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総受けvs総攻めフェスタ 結果発表 大賞は田辺すみさんの『いつか泡と消えるまで』に決定

 みなさまこんにちは。令和5年12月9日から令和6年1月9日にかけて開催された「総受けvs総攻めフェスタ」にご参加いただきありがとうございます。
 厳しいレギュの中、エントリー作は全20作品と予想を上回る数でした。
 総受け総攻めテーマだとどんなお話がくるんだろうという単なる思いつきで始めた企画でしたが、こんなに多種多様な物語が集まるとは思わずウハウハです。
 ありがとうございます。
 以下のように決定しましたので報告いたします。

大賞 田辺すみ/「いつか泡と消えるまで」

受賞コメント
 受賞のお知らせを戴きとても嬉しいです。素敵な企画の主催者さま、読んで戴いた皆さまに感謝申し上げます。企画参加作品の多彩さ、文章の美麗さやユニークさ迫力、ストーリーの鋭利さ華やかさ重層性に圧倒されました。すごい……BL/ブロマンス文学深いですね(どう形容すべきか自分の語彙力が残念)。
 更に“総”受け、“総”攻めがテーマなので、複数多数の人間が関係してくる(一対一ではない)複雑さ面白さが有って、読みつつ書きつつ自分の中でお祭り状態でした。これがフェス……!
 『いつか泡と消えるまで』は、国や社会や家族や友情や恋愛などいろいろなつながりにおいて、帰るところを持たない人たちのお話です。と、考えて書き出したのですが、2人が大分まどろっこしい感じになってしまいました。本当にどちらの参加作品も読みごたえ抜群で、どなたの心にも刺さる一本が見つかると思います。すごいなあ……。改めまして、有り難うございました。


イラスト:ぶいちさん

大賞を受賞したさんには、ぶいちさんによる表紙風ファンアートが進呈されます。

◆あなたの総攻めが好きだ賞 『不死者の王に関する覚書古永淳

受賞コメント
 このたびは「あなたの総攻めが好きだ賞」をいただきましてありがとうございます。大変嬉しいです。
 元々好きな作家さんの参加作を読んで「いいなー」と思って参加したくらいなので、こんな強者ぞろいのなか賞を頂けたことにびっくりしています。
 総攻め・総受け概念にそこまで詳しいわけでもなく、応募してから「総攻め」とはこれでよかったのだろうか?と考えることも無きにしも非ずだったのですが、これでよかったんだ!!!!
 胸を張って「これが総攻め小説だよ」と言おうと思います。
 本当にありがとうございました。

 こちらは田辺すみさんによるファンアートとなります。物語を読み終えた後に見ると、ぐっとくるものがある素晴らしいFAです。ありがとうございますー!

◆ファンアートのご紹介


煙を立てろ愛神の花/藤田桜

 こちらは古永淳さんによるファンアートとなります。霧の向こう側の、手が届きそうで届かない場所にいるようだと個人的に思いました。ありがとうございますー!



というわけで、総受けvs総攻めフェスタを制したのは田辺すみさんの『いつか泡と消えるまで』でした。おめでとうございます。
以下から、エントリー作品への感想です。

■全作品感想


1.セブンスター・シンドローム/  惣山沙樹【総受け/BL】
 一番槍は惣山沙樹さん。
 タバコ一箱はさすがに安すぎる。これは蒼士に中抜きされていると思いました。生きていくために必要な金ならばもっと高値にすればいいのに、自暴自棄とも言えるこの値段に「こんな自分になんて誰も」という美月の自己評価の低さと余裕のなさを感じました。どうして彼はそのような生き方をしているのか?という疑問は、家庭環境に難があると分かる冒頭の描写へとさりげなく繋がる。強い。
 けれど安売りはするが、快楽には流されない。あくまで金のためと割り切った態度で徹する姿はどこかウブで純粋で、とても好きです。
 本来ならば手の届かぬ高嶺の花でも、踏み躙られた烙印があれば、人はどこまでも舐めきった態度をとれるものです。それこそ「タバコ一箱で買える」という噂まで流れているなら、好き勝手にいたぶろうとする輩は後をたたないのではないでしょうか。今までも美月本人は気づいていないだけで、未遂はかなりあったのかもしれません。けれど今回に至るまで、そうした目に美月が合わなかったのは、ひとえに蒼士が裏で睨みをきかせているからだと思いました。大事な金蔓だから勝手に手を出されたら困るからという理由かもしれません。愛かもしれませんし、所有欲かもしれません。
 今まで受け身のまま流されるように生きてきた美月が、どん底に落ちた時に手を差し伸べてくれた蒼士という、心から充足を得られる相手を得て幸せにキスして終わる。……と、言い切れないのが本編。
 美月にトラウマを植え付けるために、蒼士が直人を仕掛けた疑惑が捨てきれません。振り返ってくれない受けを、攻めが手を回して精神的に痛めつけて弱ったところに素知らぬ顔をして手を差し伸べるという展開はBLではよくあることです。そうして手間暇かけて手に入れたのに、堕ちた瞬間、飽きてしまって簡単に捨ててしまうのも、とあるCP二次創作BLではよくあることです。蒼士の本心の見えなさに、なんとも言えない読後感がありました。
 蒼士がこう見えて実は純愛だった展開も策士でも、どちらも美味しいのですが、どっちかに振り切っていると個人的になお美味しいです。
 二人のこれでもかという甘々ハッピーを拝むのもよし、あるいはねじれに捻じれたドロドロの人間関係におそれおののくのもよし。
 BLはどっちかに振り切ってなんぼだと思っているので、文字数を増やして人間関係のさらなる拡充があると、とても嬉しいです。ただこれはあくまで個人の好みです。
 二人はこれからどのような関係性を積み重ねていくのか。ハピエンが好きなのでお互いがかけがえのない相手になって欲しいなと思いました。

