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いちばん好きなディズニー映画の話

ある日、友人との他愛ない会話の中で「一番好きなディズニー映画は何か」という話題になった。

私は両親の影響で幼少期から様々な映画・アニメ作品に触れてきた。例に漏れずディズニー映画もその内のひとつで、特に「アラジン」や「リトル・マーメイド」、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」なんかは挿入歌の歌詞も覚えているほど今でも私の生活の中に溶け込んでいる。

こんなにも大好きなディズニー作品であるにも関わらず、実は今まで「私にとって一番好きな作品は何か」を考えたことがなかった。

ディズニー屈指の名作と称される「トイストーリー」?日本でも社会現象を巻き起こした「アナと雪の女王」?"Beauty and the Beast"を初め、ディズニーを代表する名曲を生み出した「美女と野獣」?

否、ここでは私はあえてこの作品を強く推したい。
『トレジャー・プラネット』である。

©Walt Disney Pictures
「Treasure Planet(2002)」

2003年に日本初公開。なんと私の生まれる以前の作品である。
後に「ディズニー暗黒期」と呼ばれた時代に制作された作品であり、知名度こそ低いが、コアなディズニーファン層の間では非常に人気の高い作品でもあるらしい。

幼少期に初めてこの映画を見た私は強い衝撃を受け、同時に感動した。
設定・キャラクターデザイン・物語の雰囲気や場面展開に至るまで、全てにおいてが私の好みにドストライクなのだ。

まず主人公のビジュがいい。
幼少期に父親をなくし、その反動で田舎の非行少年としてくすぶっていた青年が主人公という、それまでの童話的なディズニー映画から逸脱した毛色の違う作品というのも冒険心をくすぐる。
ワンピースのロー然り、進撃の巨人のエレン然り、どうやら私はこういう危なっかしいタイプの男性キャラにめっぽう弱いらしい。

俯き顔も絵になる主人公ジム

あらすじ

内容は至ってシンプル。町の非行少年であった主人公がある事件をきっかけに「宝の星(トレジャープラネット)」を探す旅に出るも、同じ船に乗っていたクルー達が実はトレジャープラネットを狙う海賊の一団だったというストーリー。

あらすじだけ見ると割とサッパリとした地味な物語のように思えるが、このシンプルなストーリーの中には深い感動とメッセージの数々が込められている。

宇宙を旅する浮遊船の乗組員として雑用を任されたジムは、同じく船の厨房で雑務をこなす半サイボーグの男シルバーと出会い、交流を深めていく。
早くに父親をなくしたジムは豪快でまっすぐなシルバーの背中に父親の姿を重ねるが、実はシルバーの正体は船に潜んで宝を狙う海賊の親玉だった。

一方シルバーもまた宝を狙う敵同士でありながらジムに親子の愛情にも近い思いを寄せており、登場シーンの多くでは世間知らずのジムに対して励ましの言葉を送っていたり、本当の親子のように強く抱きしめ合ったりと、ディズニーヴィランとしては非常に珍しい描かれ方をしている。

それまで恋愛や魔法・ファンタジーといったテーマが中心だったディズニー作品だったが、今作では大きく舵を切り「家族愛」にフォーカスした現代人の心に深く響く作品作りに取り組んでいる。

ディズニーと言えばロマンチックかつユーモラス、まるで夢の中にいるような不思議な世界観のイメージ。
しかし本作ではシリアスかつ息を飲むようなアクション・アドベンチャーが中心で、男女の恋より主人公の人間的成長を描くことがテーマになっている。

こういったスタイルは昨今の「アナと雪の女王」や「ベイマックス」等にも見られる"家族関係・友情関係についての強いメッセージ"の先駆けにもなっているのではないだろうか。

アートスタイル

シーン毎のアートスタイルも素晴らしい。
近未来SFというジャンルでありながらどこかスチームパンクでもあり、また大航海時代のヨーロッパのようでもある絶妙な世界観を演出するディテールの数々や、岩男やサソリ男など、物語に多く登場する人外キャラクター達の秀逸なデザインも複雑な世界観によりマッチしていて、飽きることなく見ていられる。
やけに宝塚感の強いアメリア船長に性癖が歪められたことは言うまでもない。

