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この夏さえ深く踏み込めたら


夏、蝉、日記。



8/1

夏が嫌いだ

うるさい蝉
背中を伝う汗
無駄に青い空
水道から出るぬるい水
アスファルト上の陽炎
足跡だらけの砂浜
露出が増える服

大嫌いだけどこれが夏の醍醐味なのか

今、目の前にあるのは薄っぺらい高いだけの壁
私はその壁の越え方を知らない


8/31

8月が終わる、怖いくらい早かった
何をしたかなんて覚えていない
いつの間にか蝉の声が減っていた

やっぱり今年も夏が嫌いだった

壁を蹴った
びくともしなかった
超えるしかない壁
途方に暮れた

毎日の10時間を嫌いな事に費やした
夏と一緒で好きになれない


9/1

月を跨いだ
8と9の間に沈めたら良かったのに

もうすぐ秋がくる

もう、ちゃんと前を向かなければならないね

支えられてきたものをひとつずつ外して1人でも立てるようにならなければならないね

夏のせいにしてしまったもの達も拾い上げて飲み込む準備を始めなければならないね

なんだか寂しい

いつになっても夏は嫌いだけど
いつまでも夏のせいにして
ずっと夏に取り残されたかった
夏に縋りたかった

好きも嫌いも結局は似たようなものだ


さようなら、蝉

私も抜け殻に取り残されないように羽を広げる
落ちるのは飛ぶついでにしよう
生きたように生きるんだから


この夏さえ踏み込められたら
きっともう見失わない

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