2.総攻め蠱毒/姫路りしゅう【総攻め/BL】
 総攻め蠱毒。ワードが強い。声に出そう、総攻め蠱毒。こんなネタ、かぶるわけないワオと心から思いました。
 蠱毒の名のとおり、攻めたちを集めて最強のオスを決める頂上決定戦という設定だけでも面白いのに、一つ一つの戦いの解決法が暴力に振り切っていてとても好きです。
 フィジカルでは勝てない中山きんに君相手には思考誘導を、神木りゅ……相手には切り取った手というサイコパス解決法を。 
 ですがなんといっても第三戦試合です。 
 ありものしりとり、という何もない部屋の中でのしりとりゲームの解決方法が吐瀉物!バイオレンス!なのは爆笑しましたし、戦いのあと三十秒フリーズするところも、船橋の思惑どおりにゲームが進んでいたら危なかったギリギリ感も好きです。船橋の元ネタは分からなかったのであとで教えてください。 
 そして迎えるラスト試合。
 前哨戦でわざとペアができない余りものを作らせた時の意地悪さがラスボスの小物臭さにつながり、そんな心の底から「カスだ!」と言える人間を二人合わせてプリキュアばりにクサカリシュウがぶっ飛ばしてくれる爽快感がありました。今まで誰の手も取らなかった草刈が、たった一人認めた相手には手を差し出す。けれど、その手を菱科は取らずに別れを告げる切なさの残るエンド。暴力とサイコパスが溢れるキャラの魅力が存分に詰まっている物語でした。
 ただ草刈が一強すぎると少し感じました。
 トーナメント戦やデスゲームを書くにあたっての命題は「負けたら物語が終わるから主人公は勝つに決まっている」とメタ読みができてしまう点です。
 この点で草刈の弱点のなさから負ける姿が思い受かばず、デスゲームものの緊張感がやや欠いた印象がありました。
 「どんな相手でも最後は主人公の勝ちなんでしょう?」という態度の読者を驚かせたり試合にグッと引き込寄せるために大切なものの一つに対戦相手の描き方があると思っています。
 主人公と戦う運命になった相手は、負けがほぼ確定しているため散り際こそ花。ジャンケットバンクで負けたギャンブラーたちの去り際がどうしてあそこまで心に残るのは、彼らのもつ信念や流儀が戦いの中で描かれていると思っています。
 敗者に残るのは、生き様と信念。「男に掘られるなんて嫌だ」だけではなく、筋肉男、美少年、関西弁パール男と次々と繰り出される攻めたちの攻めが攻めであるための軸たる部分も見てみたいと感じました。
 また同じゲームだろうと遊ぶ相手が違えば戦略もまた変わりますが二戦目に関しては相手が神木でなくても、展開はそこまで変わらないのではないと思いました。せっかく神木に色白美少年という属性を盛ったのなら存分に要素を生かした展開を見たいです。下心満載に言えば、美しさと妖艶さで男を屈服させ生きてきた神木を草刈が暴力で吹き飛ばす様などあるとご褒美です。
 残り二文字でどうしろと!?と言われてしまうと辛いところですが、そこは姫力でなんとかお願いします。一つの大きな戦いのあとに残るもの。彼らにはそれぞれの道を歩んで欲しいと思いました。

3.イトシキ ミチヲ/惟風【総攻めBL】
 殺りチンの物語です。殺りチンってなんだと思ったらいきなり始まる怒涛のロケットスタート。チンコ強い。寝た直後に相手は死ぬという自覚があるのに、故人を偲ぶことなく次の相手を探し、己の欲を貫く姿はまさにカス男。
 でもこの男、グイグイくる積極性やとぼけた愛嬌があり、引く時には引く距離感を保ち、菱縄縛りスペシャル技持ちなため、隙を見て一気に距離を詰められたら断れきれずに口説かれてしまうのも非常に頷けます。けれど寝た相手は死ぬ。タチが悪いぞ。倫理の欠片もない男。彼の名は絶倫雄と書いて倫雄……!
 今までは惚れたら何ふり構わず口説いていた彼ですが、相手よりは自分の性欲解消が優先だったのではないでしょうか。
 けれどそんなミチオがカイトに出会い、彼を〝抱く〟という確固たる意志のもと呪いを受けたちんちんを武器に戦うは姿は殺りチン。チンチンが人生の主体なのは変わらないのに、かっこいい。なんだこれは。
 またミチオを復讐のために道具として使おうとするも、カイトの中に今まで感じたことのない感情が芽生える展開もとても好きです。長い年月を生きてきて淡白な日々を送っていた吸血鬼がうっかり絆される展開はいいぞ。互いに変容して、これからの生き方が一変する物語はいいぞ。
 総攻めとはなんぞや?それは誰よりも強いチンコを持つ男だ!という強いアンサーを感じられる物語でした。
 ゆくゆくは別の呪いをうけた新たな殺りチンが現れ、殺りチンたちのパッションほとばしるバトルが展開されていくかもしれません。ミチオの戦いはこれからだ……!
 このお話はそんなバトル漫画のビギニング。ジャンプでいう新連載第一話。これは私の好みなのですが、終盤で主人公の見せ場を見開き一面でみたいと思いました。具体的にいうとヴァンパイアハンターと寝たあとにピロートークで呪いにかかったハンターがどのように爆発四散するのか見てみたいです。殺りチンの凄まじさを感じたいのです。Z級映画ばりに派手に爆発トイレットペーパーを舞い散らせましょう!

