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滋味深い素朴な美味しさに開眼。 主菜として食べたい、 煮豆の魅力。


こんにちは。

私ごとですが、今年の4月で旦那と連れ添ってまる7年が経ちました。
リトアニア人の旦那は出会った時から既にヴィーガンで、この7年間の共同生活は私の食生活に大きな変化をもたらし、食に対して様々な常識を問い直す良いきっかけにもなりました。

私は多少の好き嫌いはありますが、基本的にはなんでも食べる雑食で、それは今でも変わっていません。現在は食生活の9割ほどが菜食になっていますが、旦那と出会った当初はヴィーガンという言葉に対して抵抗感を感じており、この食生活に慣れるまでにかなりの時間を要しました。

今と比べて昔は情報も少なく、挫折しかけた時期もありましたが、アメリカもこの数年でかなり代替食品が増えたことは間違いなく継続の助けになりました。ヨーグルト、チーズ、アイスクリーム、ベーコン、卵、更には感謝祭のターキーまるまる一羽に至るまで、プラントベースの代替品は進化の一途を辿っています。

現在、私たちの普段の食生活の中でも、代替品を使用することは決して少なくはありません。大豆タンパクやグルテンから作られたカリカリのチキンやジューシーなバーガーは、手軽な上に「セクシー」な食べ物ではありますが、私にとってそれらはあくまで肉食の代替としての手段として捉えています。

今の私にとって、ヴィーガン食とは「代替」することに重きを置くより、素直に美味しいもの、代替品に頼らなくとも野菜や穀物がもつ美味しさを上手に引き出す料理が理想です。様々なレシピを試し、菜食料理歴も長くなった私が数周廻って辿り着いたのが、もっぱらシンプルなサラダやスープ。中でも、素朴で滋味深い美味しさに体も心も芯から満たされる「煮豆」の美味しさを知った時は、目から鱗が落ちました。

パールのように美しいイタリアのココ豆を使った「煮豆」


煮豆といえば、日本では五目豆や甘く煮た金時豆、黒豆、サラダに入れるミックスビーンズが主流ではないでしょうか。私も中高生の頃、お弁当に煮豆が入っていたのを覚えています。地域性によって異なるのかもしれませんが、東京で生まれ育った私にとって、それ以外の場面や味付けで煮豆を食べる機会はそれほど頻繁にはありませんでした。

一方、意外なことにアメリカでは日常的に煮豆を食べる習慣があります。ピントビーンズ、ブラックビーンズ、メキシカン料理のリフライドビーンズ、豆の入ったスープやサラダなど、大抵は塩味で調味された煮豆が主流です。
炊飯した米の脇に煮豆を添えた(もしくは米と豆を混ぜる)「ライス&ビーンズ」というポピュラーな料理もあるほどで、スーパーには様々な種類の煮豆が缶詰で売られています。

近所の小さな八百屋さんでも、10種類以上の煮豆缶が置いてあります
我が家でよく使うのは白インゲン豆。これはサラダに混ぜました
白インゲン豆の水煮缶を、玉ねぎなどの野菜と煮て撹拌したポタージュ


私も菜食中心の生活に切り替わってから積極的に缶詰の煮豆は取り入れてきたのですが、豆が主役というよりもサラダに混ぜたりスープに入れたり、あくまで脇役のタンパク源としか捉えていませんでした。

しかし、その考えを覆したのが、とあるレシピ本との出会いです。

「All the Stuff We Cooked」より


それは、私が最も尊敬するシェフの一人である、デンマーク人の Frederik Bille Brahe(フレデリック・ビル・ブラーエ)氏が Apartamento より出版した「All the Stuff We Cooked」というレシピ本です。藁半紙のような紙に白黒写真という、従来のレシピ本の常識を大きく逸脱したこの一冊には、彼のクリエイティビティが惜しみなく詰まったレシピが満載です。

詳しくは別の機会で書きたいのですが、私が2年前に訪れたコペンハーゲンの「Atelier September(アトリエ・セプテンバー)」というフレデリックさんのカフェがとても素晴らしく、シンプルながら美味しさ・美しさ・独創性に溢れた料理に深く感銘を受けました。

50種類近く掲載されたレシピはいずれも家庭で作りやすく、基本はベジタリアンなのも嬉しいポイント(フレデリックさんのパートナーはヴィーガンだそうです)。その中でも最初に私の興味を引いたのは、シンプルな煮豆のレシピでした。

白インゲン豆の煮豆。我が家ではグレーソルトが定番です

ファインダイニングの出身で、かつてはNOMAのレネ・レゼピ氏と同じ調理場で腕を振るっていたと言うフレデリックさんが、何故煮豆を・・・?というのも、以前彼がコッツウォルズに出向いて料理をした際、美しい自然と静寂の中で味覚の感性を研ぎ澄ませ、デンマークに帰宅してから作った煮豆の味の奥深さに感動したそうです。時間と素材が生み出す削ぎ落とされた旨味に感化されるというのは、私も含め刺激の多い調味に慣れてしまった現代人の味覚には新しい発見だったのではないかと思います。

一晩浸水させた白インゲン豆
香味野菜はぶつ切りに。もっと粗くてもOK
トロ火でじっくりコトコト・・・


このレシピだけは特別にウェブサイトにも乗っているので、ここではサクッとご紹介します。一晩浸水させた白インゲンやココ豆などの白い乾燥豆を火にかけ、煮立ったらザク切りにしたたまねぎ、にんにく、セロリ、にんじん、ローリエを入れ弱火にし、あとは柔らかくなるまでゆっくり煮込むだけです。

ぐつぐつ沸騰させて豆を踊らせてしまうと皮が破けて煮崩れてしまうので、ここは焦らずじっくりと。調理はたったのこれだけで、シーソルトと胡椒、良質なオリーブオイルを回しかけたら完成です。

じんわりと染み渡る味


缶詰の煮豆は特有のぬめりがありベチャっとしているため、乾燥豆をホクホクになるまで煮ると食感もこんなに違うのかと最初は驚きました。香味野菜がブイヨンの役割を担い、豆から出たとろみと旨味が合わさって、これだけで主役級のごちそうになってくれます。また、素材から出たダシを味わえるよう、直接煮汁に塩味をつけることはあえてせず、トッピングとして振りかけることで味の引き立て役になってくれます。

豆と野菜だけ?それでは物足りないのでは・・・と思われるかもしれませんが、お腹はもちろん、体が栄養でジワーッと満たされていく充足感があるのです。柔らかい豆と野菜、まるみのある深くて優しい旨味と栄養たっぷりの煮汁は、何度もおかわりしたくなるほど美味しいものです。我が家では毎回たっぷり目に作っても、すぐになくなってしまいます。

余った煮豆で作った白豆のフムスを、ピタチップスとともに


豆は前の晩に吸水させておけば案外早く煮えてしまいますし、野菜と植物性のタンパク質が一皿で摂れるので平日のディナーにもぴったり。追加で削ったパルミジャーノやイタリアンパセリをトッピングしても美味しいでしょう。

豆が残ったら、旨味がぎゅっと詰まった白豆のフムスを作ることもできますし、グルタミン酸たっぷりのトマトを入れてリメイクスープにしてもよし。

味覚も胃も疲弊しきっている現代人にはうってつけの、素朴ながらごちそう級に美味しい煮豆。シンプル・イズ・ベストとはまさにこのこと、ぜひ一度作って味わってみてください。


それではまた次回。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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