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アンブレラ〜君は僕の永遠の人じゃない〜

この何回かの風雨の襲来によって、傘を2本もへし折られてしまった。ホネを持ってかれてはもう機能しない。(そういえば小学生の頃、開いた傘をぶん回してお椀型に変形させるのを楽しんでたっけ)
デザインがかなり気に入っていた晴雨兼用の折り畳み傘も、梅雨の頃になくしてしまい、手元に傘がなかった。

「仕方なく」東急ハンズに出向いた。充実している傘コーナー。百貨店の広めの傘コーナーを、たたみ2畳にギュッと詰め込んだようだった。
誰もが感じているように最近の風雨は酷い。遠慮や容赦というものを知らない。
目や手が自然と向かうのは、重厚感のある強そうな長傘だ。その中でデザインにもそれなりに気を使ってそうなシリーズの1つを手に取って広げてみる。
うむ、強そうだ。君にならこの秋期の護衛隊長を任せられそうだ。
「wind resistant type」と柄(え)の部分に書かれていた。分かりやすくて宜しい。購入。

帰り道、幸か不幸か小雨が降ってきた。最近多い予報外の小雨だが、台風に比べたらかわいいものだ。
早速、広げてみる。ボタンを押すときに必ず目に入ってくる「wind resistant type」。うむ、安心だ。

それから何度か傘にお世話になる機会があった。しかしその度に、安心感は違和感へと変わっていくようだった。
太いハンドルから続く中棒。骨はそれほどびっちりとは張り巡らされてはいないが、耐久性のある素材と緻密な構造がうかがえる。厚手の傘地は骨にガッチリと貼り付けられていて、簡単には剥がれそうにない。

強い、安心……うーん。傘ってこういうものだったかな? こんないかめしいものだったか?

小雨降る下に仰々しい傘を構え、濡れそうにもない吹かれそうにもない僕は、一瞬、窮屈さに襲われた。ひどく心が重くなった。

傘にはもっと軽さが必要ではないか? 重量とか携帯性の話ではなく、雨の日の憂鬱な心をふっと和らげてくれるような、そんな軽さが。
よく言われる、柳や竹のようなしなる強さに近いもの。傘にはそういう存在であってほしい
ひととき傘を畳んで小雨を浴びたら、意外と気持ちがよかった。

和傘とかは実際どうなのだろうか? 実は使った事がない。求めている軽みがありそうに見えるけれど、しかし実際にはそうでもないかもしれない。いつか試してみたい。

後日、車の助手席に転がった傘を見やった。「wind resistant type」。文字が先ほどよりも心細そうな様子で僕を上目遣いで見ている。
(ごめん、本当は君はタイプじゃないんだ。でも次の傘が見つかるまでの間、もう少し付き合ってくれ)
なんてクズ男ごっこをしてみた。しかし傘はちゃんと知っているようだった。
(とかなんとか言ってるけれど、生涯の伴侶になるのは意外とそういう相手だったりするんだよね?)
拗ねた顔してそっぽ向いた傘の方が一枚も二枚も上手(うわて)だ。
今の僕は君がいないと生きていけない。

ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います!