4.聖なる夜の従者たち/藍﨑藍【総受け/ブロマンス】
 クリスマスにクリスマス小説がきたー!
 企画を立てておきながら「総受けブロマンスは成立しうるのか」と疑問を感じていたのですが、こういう形でいけるんだ!と非常に驚きました。
 総受け男子、三田くんが好きです。 
 お人よしで馬鹿正直に後先考えずに行動するから色々失敗してすぐへこむけれど、どこかほっとけない。
 どれだけ嫌な目にあっても大丈夫なのは心が強いから、というよりは存在を否定されて生きてきたために痛みが感じられないほど麻痺してしまっているからだと思いました。
 そんな三田くんのそばにいる二人のトナカイも好きです。
 渡仲に出会う前の三田くんだったら、自分の元へサンタが来ないならいっそ自分がサンタになればいいと思いついても、やっぱり無理だ、誰かの迷惑になるかもしれないと言い出せるタイプではなかったと思います。
 でもやりたいと口に出して二人にお願いして、自ら率先して動けるようになったのは、二人の支えを得て自分は自分でいいんだという肯定が生まれたからこそだと思います。
 中井くんの物語もじっくり読んで見たと思いました。モノローグでざざっと流してしまうのが非常に勿体無いです。仮面を被って人の良さを演じて生きている中井は、初手では三田くんを善人ぶっているだけではと疑いの目で見ていそうです。二人の出会いが気になります。
 自分が得られなかった幸せを他者に施すのは、ただの自己満足かもしれません。でもそんな行いが誰かのちょっとした幸せにつながる世界。とてもよかったです。好き。

5./草森ゆき【総攻め/BL】
 一番最初に出てきた感想が穴親子なの、すまない……すまない。
 でも同じ穴に入れたのではなく同じ棒で刺されたので 竿親子の方が正しいと思いました。お前は何を言っているんだ。
 閑話休題。
 キャッチコピーの「じゃあまたね」が前回のフェスタの「行こうか。」と繋がっている……! こういうお遊びをすっと仕込める強さ。NTR KING。
 極光の「俺」は総攻めオーラ立ち上る強さがありましが、今作の仁科は人たらしとか魔性というより特殊能力持ちの総攻めだと思いました。自分の意志なのか分からないまま誘蛾灯のようにフラフラと獲物を惹き寄せられていく感があります。RPGでいうなら立ち位置が裏ボスっぽく、ボスを倒したと思ったらぬらっと現れ、BAD ENDで勇者を喰いそうです。心の隙間を埋めてくれる欲しい言葉をかけてくれるのに、言葉責めされているような不思議。
 父とは血が半分繋がっているし、半分繋がっていない。完全に他人だったら無視してしまえる部分が、分かってしまうし目についてしまう。そんな目には見えない決して切れないつながりに、どうにも嫌悪を感じてしまう。
 けれどそこへ現れた仁科という存在により、そんなものだと受け止めて父と子の絆の在処に繋がっていく物語だと思いました。やっていることは親子丼なのですが終始穏やか。
 なんかこう不思議だなと思ったのが、仁科の姿がぼんやりと曖昧だと感じた点です。
 草さんは行動の強さで人物の人となりを描いている印象があります。○○クッキングなどの、こちらの想像を遥かに超えてくる行動でぶん殴って印象付けていく、といいますか。
 ですが今回、仁科の行動は比較的穏やかなためなのか、輪郭がぼやっとしており、怪異めいた感が出たのかと思いました。でもこれは本当になんとなく感じた部分なので「なんとなくそう感じたんだな」と思っていただければ幸いです。
 もし主人公に子供ができ、あの日の父と変わらない年になった時に、仁科があの時のままの姿で目の前に現れるような雰囲気もあります。仁科は大人版ピーターパンの存在に近いかもしれません。
 あの日あの時の出会いは本当だったのだろうか。夢ではないかと度々振り返る、そんな一時の思い出を残していくようで、やっぱり怪異っぽいなと思いました。

6.蝉が鳴く夏休み/鷹野ツミ【総受け/BL】
 ポテトチップスゲーム、壁ドン、顎クイと立て続けに発生する恋愛イベントに「学園が舞台の恋愛B Lゲームだ……!」と感じました。
 攻略対象も同級生、先輩、顧問の先生とよりどりみどりで主人公の選択によって分岐が発生しそうです。
 今現在は南部先生からの好感度が一番高いために、他のライバルを蹴散らしていく行動をとっているのではと思ったりしましたが、それにしても生徒に何をしているのですか、この先生……!
 思っていたのとは違う方向でモテモテすぎる北川くん、雰囲気に流されるままひたすら受け身でチョロすぎて見ていてハラハラします。
 そんな総受け男子の北川君が、みんなからモテる理由が知りたいと思いました。
 ギターがバチクソうまくて普段とのギャップがあるのか、どこかほっとけなさがあるのか、彼がどうしてそこまでみんなから愛されるのか非常に気になりました。
 西園先輩の飄々として、隙を見てサラッと掻っ攫っていきそうなところが好きなので、このまま家に行ったらどんな恋愛イベントが気になりますが、南部先生がいいところで家庭訪問してきそうですね。ああ、先生。

7.蓄光/押田桧凪 【総攻め/BL】
 押田さんの人外BLだー!前回はカタツムリBLでしたが今回はなんとホタルBLです。
 ホタルすべてが光るわけではない、実は幼虫も光る、光るパターンには西日本型と東日本型がある、などなどホタル知識が存分につまった人外小説でとても好きです。震災の影響でホタルの生息地が減少していたのは今回初めて知りました。
 光らないホタルである俺と、光るホタルのあさひ。
 俺があさひを好きになった理由が「ひかり」に惹かれるホタルの本能を揺さぶられて生まれたものであると自覚しているところに、こう……グッときます。押田さんの二人の関係性を描いた物語にはドロドロ、甘々、言葉では言い表せない複雑な感情など様々ですが、今作のような生物の本能と理性に揺れる物語も本当に好きです。
 どうしようもなくひかりに焦がれる俺に対して、あさひはひかりが苦手なのは人間ではない人外の部分を自覚してしまうからではないでしょうか。
 あさひの「光らされている」という言葉からは、こういう種として生まれてしまった諦めとこれから来る未来への恐れを感じました。残されてしまう恐怖が俺の中にあると思うのですが、それでもすべてを受け入れる姿が美しい。
 人外ブロマンスフェスタであったら好きだポイントが上限振り切れるぐらい好きなのですが、今回は総受けv s総攻めフェスタ。
 今作は誰も入り込めない二人だけの関係性がメインで、総攻めというより受けと攻めの物語であり、総攻めポイントはあまり高くないように感じました。ただ私が読みきれていない場合が多分にあると思います。私の考える総攻め感からくる感想と受け流していただければ幸いです。 
 成虫になったら遠からず死ぬ運命にあるホタル。それでも今を生きている二匹の姿に、闇夜に青白く冷たく光る姿が重なる物語でした。

