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舞台「シュートOUT!!」感想

女子ホッケー部の物語。ストーリーや構図は分かりやすい。
ホッケーに興味を持った主人公・小金井みなみが、一人しかいない部員のホッケー部の門を叩き、そしてスポーツ系には欠かせないライバル校との闘いへと繋がる。
ありきたりかもしれない。
でも、ありきたりなストーリーこそ、書き手のセンスと腕が問われる。
王道で行くか、ひねるか。
さて、どうなるかと楽しみに観劇。

オープニングのダンスシーン。皆が笑顔で踊る中、一人だけ、笑顔ではなく、気品あふれるカッコ良い表情で踊っていたのが、神田オーブリー役の絃ユリナさんだった。
違和感を感じ、周りを観ると、やはり笑顔が多い。配信でもできる限り観たけど、ほぼ笑顔。この違和感は、後で解消されることになる。

このオープニングで対照的だったのが、梅田悠さん。
彼女の舞台は、ENGさんとかクラシックスさんとで観ているので、強いイメージがあった。昨年の舞台で、片眼を失った時の演技には言葉を失った。
その梅田さんが良い笑顔をしていて、今まであまり観たことのない姿。
今回は、そういう役かなと思っていたら、本当に笑顔が多い役。先生役は一人でホッケーもやることはないけど、楽しそうな演技を観て、イメージが変わり、また違う姿も観たくなった。たまには他の団体さんに出る梅田さんを観に行こうかな。

神田オーブリーに話を戻す。
神田オーブリーは、TikTokでバズっているという。学校内のインフルエンサーとしての役割。その上、スタイルもいい。その立ち振る舞いは、色々な場面で感じさせる。
彼女がホッケー部に入り、その影響でホッケー部に部員がたくさん入る、という展開かと思ったが、そうではなかった。
ただ、彼女がホッケー部に入り、その時間を過ごして行くと笑顔の質が変わる。

いや、そもそも、最初はほぼ笑顔らしい笑顔はない。歯を見せるような笑顔がなかった。
孤高という言葉が似合いそうな雰囲気すらある。
その才能を見出されるドッヂボールの試合後でも、その笑顔はほぼ変わらない。

それが、一緒に練習を始めると柔和になる。球を受け止める練習をした時、笑顔らしい笑顔が見える。そして大きく変わったのは、八王でのシーン。メニューを見ながら、「決められないよー」という仕草には、前半でのカッコよさは取り払われ、親しみやすいキャラに。
演じたユリナさんに素に近いような印象。
そして、ラストに向かい、それぞれのエピソードが掘り下げられていく中、神田オーブリーのことも語られる。
転校ばかりで本当の友達ができなかったこと。
いくらTikToKなどで有名になっても、自分を見てもらえず、満足感は得られなかったこと。
ホッケー部に誘って貰った時、自分を「個」として認めてもらえた気がしたこと。

ここを演じているのは、僅か1分半~2分弱。でもここに、オーブリーの歴史が詰まっている。もちろん、オーブリーの最大の見せ場。
最初、友達ができることを期待している頃は、笑顔で接していたんだな、笑おう、笑って友達を作ろう、そうしようとしていたことが演じられる。
でもやがて、周りには誰もいないことに気が付く。その描写を、ユリナさんはしっかりと表現し、そして表情から笑顔が消える。
走ってきた道を戻り、かつての友人に連絡をとってもダメ。
SNSで有名なら、入り口が作れる。そう思って始めたのかと思わせるTikTok。それでも、個人は見てもらえない。前も後ろもダメ。
苦しい。諦めていた。そんな表情の後に、みなみに認められた時の嬉しさ。
「大げさだけど・・」のタメは良かったな。

そう。これがあるから、前半の笑顔がない、「孤高」な姿があるのだと感じた。前半で流れた時間は、オーブリーにとっては諦めた時間。カッコいいのだけれど、どこかある寂しさは、ここに繋がっていた。
わずかな時間しかないオーブリーの「歴史」に、厚みをもたせるため、その表情で見せ場に厚みを持たせ、現在と未来に希望を持つ気持ちの変化を見せた。
もっとオーブリーが掘り下げられていたら違ったかもしれない。でもこの時間、全体のバランスを考えた時の絶妙なバランスをとったユリナさんの演出に感服した。
そしてそれに気が付いた後、最後に、必ず得点を決めるとした時の強い表情。これがより引き立つ。
カッコいい仮面は、オーブリーにはもういらないんだなと感じさせた。
先生が言っていた「この時代の友人はいいよ」ということも、ここに繋がる気がした。

そしてそのオーブリーとは対照的だったのが齋藤かずえさん演じた八王子いばら。
早弁したり、家が食堂って、よく三枚目キャラの持つ要素がたっぷり。
それもあり、目立っていた。印象に残った。TEO通勤急行大爆破でも見ているはずだけど、あの時は、正直、あまり印象に残らず。これも役的なものもあるけど。
今回は違う。むしろ、こういう役もできるのかって思った。
パンフを見ると、普通に可愛らしい表情なのに、舞台上で見ると三枚目の「いばら」になってる。デジタルフォトからもだいぶ印象が違う。パンフでは、どちらかというと力強い表情でもあるんだけど、やっぱりシーンで印象がかなり違う。
そして思ったのが、ガッツリのコメディでも観てみたい。一度それを観てから、TEOのような毛色の作品での姿を観たい。
次、齋藤かずえさんを観た時、自分の中でどんな印象・感想が出てくるか楽しみ。
とりあえず、デジタルフォトを買っておこうかな。

そしてそういう風に演じたからこそ、他の人たちも引き立っていた。なにしろ、このいばらがいないと、ホッケー部は全員揃っていない。縁を繋いだのは、このいばらなのだから。
物語としても、舞台としても、いばらは周りを輝かせていた。ポジションの通り、縁の下の力持ちだなあと感じた。
カーテンコールで、ユリナさんと2人、楽しそうにしているのが印象的でした。

今回、きっかけはユリナさんの告知からだった。
朗読劇はあったものの、本格的な舞台での姿を観るのは二回目。今回は日程的に厳しくて1回しか行けなくて、少し自己嫌悪に陥りもしたけど、一回だけでも行けて本当に良かった。
色々な新しい発見もさせて貰えた。
しかし、アイドルとしての姿も良いけれど、やっぱり、舞台でしっかりと脚本を読み込んで創り上げる「別の誰か」を演じる姿は見ごたえがあって好きだなあ。
いつか、梅田さんと殺陣での演技を交わすのを楽しみにしよう。

王道を行ったストーリー。それでもやはり心に響くのは、それを人がどこかで求めているから。忘れかけていたものが取り戻せるから。
だからこそ、こういう舞台を見ると、活力が出て、仕事にも影響する。感謝して、また次の舞台へとなる。そうして心は潤い、満たされていく。

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