3.なぜ自閉症児は同じ動作を繰り返すのか

自閉症児は同じ動作を繰り返すことが多い。例えば、何回も体を揺らしたり、同じ言葉を繰り返したりします。この様な事は、比較的低年齢の頃に起こりやすいのですが、色々な事を学び、経験し、言語スキルが向上することで、減少していきます。
 この様な言動を理解するために、彼らの「理解出来る範囲が極端に少ない」ということを思い出しましょう。今までに学び得た言葉や、動作の中で、気に入ったことや強い印象があった事を繰り返すのは、精神的安らぎ・安定、解放感等を得るためなのです。少なくともこれらの事ができるのだという事をデモンストレーションしているのです。
同じ言動を繰り返すという現象は、自閉症児に限られた特殊なものではありません。例えば、記憶力が弱っている老人が、記憶に強く残っている楽しかった思い出や成功談を何回も人に話して聞かせることがあります。これは、自閉症児が同じ動作を繰り返すのと同じ現象です。
多くの出来事を記憶していたのに、頭がぼけて、色々な思い出を忘れてしまったが、特に楽しかった事などは覚えているので、それを繰り返し、繰り返し人に話すのです。これを単なる自慢話として受け取るのは必ずしも正しくありません。ぼけ老人と自閉症児との差異は、彼らが、健常者には理解し難い奇妙な動作をしない事にあります。
 
本の題名は不明ですが、自閉症者が書いたある本に次のような事が書かれていました。
  自分の足を軸にしてグルグル回ったり、部屋の中を縦横に、また斜めにつっきたり、その他にも体をシーソーのように左右や前後に揺らしたりというような行動はよく見られる。
   このように自分の体を動かすことによる知覚の変化に、ある種の積極的な意味を見出しているのであろう。自分で自分に刺激を与えて快感を追求したり、ある種の特別な生理的な状態に達しようとしている状態かもしれない。
   このような自己刺激を加えることによって、感覚・運動的な喜びを味わっている場合があると同時に、心理的な息苦しさのようなものから解放されることを求めてやっている場合もあるようだ。
 
このような見解は、参考になると思います。「自分の体を動かすことによる知覚の変化に、ある種の積極的な意味を見出しているのであろう」と述べていることは、自分自身の行動に対するする明快な動機付けが出来ていない事を意味します。
知っている言葉がまだ少なく、言葉による思考が出来ない段階にいる自閉症児は、言葉による自己世界を築けていない段階にいるのです。この段階にいる人は、自分の言葉で自分の体を動かす事の出来ない人です。なぜなら、自分で自らの行動を制御できないため、自分のしたい動作ではなく、自分で出来る動作のみをする事になるからです。それで、自分の行動の動機付けが出来ないのです。
したがって、この段階に止まっている人は、必ずしも知能に問題があるからではなく、言葉を駆使するスキルが低いだけなのです。ですから、訓練によって口を動かすスキルを発達させる必要があります。
また、「心理的な息苦しさのようなものから解放されることを求めて」いるという見解は真実を言い当てていると思います。
 

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