8.野良犬/あきかん 【総攻め/ブロマンス】
 死別ブロマンスです。死別ブロマンスはいいぞ。
 なんでも屋の日下部が依頼された仕事は輸送護衛。簡単な仕事と思いきやその裏には陰謀があり巻き込まれていく王道ストーリー……ではない。日下部は、護衛対象の片耳を食べ、上役であるママにも牙を向いて、暴走していく。
 かつての相棒である柳原は、日下部をきちんと諌める時には諌めるストッパーも兼ねていたのではないでしょうか。もしこの場に柳原がいれば、うまい感じにまとめていたのでしょう。ですが彼はここにはいない。ギムレットのカクテル言葉は「遠い人を思う」「長いお別れ」ですかそうですか。
 本編のデストイレの部分が気になりました。デストイレ1と3視聴済みなので、デストイレvsトイレの神様には「こんなのありか!」と笑いましたが、この戦いはストーリー的に重要な場面というよりは途中で発生したサブクエっぽさがあります。もしvs エクソシストシャークやvs恐竜神父と続くのであったら、Z級映画で統一された印象があるのですが、デストイレ単発なため唐突感もあります。
 もしデストイレを出すならvsの一つの扱いでありではなく、デストイレとの戦いを一本軸で貫いてこそ、愛と狂気に満ちた物語となったと思います。
 相棒を失った日下部は首輪のない野良犬に過ぎません。依頼内容も最初から捨て駒扱いという有様。野垂れ死ぬしかない男の末路には寂寥感がありました。


9.不死者の王に関する覚書/ 古永淳【総攻め/BL】
 総攻めNTR人外BL小説です。タグの盛りっぷりだけ見ると二郎系ラーメンなのに、中身は高級フレンチとギャップが激しいです。
 読み終わったあと、「君の姿は僕に似ている」が頭の中を流れていきました。かつて同じ世界を見て生きていた二人が、運命によってバラバラにされていく様はどうしてかくも儚く美しいのでしょう。ドストレートで癖を貫いていきました。
 アーザードは、この手紙を書き終えて離れていく明かりを見届けるという強い意志によって、なんとか心をなくすことなく狂気に落ちずにいられるのでしょう。僕が僕であるため、そして君にしてあげられることが、一緒に遊んだあの風景を忘れずにいることなのが、とても好きです。
 この手紙はナヴィドを生かし君がいた物語として残り続けるものであり、ナヴィドのこれからの苦難の道を宿命づけた呪いであるかもしれません。祝福と呪い。私の好きな言葉です。
 不死者の王の「君は似ている」というセリフは、抱いた少年みんなに言っているのか。本当にアーザードにだけそう思ったのならば、どうにか無理やり生かしそうな予感があります。不死者の王とナヴィドが対峙した時に、廃人同然のアーザードが王の側にいたら、こう……いいですね……という幻覚を見ました。あくまで私の幻覚です。
 これはなんとか無理やり捻り出したものなのですが、語り部であるアーザードが少し理性的であると感じました。理性と狂気の瀬戸際で精神的にぐちゃぐちゃの中で手紙を書いているので「かゆうま」みたいな「もう、彼は……」感があるとおおお……と手で顔を覆います。ただ本当に無理やり捻り出したこものであり、私の好みによるものです。
 かつて愛した少年の面影を求める者、宿命づけられた者。旅路の行方が気になりました。好きです。


10.狂おしいほどに海が鳴る/つるよしの 【総受け/BL】
 褐色黒髪長髪男子はいいぞ。
 砂漠の王ならば異国情緒溢れるスパダリ攻めになれますし、他国から侵略されて奴隷になった気位の高い受けにもなれます。褐色黒髪長髪男子には夢があります。
 また記憶喪失なのも好きです。自分の在処の分からなさに、ただただ周りの状況にズルズルと流されるしかないよさがあります。
 暴虐で勇猛果敢な将にかつての面影はなく、閉ざされた未来に喘ぐしかない現状。牙は抜け、熱は失われ、これからの行先は見えない。
 先にあったのは愛か憎しみかは分かりませんが、今のワーフィルの心にあるのは敬愛であり支配欲ではないでしょうか。
 たとえ暴君でもカリスマあふれる者には人の血を熱く滾らせる能力があります。彼の背中を見て、彼の指し示す先に行けば、同じものを見ているのだという気にさせ、どこまでもついていきたいと願ってしまいます。
 そんな過去の亡霊を自分だけのものにできるのなら、運命という鎖で縛りたいという気持ちがあるのではないかと思いました。
 これは私の好みからくるわがままなのでさらっと受け流していただけると幸いなのですが、かつての暴君の片鱗を見てみたいと思いました。
 拙者、たとえ記憶を失っても、その人の核たる部分は変わらないところにロマンを感じる者です。六年という年月がたち、落ちぶれて牙の抜けた獣に成り果てたと思っていたのに、消えていた目の光が一瞬でも戻り、その双眸に睨まれたら「それでこそあなた様です……!」と私の心の中のワーフィルは打ち震えながら喝采をあげ、より一層服従させてやると炎が点りそうです。ただこれはあくまで私の心の中のワーフィル像です。
 記憶のない落ちぶれた英雄は惨めですが、それでも惹かれてやまないものがあります。そこには己の中の何かを挑発して欲を引き摺り出していく怖さがあり、ワーフィルが従者という立場からあえて踏み出そうとしないのは、美しい獣を前に自制を保てる自信がないからかもしれないと思いました。

