レジェンドたむら的M-1グランプリ2020考察

コロナ禍で無事に開催された今年のM-1グランプリ2020は見事マヂカルラブリーの優勝で幕を閉じました。2017最下位からの見事な逆転劇。あれはコントなのでは?漫才ではない?と賛否はありますがそんなことを言い出したらM-1グランプリ史上最大の感動と笑いを届けたサンドウィッチマンは何なのか?となってしまいます。

漫才とは何なのかを調べてみたところ過去に偉い人が4類10種に分けて漫才を定義付けしておりここから推測するに「センターマイクの前で笑いを取れば漫才」であるのかなと思いました。マヂカルラブリーは「しぐさ漫才(動きでボケる)」であり、おいでやすこがは「音曲漫才(歌や音でボケる)」です。

私自身、マヂカルラブリーの優勝については何も異論はないです。とはいえ私自身は「しゃべくり漫才」が好きでありますし、マヂカルラブリーは基本的には好きじゃない寄りのネタです。ただ間違いなく昨日一番笑ったコンビのひとつであるとは断言できます。M-1グランプリの勝利条件に「その日一番面白かったコンビ」とある以上は否定できる理由がないです。それでも認められないという人は笑いの好みの問題でしかないのでM-1グランプリをもう見ないことをオススメします。

M-1グランプリ2020開幕

さて本題に入ります。ざっくり総評としては「例年以上から例年並みのレベル」だっと思います。例年と比べても”面白くない”ことはまったくなくちゃんと番組内に山場が数回ありました。「去年よりつまらなかった」という人は2019年が異常な神回だったことを認識してください。機を熟した和牛とかまいたちの2大優勝候補がいて、さらにサンドウィッチマン並の無名の新星ミルクボーイが突如現れる回がそう簡単に繰り返されるわけがありません。

予想については大きく外してしまいました。当たった点は「おいでやすこが」の準優勝だけでした。やはり笑神籤が最大の鬼門です。

敗者復活戦についてはまた別機会で書ければと思いますが「ちゃんと一番面白いコンビが勝ち上がった」という事実が証明されたのが非常に嬉しいです。2018ミキ、2019和牛共に敗者復活戦で一番面白かったと思いつつも「人気だから」で片づけられてたのが少し不快でした。

①敗者復活組(インディアンス) 90点

史上初の敗者復活組のトップバッター。昨年不完全燃焼だったインディアンス。元々トップバッター向きのコンビなのですごく期待してたけど本当に良かったです。序盤はさすがに寒暖差でぎこちなさを感じたけれど、中盤以降ボケの田淵のエンジンが全快になってからが凄かったですし、キムのツッコミもタイミング◎

最大ピークポイントは「〇〇やらせてもらってます」の2回目を田淵が拾い上げて怒涛のボケを繰り出す瞬間。

本来はトップバッターは基準点として85点と決めていますが「トップバッターなのによかった加点2点」+「単純にネタとしてよかった加点3点」としました。上沼恵美子が93点で「他の方の点数が低くてムッとしてます」という言葉はすごく共感しました。

ちなみにキムが「僕昔悪かったんですよ~」というネタフリのくだり。本来は「のびたメガネのキムが実は不良だった」というギャップからそんなわけないと笑いに変えるつもりなんでしょうが昨年こんな画像見せられてるので「でしょうね」でしかなかったのです(笑)

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②東京ホテイソン 93点

準決勝で大爆発してたという多方面からの評価もあり、ネタ自体も好きなタイプなので優勝予想をしていた東京ホテイソン。正直2番手で呼ばれた瞬間に頭を抱えてしまいました。できれば6番目くらいでと思っていただけに。

元々、たけるの備中神楽ツッコミで注目されたのが2017年。そこから徐々にマイナーチェンジを繰り返して今年ようやくM-1初決勝。個人的には今回のネタは彼らの第4形態くらいに思っていて大会前も「果たして第何形態のネタ」をするのか非常に楽しみでした。正直めちゃくちゃ笑いました。アンミカもめちゃくちゃ笑った。元々は一発目の大爆笑をネタ中に超えられないという悩みも抱えていましたが今回は終盤にかけても同じくらいの笑いを取ってたと感じました。

得点としてはインディアンスよりも大笑いした回数が多く、さらにこれまでの進化も感じて93点。ただ審査員の点数が発表されるとその乖離に愕然としました。巨人師匠が「ボケのフリで少し頭を使わなきゃいけないところがしんどかった」みたいなことを仰られており、M-1で勝てるネタの要素に「誰でも簡単に笑えるわかりやすさ」というものもあったなと笑い飯やミルクボーイを思い出しながら納得してしまいました。その点でもう少し前の形態のネタの方がよかったのかなと悔やまれます。アンミカ笑ったんだけどなぁ(しつこい)

③ニューヨーク 94点

優勝候補予想のもう一角が呼ばれてさらに頭を抱える。ネタ自体は昨年とは違い、ニューヨークらしい毒のあるネタにさらに屋敷のキレのあるツッコミが冴えわたっていた。去年の歌ネタが本当に残念だっただけに本来のニューヨークらしさがM-1で観れたことがシンプルに嬉しかった。

