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#208 「日本オートマチックマシン事件」横浜地裁

2008年5月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第208号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日本オートマチックマシン(以下、N社)事件・横浜地裁判決】(2007年1月23日)

▽ <主な争点>
男女賃金差別/昇格等差別的取扱いと不法行為

1.事件の概要は?

本件は、N社の元従業員であったX(女性)が、同社において就労中、女性であることを理由に賃金について男性と差別的取扱いを受けたとして(労働基準法第4条* 違反の不法行為)、N社に対し、男性従業員の賃金の平均額との差額相当の賃金相当損害金(約3580万円)、差額賞与相当損害金(約975万円)、差額退職金相当損害金(約277万円)、家族手当相当額損害金(約280万円)および差額公的年金相当損害金(約430万円)等の損害賠償を請求したもの。

* 労働基準法第4条(男女同一賃金の原則)
「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびXについて>

★ N社は、端子・コネクターおよび各種電子部品の製造販売等を業とする会社であり、東京都に本社を持つほか、複数の工場および事業所等を有し、平成15年当時、412人(男性349人、女性63人)の従業員を雇用していた。

★ X(昭和20年生の女性)は昭和57年12月、N社との間で雇用契約を締結し、総務部に勤務していたが、平成15年7月に同社を退職した者である。

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<本件給与規程等、N社の賃金制度について>

★ N社において、昭和62年に定められた給与規程(以下「本件給与規程」という)によると、従業員の賃金は基本給(本給および加給)と諸手当からなるとされ、そのうち本給は「等級」および「号数」によって定められていた。

★ 「等級」は従業員の従事する職務の質に基づいて定められるものとされ、I等級からVI等級までのランクがある。また、「号数」は従業員の勤務成績ならびに年齢・経験に基づいて定められるものとされ、昇給の手順により毎年累積して上昇する。

★ 本件給与規程において、新規学卒者およびこれに準ずるものはそれぞれ等級号数が定められており、初任給もこの等級号数に応じて定まる。また、中途採用者については、能力および経験に応じて等級号数を定めるものとされている。

★ 「昇格」とは、従業員の等級が上がることをいい、「昇給」とは、従業員の号数が上がることをいうが、原則として毎年4月に行われる従業員の勤務評定(上から順にSないしD)に基づき、号数が上がる。なお、高い等級ほど1つ号数が上がった場合の昇給額も高額である。

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<N社およびXの賃金、等級等について>

★ N社の15年度の賃金台帳等によれば、従業員の基本給月額の平均を年齢ごとに比較すると、50代においては男性従業員(57人)が約39万7000円に対し、女性従業員(13人)が約25万3000円、40代においては男性(109人)が約33万2000円に対し、女性(8人)が約24万2000円であった。

★ 男性従業員と女性従業員の等級を比較すると、VI等級(上級管理職)およびV等級(管理職)は各25人全員を男性が占め、IV等級(監督職)は男性132人・女性5人、III等級(指導職)は男性91人・女性16人、II等級(一般職)は男性66人・女性32人、I等級(補助一般職)は男性12人・女性8人であった。

★ 15年5月当時のX(57歳)の基本給月額は29万5890円(IV等級26号数)であり、Xとほぼ同年齢(50歳ないし60歳)、同学歴(高校卒業)の男性従業員27人のうちXと同じIV等級の男性従業員10人の基本給月額の平均は約35万円、号数の平均は約50号であった(以下「本件賃金等格差」という)。

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<N社における職種等に関する規定、現況について>

★ 現在N社に在籍する新規学卒者の従業員のうち、男性はすべて甲種、女性は1人を除いて全員乙種として採用されており、本件給与規程では甲種の方が乙種よりも初任給の額が高額に定められている。

★ 甲種、乙種の内容について、本件給与規程および就業規則上定めはなく、ある従業員が甲種か乙種かについては人事管理簿に記載されず、管理職も把握していない。また、就業規則上、従業員には例外なく転勤命令に服する義務が課せられている。

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