11.ポンちゃんはもう来ない/尾八原ジュージ 【総受け/BL】
 野良猫属性総受け男子だ。
 どれだけ愛しても甘えて懐いたように見えても、決して自分のものになってくれない焦ったさ。深く踏み込んでしまったら、もう帰ってこないような気がするから、曖昧にごまかしたままの距離感を保つしかない。でも他の飼い主とは違うのだと思い込みたくて二人で共有できるものを考えた結果のアイスの買い置きだったのではないでしょうか。
 けれど、そうやって誰もがポンちゃんのワンオブゼンの立場から脱却しようとして、誰一人として生前にワンになれないまま迎えた結末と思いました。いなくなってもなお、消えない傷跡を負わせていく罪深き魔性の男だと思いました。

12.いつか泡と消えるまで/田辺すみ 【総受け/BL】
 寄るべなき者たちの物語だと思いました。帰るべき故郷、大切な人、才能や自信や立場や積極性など、誰もが誰かが欲しいと願うものを持っているのに、一番欲しいものは中々手に入らない。
 あればあればで厄介で面倒くさい側面もまたあるのですが、ないものにとってはそういう面は見えてこないので、憧れてやまないのだと思います。
 中でも故郷というものは最たるものだと考えています。生まれ育つ場所は自分では選べないため、独り立ちできるまでその土地に縛られ続けられます。
 複雑な感情を抱え、こんな土地オラ嫌だと抜け出した後も、ガムシャラに生きているうちは忘れられますが、頭に染みついた記憶というものは消えず、離れて初めていろんなものが見えてくることもあります。愛していようと憎んでいようと故郷というものは、その人自身の土台として残り、帰る場所のなさというものは生涯を通じてつきまとうものだと思っています。
 けれど、たとえ土台がそうであってもスタートでしかなく、そこから自分の居場所は自分で作っていくもので、それこそが生きていくということとも考えています。
 どうして生きているのか、なんのために生きているのか、心の隙間を埋めるべく、欲しいものを求めて誰もが手を伸ばして場所を作ろうと必死ですが、欲しい人が大切な人であればあるほど、自分の幸せの押しつけになってしまうのではという恐怖もあります。
 けれどあなたを想う心こそが何より大切。人魚姫のそうした寓意を初めて知ったのですが、とても好きです。
 途中、あまりにも二人の距離感がじれったすぎて、バーエストレアの女子会メンバーたちと一緒に酒をあおり、つまみをつまみながら「この二人はよう……!」と叫びたい気分になりましたが、ラストの美しさにとても心温かになった物語でした。
 生きている確かさというものは、記憶と大切な人の存在によって支えられているものなのかもしれません。約束の日に前を向いて会える日まで。とても好きです。

13.佐伯はみんなのものだから/あのに犬 【総受け/BL】
 網代木君の不器用さが好きです。
 佐伯に感じた気持ちの在処が分からなくて、どこまでも突き詰めてしまうのは、今まで親の言うことに従って生きてきたために自分で考えることが少なく、初めて己の中に明確に生まれた疑問だったからかもしれません。
 こうした感情は、整理する前に他のことを考えているうちに薄れていってしまうことが多いですが、ここまで網代木君が追い詰められるほど佐伯のことで一杯一杯になってしまうのは不器用で真面目だからと思いました。
 けれどこうして佐伯への気持ちと向き合うことで、自分の生き方も見つめ直して、自分の道を歩んでいく。年齢という枷のため環境に依存するしかない少年たちの今と、これからを見据えていくアオハル満載のお話でした。

14.総攻めをお求めならば“モブおじさん”へ/おくとりょう【総攻め/BL】 
 ピクシブに迷い込んだかと思いましたがカクヨムでした。
 直接的な行為はない健全なお話なのですが、♡喘ぎタグがついてそうで完全にエロ小説を読む顔になりました。人間、こういう時はIQがサボテン並になるので感想も「エッチだったな」以上のものが思いつきません。すまない。これ以上やるとカクヨムではBANされそうで、すごくギリギリのラインを狙った瀬戸際小説だと感じました。エッチだったな。お姉ちゃん、一体何者なんだ。

15.鬼のいざない/こむらさき 【総受け/BL】
 マカミの人(外)となりが好きです。一筋縄ではいかない厄介さと油断すれば喰われる怖さがありますが、飄々とした態度にどこか親しみが感じられます。
 現在に至るまで散々な目に遭っているのに「人間ども、今すぐ血祭りにしてやる!!」という態度ではなく「まあ遠からず死ぬからいっか」とあっけらかんとした態度も好きです。
 永き時を生きる彼にとって因習村の守神として囚われ受けた恥辱など一瞬のようなもので恨みもなく、半分自由の身になった今とこれからこそがすべてなのかもしれません。おしなべて人間を子供扱いする人外はいいぞ。
 これは本当に私の好みによるところなのですが、マカミと玲一タッグvs父とのバトルが見たいと思いました。
 魂を喰われても、残った情念みたいな塊で長年我が物にしていたマカミへの執着を見せ、しれっと隣にいる玲一に激情する姿に、マカミがドン引きする姿が見たいです……。人外が人間の醜悪さにドン引きする姿がとても好きなのです……。 
 人間を見下していたマカミに「コイツはちょっと見どころあるかもしれん」と思われた玲一の、これからの旅路が気になりました。

