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#589 「ロバート・ウォルターズ・ジャパン事件」東京地裁(再掲)

2023年6月7日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第589号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【ロバート・ウォルターズ・ジャパン(以下、R社)事件・東京地裁判決】(2021年9月28日)

▽ <主な争点>
通勤による新型コロナウイルスへの感染不安を訴える派遣労働者に対する健康配慮義務違反および雇止めの違法性など

1.事件の概要は?

本件は、R社との間で期間の定めのある労働契約を締結していたXが同社に対し、Xが新型コロナウイルスへの感染を懸念して在宅勤務を求めていたにもかかわらず、Xを派遣先会社に出社させたり、在宅勤務等を希望するXを疎んで雇止めにしたり、雇止めに関しその理由を具体的に説明しなかったりしたと主張し、これらはXに対する一連の不法行為に当たるとして、不法行為に基づき慰謝料450万円および弁護士費用相当額45万円の合計495万円ならびにこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<R社およびXについて>

★ R社は、労働者派遣事業等を目的とする会社である。

★ Xは、R社との間で、2020年2月25日に期間の定めのある労働契約(以下「本件労働契約」という)を締結した者である。

★ 本件労働契約においては、「雇用期間・派遣期間ともに2020年3月2日から同月31日まで、派遣先は甲社、業務内容等は情報システム開発、就業時間は午前9時から午後5時30分まで(休憩時間1時間)、賃金は時給5000円」とされていた。


<Xの勤務状況、R社・甲社の対応等について>

[出勤時刻の繰下げおよび在宅勤務の要望]
▼ Xは2020年2月下旬頃、日本国内でも新型コロナウイルスの流行が始まっていたことなどから、R社の担当者であるAに対し、通勤を通じて同ウイルスに感染する不安を訴え、甲社への出勤時刻をずらし、通勤電車の混雑時間帯を避けることができるようにするとともに、当面の間、在宅勤務としてもらえるよう、甲社と調整してほしいと依頼した。

[R社および甲社の対応等]
▼ Aは同月29日、Xに対し、上記の懸念に理解を示しつつも、全てのオフィスを閉鎖しなければならないとする政府ガイドラインはなく、甲社にはXに出勤を求める権利があること、そして、同社は少なくとも最初の数日間は職場に慣れてもらうためのサポート等をする必要があり、業務用パソコンを渡したり、チームメンバーに会ってもらうために、オフィスへの出勤を求めている旨伝えた。

▼ Aはその一方で、Xが示した上記の懸念や要望を受けて、同日、Xの指揮命令者となる甲社のBマネージャーに対し、在宅勤務や出勤時刻の繰下げを検討することを依頼した。

▼ これに対し、Bマネージャーから3月2日は、Xが混雑する電車を避けることができるように、午前10時に出勤してもらいたいこと、その後、Xと会って在宅勤務について話し合うことなどを伝えられたため、AはXに対し、その旨を報告したところ、Xは「Perfect! Thanks!」(完璧です!ありがとう!)と返信した。

▼ Xは3月2日、甲社にタクシーを使って出勤し、タクシー代相当額は後日、R社からXに対して支払われた。また、Xは同日、甲社との間で同日以降も出勤時刻を午前10時とすることを確認した。

★ Xは同月9日までは甲社に出勤して就労していたが、同社から在宅勤務の許可を得たことから、同月10日からは在宅勤務をするようになった。

▼ Xは在宅勤務中、始業時刻を3時間繰り上げて午前7時とし、その分、終業時刻も繰り上げて午後3時30分としたところ、Bマネージャーはこれを問題とし、R社に対し、甲社での就業時間についてXに理解させてもらいたい旨を依頼した。Aは同月16日、Xに対し、Bマネージャーからの要求を伝えた。

▼ その後、BマネージャーはAに対し、Xの在宅勤務を打ち切り、出勤を求めることにした旨を伝えた。

▼ Aは同日、再びXに連絡をとり、(1)BマネージャーがXに在宅勤務をやめて出社するよう要請していること、(2)在宅勤務時間中の就業時間は午前9時から午後5時30分までであること、(3)Bマネージャーとの間でこれ以上新型コロナウイルスに関する議論をしないことを確認したいと伝えた。


<本件労働契約の終了告知(本件雇止め)等について>

▼ 甲社はR社に対し、Xの派遣に関する労働者派遣契約を更新しない旨を告知した。

▼ R社は同年3月19日、Xに対し、甲社から上記告知があった旨を伝え、これに伴い本件労働契約は同月31日をもって期間満了により終了する旨を通知した(以下「本件雇止め」という)。

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