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#128 「ケービーアール事件」大阪地裁

2006年3月15日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第128号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【ケービーアール(以下、K社)事件・大阪地裁判決】(2005年7月21日)

▽ <主な争点>
取締役の従業員としての退職金請求権の有無

1.事件の概要は?

本件は、K社の取締役であったXが同社に対し、従業員兼取締役であったことを理由に既払い分を控除した従業員としての退職金(約650万円)等を求めたもの。

これに対して、K社は(1)Xは取締役であって従業員を兼務していない、(2)会社設立以前にXが従業員であったとしても、K社は会社設立以前のXに対する退職金支払い義務を承継していない、(3)XとK社との間には債権債務がない旨の合意があるとして、Xの請求を争った。

2.前提事実および事件の経過は?

<XおよびK社等について>

★ Xは昭和38年11月、洋書の輸入販売等を業とするT社に入社し、主に営業に従事した後、63年3月には同社の取締役に就任した。さらに平成5年頃、専務取締役としてA営業所に赴任した。

★ K社はT社の100パーセント子会社として、6年3月に設立された。同社設立に際し、T社の卸売部門(物流管理部門)については、K社が行うこととなり、同部門の従業員らもK社に転籍し、同社において勤務するようになった。

★ XはK社の設立と同時に同社の取締役に就任したが、業務の状況や就労の状態は変わらず、専務取締役としてA営業所を取り仕切っていた。Xは一般の従業員と同様の業務にも従事していたが、勤務時間については自ら管理しており、一般の従業員と異なって、残業手当を受領することはなかった。

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<Xに対する退職金等について>

▼ 10年2月、T社はK社の株式および経営権をP社に対して譲渡し、Xは他の2名とともにK社の代表取締役に就任した。11年4月当時、XはK社から基本給の名目で月額64万1000円を支払われていたが、同年6月、同社を退職した。

▼ K社は12年10月頃、Xに対し、128万2000円を翌13年1月までに分割して支払うことを約束した。その合意に際し、K社はXに対して「今回のお支払い終了後、貴殿と弊社の関係において金銭の貸借に関しては一切ないことをここに確認するものとする」旨が記載された書面を送付したが、Xはその書面の文言について異論を唱えたり、未払いの退職金がある旨の主張をしたりすることはなかった。

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