16.きえない灯し火にこがれる/クニシマ 【総受け/BL】
 クニシマさんの作品は常に一定の雰囲気を保っているのですが、読んでみると毎度味が全然違うのでびっくりします。なんというか、物語全体を影が覆っていて、その影の濃さを調整して雰囲気を変えている印象があります。前回の「いつかのひまわり」はカラッとしていながら、路地に目を向ければ何か見てはいけないものがありそうな暗さがありましたが、今作は黒に近いじめっとしたホラー色にしてきたと感じました。
 彼の運命を決定づけてしまったのはなんだったのか。
 集落に入った瞬間かもしれませんし、興味をもってしまった時かもしれません。
 主人が愛する少年ために作り出したシステムは、どこかで歯車が狂ってしまい誰もコントロールできないまま暴走しているにも見え、これからも集落から人が少なくなれば主人公のように他所からひっぱってきて取り込んでいくのでしょう。フラフラ近寄ってきた獲物を捉える食虫植物型総受け男子かもしれません。 
 引き返せたタイミングはあったのか分からないまま、怪異に囚われてしまう怖さがありました。

17.神子殺し/狐 【総受け/ブロマンス】
 生き別れの異母兄弟ブロマンスはいいぞ。
 かたや神の子。かたや冷徹な暗殺者。
 愛されようが愛されまいが二人とも結局のところ、国が平和であるための道具に過ぎない。そんな本来ならば決して交わるはずのない二人が、お互いの血のつながりを認識した途端、人らしさが現れる瞬間が好きです。
 周りから神の子と祝福されようとも、ヘクターもまた人の子であり、敬われる立場から意識を逸らしたい時に生き別れの異母兄弟のことを想っていたのではないでしょうか。
 兄弟ブロマンスとしてはめっちゃ好きなのですが話のメインは二人の関係性に終始しており、「総受け」というよりは「愛され」に近いため、総受けポイントは個人的にあまり高くないと感じました。また神の子の存在は国の死活問題なのに暗殺者一人によって窮地に陥ってしまうのは、少しばかり強引な展開だと思います。
 第六回こむら川の講評と重なってしまうのですが、きれいにまとめようと手綱をひきすぎて、こじんまりとなった印象があります。こういう奇祭では普段書いたことのない物語にチャレンジしてなんぼです。
 総受けを分からないまま手癖で書いて狐さんのよく書く形で出力された感があるので「今回は〇〇に挑戦してみた!」と感じる物語を読みたいです!もし「○○に挑戦したつもりだったのに……」だったらすまないワオ。
 これからも国の礎として生きていくヘクターは、ライオットのことを思い出すたびに神の子ではなく人であると自覚するのかもしれないと思いました。

18.ひとりだけなんて選べない/ 黒井咲夜【総受け/BL】
 開幕修羅場なのに、勢いが止まらないままフルスピードでかけていくテンポのよいラブコメです。特に明石先生のクセが強過ぎて好きです。
 先生たるもの、教え子を導く立場にあるはずなのですが、愛を叫び愛に生きる潔さにかっこよささえ感じます。
 陣野くんの提案でひとまず状況が落ち着いたように見えますが、真純くんの乾いたところは変わらないままなので、また一波乱ありそうです。
 明石先生理論ならば真純くんに新たな恋人ができても問題ないので、新作ディルドが現れそうな予感。でもなんだかんだこの三人ならグダっと受け入れそうな雰囲気もまたあります。彼らが幸せならオーケーです!

19.煙を立てろ愛神の花/藤田桜 【総受け/ブロマンス】
 すごい作品が来たと思いました。一文一文、読んでいる時の心地よさがすごい。韻とリズムによるものなのかまったくわかりません。物語という詩、詩という物語、あたりの表現が一番しっくりくるのですが、そもそも詩の素養がない私が詩という言葉を使っていいのかという疑問がきます。すごいことをやっているけれど、そのすごさの半分も理解できていないのではという恐れも感じます。なんというか、波長が合ったら問答無用でぶん殴っていく物語だと思いました。
 伝説と寓話で自らを飾り立てた青年の元を訪れるかつての幼馴染。二人の根底にあるものが、あの日の同じ場所の記憶なのに、目指した道がそれぞれ違ったばかりに亀裂が生まれ、いつの間にか超えらない壁が立ち塞がっている。
 けれど偶像として崇められる彼を人であると主張し、人として葬り、最後の最後に追いすがることができたからこそ、いつかまた帰ってくれると希望を抱くことができるようになれたのかと思いました。

20.ファイル名不明/梅緒連寸【総攻め/BL】
 企画ラストは梅緒さんのブラクラ……ではなくラブクラ総攻めゲーム小説です。製作者の意図を離れて、本来の挙動ではない動きをモブがする話は好きです。タカハシの目的が分かると冒頭で記憶力がいいこと、言ってもいないはずの志望動機を知っている理由など分かり、そういうことかとなりました。
 もともとタカハシは生徒会長ではなく、何度もループして相馬とのルート発生確率を高めるために今の立場になったかもしれません。
 ルート分岐に入らないよう、部活紹介もしたくないかもしれませんが仕様に縛られ、結局は紹介する挙動をとってしまう悲しさがあります。
 お話の都合上仕方ない部分ではあるのですが、それぞれルートの序盤までしか描かれていないので、実際の相馬の攻めの攻めたる場面がなく、少しばかり攻めとしての存在感が薄い気がしました。これは私の好みですが、相馬に変わってタカハシが攻略対象を攻めるなどの無理やりバグを起こす行動をしていたならば総攻め感がもっとでたと思いましたが、あくまで私の好みです。
 君に追いつくための物語。タカハシの戦いはこれからだ。

▪️締め


 各作品の感想は以上です。どの作品も同じテーマで書かれたとは思えないほど個性に富んでおり非常に楽しく読ませていただきました。
 あくまで一人のサルによる好みの偏った感想であり、読み取れなかった部分やそんな読み方をするんだ!?などは多々あると思います。ですがもし、何か残るものがあれば幸いです。

