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舞台「立ち呑みパラダイス」感想

立ち呑みパラダイス 昨年、一昨年と観劇した立ち呑みパラダイスの続編。昨年中止になり、その時は観に行く予定はなかったけど、今回はタイミングも合い、観劇へ。

続編。設定上は5年後。
前回で、”その後”が少し語られていて、今回、どうなっているか楽しみだった。
少し、設定が違うように見えたところもあったけど、続編にはつきものということで。

そうなると気になるのが、5年間での変化をどのように表現するか。
5年という歳月が、長いか短いか。これはその時の自分の年齢によっても違う。
そう思った時、幸子が一番変化があるのではないか、ふと思った。

前回は高校生だとしたら、20歳を跨いだ5年間。新しい環境になれば、当然、新しい出会いもある。いつまでも鉄也を好きでいるのか、そして多感な時期。変化があるのか。あったとして、それをどう描いているか、どう演じるか。

今回、近鉄チームを観劇。
近鉄チームで演じていたのは大澤実環さん。彼女は、人が無意識にとる行動を意識的に演じるのが巧い。よく人を観察しているという気がしていた。
それでいて元気なイメージがある。
昨年観に行ったとき、配役を知るまで、幸子役は合いそうと思っていた。結果、新人保険勧誘員だったけど、それはそれでとても良かった。そして今回幸子役。それも成長した幸子。
期待を持って観劇。

元気な幸子は相変わらず。でも、少し自分の主張ができるようになっていた。
実環さんの元気なイメージが、より幸子を少しパワフルに見せる。
そして、見せ場は終盤に訪れた。

全てが解決して、大阪締めを行ない、鉄也が一人一人と挨拶を交わしていく。
そのメンバーは、ずっと幸子は見てきた。鉄也との関係性も知っている。
だからこそ、その一人一人に合わせて、幸子には感情が、想いがある。
それを、一人一人の挨拶に合わせて、表情を微妙に変えていた。
そしてやはり、兄の人吉と挨拶をした時の表情がたまらなかった。妹として。そして片思いをしながら見てきた関係性を、絶妙に表現していた。
時にはケンカを見て、ハラハラした事もあるだろう。でも2人の友情が固い事は知っている。
その表情は、5年前の幸子だったら、できない表情ではないだろうか。
その表情を見るだけで、幸子の5年間が映しだされた気がした。

この表情、観劇後に確認したくて配信も購入したけど、残念ながらカメラは向いてなかった。でも、今でも脳裏に焼き付いている。

このラストに来るまで、幸子は前作よりも元気すぎるくらいになっていた。
主張するのは書いた通りだが、スーパースターコンビにも押し返す強さもある一方で、1人でアイドルの様に踊るシーンは、無邪気で前作のイメージに近い。5年間の変化が、ラストの表情とは対極といってもいい方向に向いていたので、ラストの表情の数々が活きてくる。
こういうしっかりとした演技を去れるところはやはり魅力的。それにしても、黄色がよく似合う。

2年前、幸子を演じていたのは三姫奈々だった。彼女がもしこの幸子を演じたら、実環さんとどう変わるか、それはそれで興味を持ってしまった。

そしてもう少し年齢を重ねた時、実環さんには全く違う五味ひろえを演じてほしい。ああいう役はあまり見た記憶がないし、でも五味ひろえのような常に行動が大きい人物をどう演じるかみてみたい。

立ち呑みパラダイスの時代、自分は過ごしていないけど、不思議と懐かしさを感じる。
それは劇場に行くと、自然とその中に入り込んでしまう。
音楽もそうだろう。セットもそうなのだろう。
だけど、根本的に、その時代の人々が、とても魅力的に映るからだと思う。

レトロブーム、昭和ブームとも言われる昨今、それは何も文化だけではない。
文化を作った”人間”への憧れもあるのかもしれない。
今に比べたら、コンプライアンスも何もないかもしれないけど、向き合って言い合う人たちがそこにいて、感情をぶつけ合う。
幸子にしたって、本人の前で気持ちを言われて恥ずかしくて逃げ出すのに、式場まで決めてしまう行動力は持ってる。
SNSをみて探って、細かい駆け引きじゃなくて全てを引っ張って行くような強さ。
人間の本質は昔から変わらないし、今のネット社会での問題も似たようなことはあったと思うけど、この作品の人たちを見ていると、そんなことないんじゃないか、人って本当に温かいよねと思う行動が溢れている。
だからこの作品は人気が高いのだろうと思った。

それを実感したのは特に今回。チケット発売時間に申し込み、その2時間後くらいに振込したけど、今回は3列目。昨年はもっと振込が遅かったのに2列目だった。前回は土曜日、今回は千穐楽日マチネとは言え、それだけ人気という事だと思った。てっきり最前列かと思っていたけど、3列目でも十分見やすい。

来年は、前作をやるのか今作をやるのか、それとも公演期間中に二つを交互にやってくれても面白いかもしれないけど、いずれにせよ、またあの雰囲気に入りたいと思う。
特に疲れた時、この作品に会うことで大きな力を貰える。そんな気がする。
そう思わせてくれる演者の皆さんたちに感謝。それを創り上げてくれる脚本に感謝。
またDVD販売して欲しいなあ。


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