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贅沢な誕生日 | エッセイ

友人の誕生日のお祝いは、なかなか難しい。

付き合いが長くなればなるほどもう物はあげつくしてしまっているし、良かれと思って選んでも反応から好みでなかったことはわかってしまう。

一緒に買い物に行って選んでもらうのもよいけれど、遠慮して安いものを選ばれてしまうのが常だ。サプライズが嫌いな子も多いし、そもそも20代後半だと誕生日のお祝いをされたいかどうかも怪しくなってくる。

そんな悩みからの試行錯誤の末、付き合いが10年を越える友人の誕生祝いを、お互いの100%納得の上で決行することに成功した。

まず、その友人は派手好きだが大袈裟な演出を嫌う。お店からのサプライズケーキなどもってのほかで、そうなると欲しいものを一緒に選びに行くしかないのだが謙虚なせいで本当に欲しいものを選んでくれない。
しかも彼女はしっかりと稼いでいるため、欲しいと思ったものは自分で買えてしまうのだ。

以上から、絶対に喜んでみせないといけないようなサプライズではない・彼女が自分で選んで買えるようなものではない・でもそれが嬉しく、特別なものでないといけないと考えた。

難しい。あまりに難しすぎる。

ひとりで考えて考えて考えた末に、私はついに最適解を見つけ出してしまった。
電話で彼女に伝えると、数秒黙った後に「……最高じゃん!」という声が。
よし、と決めて私は予約をし、その日を迎えた。

派手好きだがサプライズは嫌で物は自分で買えるなら、私だからこそできるプレゼントはそう、「経験」だ。

友人と落ち合い、まず白ワイン1本とチーズを買ってから、横浜の有名ホテルのラウンジで紅茶とケーキ。華やかな見た目に反して甘さ控えめなフレジェに、温かな紅茶がよく合い、ふんわりとした大きなソファに気分が上がっていく。

時間になったらロビーに行ってチェックイン、最上階の部屋へ。
目に入るのは壁一面の大きな窓に映る、まだまだ明るい空と横浜の街並み。広いテーブルと大きなソファ、並んでいるシモンズのダブルベットふたつとその向かいに家電量販店でしか見ないような大きなテレビ。
ワインとチーズを冷蔵庫に入れ、ふたりで部屋を飽きるまで写真に収めた。非日常空間にテンションは最高潮だ。

満足してきたころに時間が来て、私たちはホテル内のレストランへ向かう。

普段は入れないような、目の前で焼いてくれるスタイルの鉄板焼きのお店。目の前には立派なエビやカニ、そして大きな霜降り肉が見えている。シャンパンで乾杯して、目の前で丁寧に焼き上げられる海鮮やお肉に舌鼓をうった。

今日のために新調したワンピースで背筋を伸ばしてカウンターに座る客層に対して若すぎる私たちに、店員さんたちは優しく接してくれる。

美味しく楽しく幸せな時間が終わったら。
螺旋階段を上って重厚な扉の先には、歴史のある英国調のバー。ピアノの生演奏が流れるしっとりとした空間で、カクテルを何杯かいただく。

贅沢だね、と何度も言い合って部屋に戻ると、壁一面に眩いばかりの夜景が。息をのんだあと、最高だね、本当に最高、と歓声を上げ、私たちはまた写真大会を開催した。

カーテンは開けたまま電気をつけずに私たちはベットに寝そべり、白ワインとチーズをお供に映画を見る。「最強のふたり」という友情映画と、「世界一キライなあなたに」という恋愛映画。

仕事や人間関係に疲弊した心や体に、エネルギーが戻ってくる。友人もそうだったらいいなと思っていたら、ありがとうね、とぼそりと言われた。

本来ならデートプランじゃない、とも言われかねないし、実際まわりは男女カップルしかいなかったけれど、まあ大きな愛情のある関係ってことで一緒だね、などとふたりで笑った。

プレゼントは、する側の自己満足だと聞く。
自己満足なら、とことんまで満足できるものにしたい。大事な友達との最高な時間のためなら、お金も労力も惜しくはない。

そう思わせてくれるのは彼女が一等大切な友人だからなのだと、改めて知ることができた誕生日だった。

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