見出し画像

美しい帆(詩集 晩夏香)

 彼女は美しい帆を立てた
 わたしは白いさざなみになり
 五月の海を滑つていく

 わたしはそれから遠い航海を願ふだらう
 夢の途中までは夕映えに染まる
 なつかしい汽水湖を思ひ出しながら
 彼女の横顔をいつまでも眺めてゐた

 あの頃のわが身の幸運をしみじみと思ひ返す
 ひとしなみ畏れも知らず
 ひきかえせぬ不安につき纏われることもなく
 風によそぐ青葉のかろやかな葉音にあわせ
 明るい陽光を浴びた若葉の季節を

 ひとり謳歌して
 かぐはしい花々に囲まれ酔ひ痴れる
 花の一輪を手にとり
 そつとくちづけする

 薔薇の日々よ

(以下略)

※ 全文は、詩集「晩夏香」(有料記事)に所収

よろしければサポートをお願いします。