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#141 「T社(引受債務請求等)事件」東京地裁

2006年6月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第141号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【T社(引受債務請求等)事件・東京地裁判決】(2005年7月12日)

▽ <主な争点>
損害賠償(貸付基準に反する融資による損害と会社による求償)

1.事件の概要は?

本件は、消費者金融業者であるT社が元社員であるXに対し、主位的に各顧客が同社から融資を受けたことによる借入金債務について、Xが債務引受をしたとして、上記引受債務のうち、1年以上未収の貸付先に対する融資残高を請求し、予備的にXがT社の定める内規に違反して、いわゆる紹介屋から多数の借主の紹介を受け、紹介屋と共謀の上、融資申込者に収入証明等について虚偽の申告をさせながら、これらの事実を同社に秘して、顧客に対し貸付をなさしめたとして、T社とXとの間の雇用契約上の債務不履行または不法行為に基づき、損害賠償等を請求したもの。

反訴請求は、XからT社に対し、同社がXを長時間監禁し、供述書等を書くことを強要した行為は不法行為に当たるとして、慰謝料等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は全国各地に多数の支店を有する我が国有数の消費者金融業者である。

★ Xは平成7年2月、T社に入社したが、13年8月、支店長から一般社員に降格となり、Y支店に転勤を命ぜられた。そして、Y支店に着任してからは当時の支店長であったAの下で同人の決裁を仰ぐ立場となった。

★ T社では各支店において3ヵ月連続で営業目標を達成できなかった場合、その支店の支店長は降格処分となる取扱いがなされていた。

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<本件貸付等について>

▼ Y支店において、A支店長は13年9月から14年1月まで、Bからの紹介により、約70人の顧客に対して貸付を行うことにより、T社が同支店に対して課していた新規貸付の営業目標の達成を図っていた。

▼ しかし、Bによる紹介客に対する貸付は、貸付の翌月から弁済金の入金がない状態(未収)となり、14年1月になると、B自身のY支店からの借入金についても弁済が滞るようになり、A支店長はBと連絡をとることができなくなった。

▼ 同じ頃、A支店長がXに対してCによる紹介融資を受け入れるよう働きかけたことにより、Cからの紹介先に対する融資が急増した(以下「本件貸付」という)。

★ Xによる、Cからの紹介案件についての貸出業務の遂行は以下のとおりであった。

(1)XはCから顧客の信用調査について依頼を受けると、T社の情報センターに紹介顧客の信用情報の照会を行い、貸出可能と判断された顧客をCに連絡する。
(2)Cは貸出可能と判断された顧客に対し、T社からの融資が可能となるように内容虚偽の給与明細を顧客に交付して、Y支店に融資申込みに行かせる。
(3)Y支店において、Xが他の従業員とともに在籍確認等の融資手続を遂行する。
(4)A支店長の決裁によって融資が実行される。

★ XはCからの紹介顧客に対する貸付が「1個人の紹介による3名以上に対する貸付はできない」というT社の貸付基準に違反していることを認識していた。

★ Cから紹介された顧客が持参する給与明細はその多くが特定の7社により発行されているものであった。また、Cからの紹介顧客のほとんどが20代か30代であり、給与明細を発行している会社が上場企業でもないのに1000万円を超える年収がある旨記載されていた。

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<Xへの事情聴取および退職に至る経緯>

▼ 14年4月、T社による定例検査により、本件貸付がいわゆる紹介屋であるCからの紹介者に対する貸付であることが発覚した。

▼ 同月24日から26日にかけてのT社による事情聴取の結果、Xは本件貸付がCから紹介を受けた顧客に対する融資であることを認め、その経緯を書いた供述書を完成させ、T社の用意したひな形を書き写す方法で作成した誓約書に署名押印をした。

★ 上記事情聴取の際、XはCからリベートをもらっていないか再三にわたり問いただされ、リベートをもらったことを認めろと要求されることもあった。また、事情聴取を行った社員の一人とともに銀行へ赴き、すでに受領していた決算賞与約9万円を引き下ろし、これをT社経理部に返金した。

★ 上記誓約書には「今回の件につきましては、責任を持って必ず全額を返済することを誓約いたします」との表記があったが、別紙の債務一覧には会員番号・残元金・貸付日の記載しかなく、Xが誰の債務を引き受ける趣旨なのか明確ではなかった。

▼ その後、Xは上記両文書が意に反したものであることを理由にその返却を求めるとともに、同年6月3日付で退職届をT社に提出した。同月4日、T社からXに対し、諭旨解雇する旨の書面が到達した。

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