子育て、という業界に足を踏み入れまして
「突発性発疹」というのをご存知だろうか。
子育て業界では単純に「突発」と略されることが多い。
要するに赤ちゃんが突然高熱を出し、その後発疹が出ることらしい。
子どもを持つまでまったく知らない用語と現象であった。
が、ひとたび 子を持ち熱を出した子どもを病院に連れていくと当然のように
「突発は、もうやってる?」
と聞かれるのだ。
予習も復習もなし、いきなりの実地。
何もかもを知っている前提、いや知らなければいけないそれが子育て業界なのだ。
スパルタである。
きょうび老舗の寿司屋でも もう少し手ほどきしてくれよう。
今は3歳の長女がまだ赤ちゃんの頃、足に発疹ができ病院へ行ったことがある。
上記の質問を挨拶のようにされ、業界初心者だった私はそう略されることを知らず
「とっ、ぱつ?」
となり
「たぶん、まだ、やって、ない?」
と質問に質問で返すというおろかな行為をしてしまった。
先生は他にも
「塗り薬とか、なんか使ってるの?」
と聞いてきた
お風呂上がりに毎日、保湿クリームを塗っていたので
「市販のワセリンを…」
と答えると
「ワセリンって言っても色々あるから。具体的な商品名は?」
ぐいぐい聞いてくるタイプの先生である。
毎日使っているのに、商品名など全くおぼえていない。なんて間抜けな母親なのだ。
「黄色いパッケージで。あ、あと業界No.1!みたいなことが書いてあったような…」と特徴を伝えるも
「お母さん、そういうことじゃ、ないんですよ」と言われた。
それはそうだろう。私だってそういうことじゃ、ないだろうなと思いながら答えているのである。
ただ私が出せるヒントはここまでなので先生にはこれでなんとか正解にたどり着いてほしかったのだ。
結局この時は突発ではなく、正解にもたどり着かず、自分のぼんやり具合を確認させられるに終わった。
それから、いつ「突発」がきても慌てないように、折に触れてはネットで対処方法をみている。
というのも、突発はその高熱により赤ちゃんが「痙攣」することがあるらしいのだ。
恐ろしすぎやしないか。
しかもここで慌ててはならないのである。
「まずは深呼吸をするのです。」なのだ。
そして時計を見て痙攣している時間を計るのである。
その長さによりそれからの対処方法を変えよ、というのだ。
痙攣している人を前に冷静でいられる気がしない。
できる気がしないが、出来る出来ないではない、やるのだ。
大体においてこのスピリットが必要なのがこの業界なのである。
そして先日下の子が急に高熱を出し、病院へ行くことになった。
引っ越したので、あの時とは別の病院だが前回の失敗を踏まえ保湿に使っている物の商品名などを暗記しいざ!と出発した。
「突発はしましたか?」
きたよ!
「いいえ、まだです。」
「高熱ですが、突発か風邪かは五分五分ですね。」
などのやりとりがあり、薬を出すので
「今何か飲んでいるお薬や使用している塗り薬はありますか?」
と聞かれる
きたよ!
「市販のワセリンを…」というと
「はいはい、なるほど」
と、あっけなく納得され
「3日ほど様子をみてまた来てください。」
と言われた。覚えた商品名を披露することはついぞなかった。
ここで気が抜けた、とはいかない。なぜなら私にはまだやらねばならぬことがあるのだ。
この週末、久し振りに泊まりで旅行をしよう!と宿など予約をしていたので、これからキャンセルの連絡をしなければならないのだ。
この組んでいた予定を直前でキャンセル、も子育て業界あるあるらしい。
トゥルルル
電話をするとホテルの受付なのか加藤と名乗るクールガイがテキパキと質問をしてくる。
予約日は?
予約名は?
キャンセル理由は?
一部ではなく全キャンセルでよいのか?
更にこれから私がすべき手続きや確認事項を伝えてくる。
ともすると冷たすぎるようにも感じる対応である。
もしすると最近の世情のせいでキャンセル業務が多かったのかもしれない。
クールガイ加藤は悲しみの中で誕生したのかもしれない。
などと妄想しつつ
「はい」
「そうです」
「いいえ」
などこちらもクールに答え、会話も終わろうというときに
「では、最後にご本人確認の為にご住所を」と言われた所でなぜか見事に間違え本当に本人なのかと加藤を大変困惑させてしまった。
病院ではトチることなく済んだのに!
気落ちしながらも「それでは、お手数をおかけして…」と切ろうとしたその時
「どうぞお大事になさってください」
え?
あの加藤が……優しい。
「いつかぜひお越しください。お待しております。」
完璧な緩急のオペレーション、日常に潜むツンとデレに心揺さぶられ「必ず行きます」と己の心と加藤に誓い電話を終えた。
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3日後すっかり熱は下がり、湿疹が確認され「突発」と診断された。
医師は原因が分かったし、治る兆しだから良かった良かった、というようなことを告げ、私も良かった良かった同調した。
突発を乗りきったのだ。
ノー痙攣でよかった、と安心した矢先
「これが1回目」
突然のカウントである。
「数ヶ月以内に2回目ある子が五分五分だから」
知らなかった。
世のお母さん方はどこで学んでいるのだろうか。
ママ友が一人もいないことの弊害がまさかこんな形で表れているのか…
今回のことで本当にこの子育てという業界は油断ならないことを改めて学んだ。
そして、私たちの担当医の口癖はおそらく「五分五分」であることも今回の学びである。生かす場はない。
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気に掛けてもらって、ありがとうございます。 たぶん、面白そうな本か美味しいお酒になります。