてなしの塊である。いつまで食事が出てくるの。このタイミングでこの厚みの肉!?最後の米は殺しにかかってないか?と思う。
少食の私はもちろんこんな量は食べれないので、たくさん残す。とりあえず一口だけは食べて料理作ってくれた人ごめんなさいって思いながら残す。
しかし向かいに座ってる妻はいつもニコニコしながら全て平らげる。仲居さんも妻の皿ばっかり下げるから私の前には皿が溜まり続けている。
ちょっとは気を使って下げてくれよとは思うけど自分からは言えない。
なので旅館の夜ご飯は毎回しんどい思いをすることになる。温泉は好きだし和の雰囲気も好きだから旅館自体は好きなのが悩みだ。

来月2人が出会った記念があり、再来月は夏休みを合わせるし、その次の月は妻の結婚式、そのまた次は付き合い始めた記念日。毎月の旅館は私の将来の「ご飯は残さずに食べなさい」と言えるようになるための修行だ。

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