ホテイソンよりも全体の笑いの平均値が高く感じたので94点。審査員の得点も納得でした。個人的には「犬のうんこ」のパワーが弱く感じたものの、大会後の反省会でここの部分は準決勝では「蝶を握りつぶす」だったらしくしかもしっかり滑ったので急遽変えた部分らしいです。そこの練りこみが足りてなかったみたいでやはりM-1グランプリの手強さを感じました。

④見取り図 93点

3年連続3回目の見取り図。過去2回は苦戦を強いられており今年こそ3度目の正直となるかに注目でした。個人的にはテンポよくラリーを続けながら盛山のツッコミワード大喜利と架空の登場人物を終盤で回収していくスタイルがほぼ完成しており、これ以上となると大きく型を崩さなければ難しいと感じていたのである意味で注目していました。

やはりしゃべくり漫才としての技術の高さは大会出場者随一で安定感が半端なかったと感じました。さらに手癖を隠せるようコンビ間での横の動きを増やしつつ、前に向けてツッコミをいれたりとナイツ塙がこれまでコメントしていた内容をしっかりクリアして「ナイツ塙にちゃんと評価されたい」というメッセージを勝手に受け取りました(笑)

間違いなしの93点。ニューヨークより1点低いのは大笑いの数が比べて少なかったくらいの話でほぼ同点です。長髪いじりの平場の対応もさすがの一言。正統派が少ない今年の大会ではファーストラウンドでは負けてはいけない存在だったかもしれません。

⑤おいでやすこが 96点

今大会のダークホース。史上初のユニットコンビでの決勝進出。大会前からその評判は高く、自分も今大会一番笑いを取ると思っていました。

以前にも書いたのですがM-1グランプリは2005年以降、ただの漫才の大会ではなく競技と化してきました。島田紳助やナイツ塙も”4分の使い方”が抜群と評するようにいかに「終盤に向けて熱量をあげていけるか」が鍵であり、その過程で「うるさ型のツッコミ(怒り型のツッコミ)」が優位とされてきます。それは2004年のアンタッチャブル、2005年のブラックマヨネーズの優勝により大枠ができあがり、その後のチャンピオンはその声の大きさに差はあれど基本的にツッコミはキレてます。

その点でおいでやす小田はその怒り指数が最大級のツッコミです。絶対に爆笑を掻っ攫うと自身を持って言えましたし、実際にトップ通過の点数を叩き出しました。審査員も全員大絶賛。ただしSNSでは賛否があり「うるさすぎて笑えない」という。昨年のぺこぱの「人を傷つけないツッコミ」が今の世の中を表してると称賛されたことに通ずる意見だなと思いました。ただ前述の通り、M-1グランプリは「終盤に向けて熱量をあげていけるか」を競う競技でありそこでは「うるさ型のツッコミ(怒り型のツッコミ)」が優位とされ、ほとんどの芸人がそのフォーマットを踏襲する以上、うるさ型のツッコミが苦手な人はM-1グランプリをもう見ないことをオススメします。四千頭身のライブに行ってみましょう!

⑥マヂカルラブリー 96点

正直なところまったく期待してませんでした。マヂカルラブリーは14年間ずっとマヂカルラブリーです。マヂカルラブリーという概念を評価するか、評価しないかしかない。

「絶対に笑わせたい人がいる男です」のつかみは今大会の名言の1つ。2017年に酷評された上沼恵美子とのストーリーを知ってるものたちにとっては胸が熱くなる入り。勝負ネタの「高級フレンチ」。序盤、いつも以上に静かめな野田クリスタルに違和感を抱きながらもそういうネタなのかと思ったら一気に暴走しはじめた野田に今日2回目の爆発が起きました。そこから何やっても爆笑の嵐。最後あえて沈黙させたところでちょっと不安になりましたが「終わり!…じゃねぇよ!」のオチがばっちりと決まって文句なしの高得点。おいでやすと同点の96点。

⑦オズワルド 92点

昨年ミルクボーイのあとでもしっかり実力を見せたMr.爆発処理班のコンビ。なんとなくマヂカルラブリーの次に来そうだなと思ったら案の定。常にネタの面白さが安定してて大好きなコンビです。話が早いと思いますがM-1グランプリ2021も間違いなく決勝にくると思います(去年のこの時点で絶対2020決勝くると断言)。ローテンポな東京スタイルながら伊藤の怒り型ツッコミで終盤にかけて熱量をあげていくスタイルはまさにM-1グランプリに勝つための漫才。

得点は92点としたのですが昨年同様翌日に見返してみたらもっと面白いんですよね。今日審査したら95点と感じました。これってつまりミルクボーイやおいでやす、マヂカルラブリーの影響をもろに受けてしまってるんですよね。。。正直なところ笑神籤運さえ解消したら最終3組は間違いないと思います。今から来年が楽しみなコンビです。