▪️大賞選考


 それでは次に、大賞の選考を行います。
 ここからは前回どこかで行われたフェスタにならって人格を分裂していきます。以降は総受け担当原猿類(以下、受猿)と総攻め担当原猿類(以下、攻猿)で選考していきたいと思います。

受猿:受猿です。よろしくお願いします。これ、やってみると分かるのですが思っていた以上にくっそ恥ずかしいですね。
攻猿:攻猿やで。攻めの様式が分からんへんので俺の思い描いたエセ関西弁でいくで。
受猿:正気に戻ったらまったく進まなくなるのでささっと行きましょう。せーので「あなたの総受けが好きで賞」「あなたの総攻めが好きで賞」を各一本ずつ選出していきます。せーの
攻猿:『不死者の王に関する覚書』
受猿:『いつか泡と消えるまで』
攻猿:受猿の推した理由、聞こか

受猿:登場人物全員がみんな好感をもてて彼らの姿を一枚絵でみたいと思ったから。総受け部門は推しが多くて、このキャラを絵で見たいってすごく感じた作品が多かった。でも物語を通しての一枚絵としてのみたさ、という点で一番なのが「いつか泡と消えるまで」だった。人魚姫がモチーフで、二人を取り巻く様々な人たちに囲まれて、バッグに船と梅があってと奥行きを考えたらどこまでも広がっていくところが本当に好き。
攻猿:なるほどな。
受猿:いやでも本当に絵で見たい物語多すぎるんですよ。胡散臭い関西弁男子蒼士、人間見下し系人外マカミ、褐色黒髪長髪のライハーン閣下、剥製のカーマフアレレ、トナカイとサンタ。あげたらキリがない。終始ワオワオで企画開いて本当に良かった。ありがとう……ありがとう……。
攻猿:豊作すぎてこの中から選ぶのとか無理!とゴロゴロ転がっていたもんな。

受猿:攻猿が『不死者の王に関する覚書』を選んだ理由は? 〆切後も「総攻め何も分からん……」ってしばらく唸っていたよね。
攻猿:個人サイト時代から「総受け」「愛され」「平凡」で検索していた受猿と違って、こっちは総攻め概念への解像度があまり高くないんや。それでも俺なりに考えた。まず押田さんの「蓄光」は二人の物語やさかい、総攻めポイントは低いと思った。梅緒さんの「ファイル名不明」の相馬くんはもうちょい存在感と攻めたる強さが欲しい。
受猿:あとはもう強い攻めしかいないですね
攻猿:それな。でも惟風さんと姫とあきかんさんとこの攻めはどちらかというと攻撃力の高さからくる「攻」の方を強く感じた。攻めは性的魅力からくる強さが欲しい。
受猿:この間、サメは総攻め!と言っていませんでした?
攻猿:おとなはウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです……
受猿:ハイハイ。まとめると存在感があって、強いけれど、フィジカルな強さというより性的魅力からくる強さがあると、攻猿の考える総攻めポイントが高いと。おくとりょうさんのモブおじさんがだいたいハマりますね。
攻猿:モブおじさんが総攻め王なのはちょっと違うんよ。モブおじさんは確かに総攻めの権化の塊やけど、世界で一番売れているからといってマックが世界一美味しいわけではあらへん。
受猿:その理屈はよく分からないけれど、でもモブおじさんが総受け王になったあと、第二回総受けvs総攻めフェスタが開催した時に「総攻めとはすなわちモブおじさん!」とモブおじさん小説が殺到したらちょっといやですね。
攻猿:それはもう、モブおじさんフェスタなんよ
受猿:モブおじさんフェスタ……絵面的には見たいけれど、モブおじさんが十人も二十人もきたら正気で感想を書ける自信がないワオ

攻猿:で残ったのが草さんところの仁科と古永さんところの不死者の王。どっちも物語としても攻めとしても好きや。非常に悩んだ末、好きな総攻めキャラ(グラブ○のベリアル)を元に独断と偏見で総攻め比較表を作った。それがこれや。

パソコンが苦手なサルが作ったようなエクセル表。ちっちぇえな。

受猿:ちっちぇえな!!!あと最後の人外感って隠しコマンドすぎると思う。
攻猿:これは「あなたの総攻めが好きだ賞」。俺の結論はこれや。人外はいいぞ!!「君の姿は僕に似ている」が頭を流れた時点でめっちゃ好き!!!ブロマンス大好きや!五億点!!!
受猿:あまりに好きを貫きすぎている。

受猿:今回は作品数が多い方が大賞というシステムになっています。最終結果はこちら。

雑な見た目だろう?これを作るのにめっちゃ時間がかかっているよ

攻猿:総受けが圧倒的やな
受猿:最終日前日まで綺麗に半々に別れまたけれど、終盤になってドドッと総受けが来ましたね。
攻猿:っちゅうことで大賞は田辺すみさんの「いつか泡と消えるまで」に決定や。おめでとうございます!!
受猿:おめでとうございますー!

