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#152 「Y銀行事件」東京地裁

2006年9月13日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第152号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【Y銀行事件・東京地裁判決】(2005年10月7日)

▽ <主な争点>
退職の意思表示の撤回、錯誤無効、強迫による取消し等

1.事件の概要は?

本件は、Y銀行に対して退職の意思表示をしたXが、意思表示の撤回、錯誤無効、強迫による取消しを主張し、Y銀行が予備的にした解雇も無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、賃金の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<XおよびY銀行等について>

★ Xは昭和61年4月、A証券に入社し、その後の金融業界の再編に伴い、平成14年4月、B証券に転籍し、次いで15年4月、Y銀行に転籍し、同銀行との間に雇用契約関係が成立した。

★ XはY銀行への転籍と同時に、C証券に出向となり、15年5月以降、個人および法人顧客を対象とする株式等の販売業務に従事していた。

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<本件事件および本件退職の意思表示等について>

▼ Xは16年2月20日、地下鉄M駅前のコンビニエンスストアにおいて、陳列棚から商品の化粧品一点とビタミン入り飲料一点(代金合計1988円)を取り、代金を支払わないままこれら商品を携行して店外に出て、店員らに呼び止められた(以下「本件事件」という)。

▼ Xは同年3月5日、本件事件について、C証券コンブライアンス委員会の委員長である弁護士のDらから事情聴取を受けた。

▼ Xは同月8日、Y銀行およびC証券両社宛の退職届を作成し、Y銀行に提出した。これには「私は一身上の都合により、Y銀行とC証券との出向契約を解約していただき、16年4月末日をもって、Y銀行を自主退職しますので、この旨お届けします」と記載されていた(以下「本件退職の意思表示」という)。

▼ XはY銀行に対し、同月22日同銀行到達の書面により、本件退職の意思表示を撤回する旨の意思表示をした。さらに、Xは同年6月7日までにY銀行に到達した仮処分命令申立書により、重ねて本件退職の意思表示を撤回する旨、また、同意思表示は強迫によるものであるから取り消す旨の意思表示をした。

▼ Xは同年9月、本件訴えを提起した。Y銀行は同年12月、Xに対し、書面で予備的に(1)本件事件におけるXの行為が就業規則70条1項16号に該当し、かつ情状も悪いとして、同67条1項6号に基づき諭旨解雇とする旨、(2)諭旨解雇が認められない場合は、就業規則54条4号に該当するため普通解雇する旨の意思表示をした(以下、一括して「本件解雇」という)。

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<Y銀行就業規則について>

★ Y銀行を含むYフィナンシャルグループの就業規則52条は、職員は「職員が退職を申し出て会社の承認を得たとき」(1項3号)は、退職する旨を定めている。

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