また、アクションシーンでは強い遠近法(オーバーパースって言うのかな?)を多用したアクティブな映像が見られ、常に画面がぐりんぐりん動くため、軽快かつ壮大で迫力のあるムードを全身で感じることができる。
影の落とし方や光の加減、BGMに至るまで、見るもの全てが広い宇宙の荒野に果てしなく広がる冒険心を巧みに表現している。

特に物語序盤、青年になったジムがソーラーボードで立ち入り禁止エリアを颯爽と駆け回るシーン。

私はこのシーンが大好きで、何度映画を見てもこの映像と音楽を聞く度にワクワクが止まらなかった。

あどけなさの残る幼少期から青年の姿に成長したジムの剥き出しの感情を、颯爽と駆けるソーラーボードの映像美とジムの心からの叫びで代弁する。

すれ違う風の手触り、揺れる髪の感触、エンジンを吹かす高揚感が手に取るようにわかる。
今見ても思わず息をするのさえ忘れてしまうほど美しい。
観客の心に直に訴える作品は、時を経ても色褪せないものなのだと痛感した。

「冒険心」を描く

前述の通り、この作品には観客の冒険心をくすぐる演出、即ち「ワクワクポイント」がたくさん用意されている。

トレジャープラネットのありかを示す宝の地図はなんとボール型で、パズルのように謎を解くと空中に3Dホログラムを映し出す壮大なギミック付き。
プラネタリウムのようにほの暗く映し出される映像は、それだけでまだ見ぬ夢とロマンを湧き起こさせる。

主人公ジムの乗るソーラーボードはスケートボードのような板に炎を出すエンジンとペダル、ヨットのような三角の帆という無骨でスタイリッシュなデザイン。
愛車と共に空中を滑走するジムの姿は「かっこいい」としか言いようがない...。
このソーラーボードがまた物語の要所要所でいい味を出す。

さらに宙飛ぶ浮遊船の旅で襲いかかるのは、嵐や高波ではなく超新星爆発
ブラックホールに飲み込まれそうになるところをギリギリで脱出するシーンなんかは、もう興奮が止まらない。

ハラハラドキドキの連続な旅の最中、海賊の船長シルバーは自分の半身がサイボーグであることについてこう答える。

「失うものもあるってことさ、夢を追っているとな」

このセリフには、彼の海賊人生に賭けてきた思いの全てが詰まっている。
多くは語らないものの、夢を追い求める男の歪ながら純粋で、迷いのない信念をこの一言で表現する演出力には流石としか言いようがない。

話は逸れるが、私の人生の一部でもある漫画『ONEPIECE』の登場キャラに黒ひげという男がいる。
彼もまたシルバーのように海賊である自分の人生に誇りを持っており、夢とロマンを追い求めてひたすら無鉄砲な冒険を続けるキャラクターである。
それ故に善悪の区別が無く「欲しいものは何としてでも手に入れる」のスタンスで突き進むため、ストーリー上悪役でありながらどこか憎めないキャラという点で共通していると感じる。

彼らのような、絶妙なキャラ立ち故に主人公との微妙な距離感を保っているキャラクター像を描くというのは相当な困難があったと思うが、それだけ物語の密度が上がり、ワクワクドキドキの要素を詰めつつも、単純な「冒険ロマンもの」に留まらなかったことの理由なのだろうというのを感じた。

最後に

という話を友達にしたところ、「ディズニーに魔法以外のものを求めてない」「そもそも『トレジャー・プラネット』なんて作品を見たことも聞いたことも無い」と皆口を揃えて言うのだ。

けしらかん!

「良い作品」というのは常に「有名」であることを前提に語られる。
これまで様々な「良い作品」を生み出してきたディズニーという基盤の上にある以上、誰にでも見られること・誰が見ても面白いと感じることを求めれるのは仕方がないことだ。

しかし「見られなかった」ことによって埋もれていってしまった作品も数多くあるということは間違いない。
この映画を観た、ずっと観てきた私が断言するのだから、ここまで私の拙いnoteを見てくださった皆さんはぜひ『トレジャー・プラネット』を観て、ジムのクールな活躍ぶりとワクワクドキドキの大冒険を全身で感じていただきたい。

最後まで見てくださってありがとうございました!
以上、れもねどがお送りしました。またね✨

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