▪️座談会

攻猿:んじゃ、他の作品や全体的な傾向の話や総評してこか。
受猿:まずは一番槍、惣山さんの「セブンスター・シンドローム」。フェスタ開催直後に「いきなりガチ勢がきたぞ……」と姿勢を正しました。
攻猿:あまりにド正解の総受けがきて「一番槍がここまでやっちゃうと後続つらすぎへん?」となったわ。
受猿:こういう企画では一本槍が序盤の雰囲気を左右するといっても過言ではないのですが、序盤どころか終盤までバシッと方向性が決まったような気がしました。
攻猿:今回は「ガッハッハKUSO小説だ!」はなかったもんな。トイレ総受け小説とか一本ぐらいくると思ってたわ。トイレといえばあきかんさんの「野良犬」なんやがデストイレは出てくるもののKUSO小説やないし、いたって真面目な作品やもんな。
受猿:つるよしのさんが褐色総受け男子を携えて参加された時も、総受けガチ勢がきたぞと構えましたね。
攻猿:実際はBL漫画をそこまで読んでいないと聞いてかえって驚いたわ。
受猿:お二人とも受けも攻めも魅力的でバランス力がすさまじく、また「一本のBL漫画を読んだ満足感」がすごくありました。不思議。
攻猿:世界観が作り込まれていて、かつ属性のはっきりした登場人物で頭の中でイメージが余裕だったからかもしれへんな。
受猿:一方で鷹野ツミさんの「蝉が鳴く夏休み」はゲームっぽさがありました。選択できそうな攻略キャラの多さからかもしれません。貴重なラブコメ枠の黒井咲夜の「ひとりだけなんて選べない」もですが、先生が我が道を行くタイプでした。先生……!
攻猿:梅緒連寸さんの「ファイル名不明」は最後の最後にマジもんのゲームがきたと思ったわ。
受猿:性を売る男子の値段の差は物語性の違いが出て面白かったです。美月は日々のタバコ代でしたが、あのに犬さんの「佐伯はみんなのものだから」の佐伯は経済的自立を目指した三千円でした。

攻猿:攻めといえば「そう…。そのまま飲みこんで。僕のエクスカリバー…」「お前の城門から、大事な天守閣が丸見えだぞ?」などの名セリフがつきものや。惟風さんの、「アンタが望むなら、俺はローマ法王だって口説いてみせる」も名セリフ中の名セリフ。あなたの総攻めセリフは名セリフ賞やな。かえって「俺なしじゃ生きられない身体にしてやる」「そんな可愛い反応されるとますますいじめたくなる」「俺の下であがけ」みたいなコテコテのセリフを吐く攻めが意外に来んかったな。
受猿:確かに俺様系、腹黒系、意地悪系のようなBL属性が分かりやすい攻めは来ませんでしたね。おくとりょうさんの「総攻めをお求めならば“モブおじさん”へ」にモブおじさんはいましたが。
攻猿:総攻め企画にモブおじさんは盲点やったな。言われればそうやろなんやが思いつかなかったわ
受猿:モブおじさんはずるいだろう!!と叫んでいましたね
攻猿:モブおじさんはゴリラ枠なんよ。属性でくくるなら「総攻め蠱毒」のサイコパス暴力系の草刈が一番暴れまくっておったわ。
受猿:攻めがどんどん受けに転じていくある意味リバ作品。船橋が追い詰められていく様はゾクゾクしました。
攻猿:フェスタ繋がりでは草さんの「暁」の仁科。穏やかなのに総攻めオーラの強さが凄まじい。怪異やわ。
受猿:受けの可愛さ一点で選ぶなら藍﨑藍さんの「聖なる夜の従者たち」の三田くん。好きだった。受けの受けたる可愛さが存分に詰まっている。
攻猿:三田くんかわいい、三田くんかわいいと言っていたもんな
受猿:尾八原ジュージの「ポンちゃんはもう来ない」の野良猫系総受け男子ポンちゃんなど前回の庭企画に引き続き黒髪長髪が多かった印象がありました。これが好きなんだと叫ぶ強さ。因習村も二十作品中二作ありジャンルの強さを感じました。
攻猿:こむらさきさんの「鬼のいざない」とクニシマさんの「きえない灯し火にこがれる」やな。人外が去りいずれ滅びる村と人外めいた人間たちが集い細々と存続している村。どちらも歪で人間の業が煮詰まっていたわ。
攻猿:狐さんの「神子殺し」はどうや?
受猿:狐さんの書いた狐さん作品と感じた。今回、作者名を伏せた状態で誰がどの作品を書いたか当てられる自信が何作かありますが、狐さんのは真っ先に分かると思いました。
攻猿:マンドラゴラ小説以前の懐かしささえ感じたわ。
受猿:時間があったらここら辺の言語化をしたかったので、次回はもうちょい早めに出してくれると嬉しいワオ 
攻猿:最終日はどうしても作品を反芻できる時間が少ないもんな。
受猿:あとは藤田桜さんの『煙を立てろ愛神の花』。三人感想システムだったら絶対誰か一人は大賞に推して、選考で殴り合いバトルが発生していたと思った作品筆頭。大賞に推しそうな人、ぱっと思いついただけでも三人はいる。
攻猿:一人感想企画の限界を最も感じた作品でもあったわ。三人やったら「俺が拾えなくても他の人がきっと拾ってくれる……!」ができるけれど一人だとそうはいかん。ほんま、ここにいるのが攻猿と受猿ですまん!
受猿:以前、別の企画でも「私が評議員じゃなかったらこの作品は大賞だった」と強く思ったことがあって、「誰もが受賞する機会があるけれど、ほんのわずかな運の差で決まる」と某評議員経験者が言っていたことを改めて痛感した。
攻猿:まあでもフェスタは小説大賞やなくて癖の塊企画やからな。癖と癖のぶつかり合いこそすべてや。人外はいいぞ。
受猿:純粋な小説力で競う企画や200近い参加作品が集う魔境とは違う感じでこれからも「私はこういうのが好きなんだ!!」をやっていきたいですね。
攻猿:せやな


▪️最後に


 改めて、ご参加いただいたみなさま、参加作品を読んでいただいたみなさま、本当にありがとうございました。
 今回総受け総攻め小説を書きたかったけれど間に合わなかった方や、実はこういう裏設定があったんだよ!という裏話的なものがあれば現在開催中の総受けvs総攻めフェスタの夕暮れに出していただければこそっと読みにいくかもしれません。
 これにて総受けv s総攻めフェスタはおしまいです。
 ですがフェスタは終わらない……!第三、第四のフェスタが必ず始まるだろう。
 誰かが開催するフェスタでまたお会いしましょうー!
 ワオワオ



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