⑧アキナ 85点

関西の実力派コンビ。個々人のスキルで言えば決勝参加者の中で一番平均値が高いと思ってます。準決勝ではかなり大ウケだったと聞いておりかなり期待値をあげていました。

結果的に85点と非常に残念でした。これは間違いなく出順が大きく影響してると感じました。準決勝では最初のグループのトリだったこともありその日の一番最初の大ウケだったみたいです。おいでやす&マヂカルラブリーの前だったらもう少し評価は変わったかもしれません。残念ながらアキナのこの結果で会場が一気に疲れを感じ始め、緊張の糸が切れた気がしました。

⑨錦鯉 90点

今大会一番のキャラクターである長谷川まさのりさんをいかに披露できるかと思ってましたがしっかりと個性は見せられたと思います。ただし会場は疲れからか非常に重い印象を受けました。90点。

⑩ウエストランド 92点

怒り型のツッコミ井口の妬み嫉みの連打が売りの漫才。場合によっては大爆発もあるのではと思ってはいましたがおいでやすこが、マヂカルラブリーの爆発の後にもう火力は残ってなかったという印象を受けました。92点。

最終決戦

「おいでやすこが」「マヂカルラブリー」「見取り図」の最終決戦となりました。※個人評価では「ニューヨーク」が3位でした。次のネタも見たかったなと思ってます。

最終決戦はそれぞれのネタの点数というよりも3組でどの組が一番面白かったかになります。

まず1組目は予選3位の見取り図。3組唯一の正統派のしゃべくり漫才。これまでの通例で言えば最後は正統派漫才が勝ってるということもありその点では優勝という点では優位。ネタは盛山のワードセンスあふれるツッコミと存在しないワードの伏線を終盤で回収する見取り図らしい漫才の集大成。予選では動き多めにしつつ、決勝はしっかりとマイクの前でしゃべくりをする変化もありました。

2組目はマヂカルラブリー。ようやく会場に受け入れられた野田クリスタルの魅力を存分にぶつけた動きの漫才。これはコントでは?という意見も多々ありますがもはやコントですらない。そこをしっかり村上が言葉とリズムで4分間持たせてるのはすごいと思います。個人的には好きな笑いではないですが。

3組目はおいでやすこが。予選では小田とこがけんの会話ベースで歌ネタをどんどん挟んでいくスタイルでしたが、決勝では1つの歌ネタを引っ張って小田がツッコミを入れ続けていくかたちに。構成としてはマヂカルラブリーと同じ。とにかくおいでやす小田のツッコミがすべてのネタながらそれを一切邪魔しないこがけんの歌唱力があってこそ。ただ1曲の中で何箇所か中だるみしてしまうのがもったいなかったと思いました。

一番笑ったのは好みもあり「おいでやすこが」でしたが元々予想としてオール巨人と中川家礼二はおいでやすには投票しないと思っておりました。その点含めて唯一の正統派しゃべくり漫才の「見取り図」が優勝するのではと思ってましたがその予想をさらに覆す結果に。

優勝:マヂカルラブリー3票(礼二、富沢、志らく)

2位:おいでやすこが2票(松本、上沼)

3位:見取り図2票(巨人、塙)

これまで上位2組で接戦だったことはありますが先5票を2組が争って残り2票がさらに別のコンビに入って優勝が決まるというパターンは史上初。マヂカルラブリーの優勝でかなり賛否も出てますが「だったら〇〇のほうがよかった」と強く言うこともできない戦いだったので素直にマヂカルラブリーの優勝を祝うべきだと感じます。自分もまったく異論はないです。そもそも今大会は決勝進出者9人の時点で正統派漫才が何人残ってるんだという話ですし。マヂカルラブリーの優勝がどうしても許せない人はM-1グランプリをもう見ないことをオススメします。

審査員についてはまったく不満はないですが強いて言うならば正統派以外を好みがち(最終投票でいつもSNSと乖離がある投票をしがち)な志らくと富沢がいることでそっち側の勝率があがり、結果としてSNSでは荒れる傾向がある気がしてます。2019ミルクボーイくらいわかりやすければいいですが2018霜降り明星、2017とろサーモンでも「何故和牛ではないのか」と荒れた記憶があります。上沼松本巨人のラインが割と和牛のような正統派を好むと思ってますがもう一人そのラインの審査員がいると優勝者が炎上することも少なくなるのではないかと思います。

さらにM-1グランプリは漫才の大会ではないのかという点から「しゃべくり漫才」ではないコンビを下に見るきらいがありますが、M-1グランプリには「新しい漫才の探究」も評価基準のひとつであり、”その日一番面白ければ”センターマイクの前で何をやってもいい競技大会だと思います。面白ければ言葉なしに動き回ってても、ずっと歌を唄ってても構わないです。審査員が認めれば漫才であり、認められなければジャルジャルのように「それはコント」だよと諭されます。

コント漫才のマヂカルラブリーが優勝して「正統派が勝つべきだ」とSNSでは荒れていますがその方々がかつてコント漫才の和牛のネタを棚に上げて「なぜとろサーモンが勝つんだ」と騒いでいた方々ではないことを祈ってます。

それではまた次回。たむら

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