ドラマ劔 その11 百恵伝説
山口百恵は、女王ではない。
美空ひばりと山口百恵については、書くつもりはなかった。畏れ多いのである、ということにしておこう。五感に障るわけでもないが。
今朝、ふと耳にした「横須賀ストーリー(1976年)」が、わたしの何かを揺り動かした。
「これっきり これっきり もう これっきりですか」と繰り返すパロデイーっぽい歌い出しが、印象に強すぎて、ストーリーの最後までは見届けてはいなかったようだ。
「そう言いながら 今日も私は 波のように抱かれるのでしょう」
横須賀という街が抱える深い闇と一瞬の煌めきが波のようにきらきらと光る、その海を眺めている。
波は流されながら、海を流しているのだろうか。それとも、波が流したものは、涙だけなのかと。
17歳、横須賀で貧しい?少女時代を過ごした彼女にとって、偉大なる再出発の歌、「スター誕生!」から巣立ち、「ひと夏の経験(1974年)」で飛躍、「女の子の一番大切なもの」を「まごころ」でくるみ、21歳で引退、結婚、疾風のように時代を駆け抜けていった。
純朴、少女性、妖艶、魔性の女、慈愛、菩薩、彼女が演じ続けたのは、「さよならの向う側」にある魂の叫び、愛ではなかったか。
ゆえに、山口百恵は、女王になりたくなかった、唯一、本物の歌の女王である。
昔、間近に見た唯一人のアイドル、わずか数メートル先にそのひとはいた。
会場は、板の床にゴザ敷だったと思う。隣町の体育館だった気がする。
彼女の歌は、ほとんど聴き取れなかった。大音響の伴奏(録音だったはず)がスピーカーをほとんど占拠していた。
それでも、観衆のじりじりとした興奮だけは、少し醒めかけていたわたしの心にも火をつけた。
Light My Fire(ハートに火を付けて The Doors 1967年)がどこかで鳴り出した……
ダウン・タウン・ブギウギ・バンド「涙のシークレット・ラブ(1976年)」百恵が惚れたスロー・バラードの佳曲、一度聴いてみてください。
宇崎竜童の心の琴線が震えている、きっと見えてきます。
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