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#97 「宣伝会議事件」東京地裁

2005年7月27日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第97号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【宣伝会議(以下、S社)事件・東京地裁判決】(2005年1月28日)

▽ <主な争点>
入社前研修への不参加等を理由とする内定取消しの適法性など

1.事件の概要は?

本件は、S社から採用内定(以下「内定」という)を受けていたXが、S社によって内定を違法に取り消されたとして、債務不履行に基づき、S社に対して、逸失利益、慰謝料等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<S社およびXについて>

★ S社は雑誌の出版および広告宣伝の教育指導等を目的とする会社である。

▼ 大学院で博士号取得のため、環境科学の研究を行っていたX(女性)は指導教授であったYの紹介でS社の面接を受け、平成14年6月、15年3月31日までに論文審査を終えることを条件として、15年4月1日を入社日とする内定の通知を受けた(以下「本件内定」という)。

▼ Xは上記内定通知の際、S社から「試用期間が3ヵ月であること、14年10月から2週間に1回、多少課題が出される2、3時間程度の入社前研修に参加しなければならない」などの説明を受け、研究に支障はないと判断してこれに同意した。

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<入社前研修開始後の経緯>

▼ 実際に研修が始まると、Xは研修への参加と課題消化の負担が大きく、研究との両立に困難を感じたため、Y教授に相談したところ、同教授から「S社に掛け合って、研修への参加は免除された」旨伝えられたので、S社には連絡することなく、14年12月18日以降の研修には参加せず、研究に専念した。

★ S社が内定者に与えた各課題は、消化のために延べ1日ないし2日を要する分量であり、Xも各課題のため約1週間毎日2、3時間ずつを割いていた。

▼ その後、S社はXに対して、博士号にかかる上記の条件を採用条件から外すとして、15年3月末に実施する直前研修に参加するように求め、そうでなければ、4月1日の入社を取りやめ、中途採用試験を再度受験してもらうことになると告げた。

▼ XはY教授と相談し、論文審査を延期して、3月26日から3日間、直前研修に参加したが、研修担当講師の評価では「Xは積極性に欠け、他の内定者から浮いており、レポートも良くない」との指摘がされていた。

▼ S社は同月28日の研修終了後、Xに対し、研修が遅れているとして、試用期間を6ヵ月に延長するか、博士号取得後、中途採用試験を受け直すかのいずれかを選択するよう再三求めたが、Xはいずれの選択も拒否し続けた。

▼ S社ではXが入社を辞退したものと認識していたのに対し、S社から内定を取り消されたと認識していたXは同月31日付でS社に対し、「内定辞退の事実はなく、内定を取り消されたものであるが、このような状態では4月1日以降出社しても通常の業務に就くことはできないから、出社しない」との内容証明郵便を差し出した。

▼ Xは15年5月1日から16年3月31日までの間、大学の研究所の非常勤職員として勤務し、博士論文の内容を充実させるとして研究を継続している。

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<S社の就業規則について>

★ S社の就業規則では、試用期間について、次のとおり定めているが、内定について特段の定めはない。なお、XはS社から就業規則を示されたことはなかった。

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