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#364 「X社事件」東京地裁

2014年7月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第364号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【X社事件・東京地裁判決】(2013年9月25日)

▽ <主な争点>
従業員の社内での盗撮行為と会社に対する損害賠償請求など

1.事件の概要は?

本件は、女性社員YがX社(土木建築業)に対し、(1)X社が雇用していたBが職場でYの着替えを盗撮したことに関し、民法715条(使用者等の責任)1項に基づき、(2)X社が被用者の盗撮行為を防止すべき雇用契約上の義務を怠ったとして民法415条(債務不履行による損害賠償)に基づき、また、(3)盗撮発覚後にX社は事実をもみ消そうとするといった不誠実な対応をしたとして同条に基づき、慰謝料200万円およびこれに対する遅延損害金、ならびに平成23年12月分の賞与のうち不足分10万円等の各支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X社、Y、AおよびBについて>

★ X社は、土木建築の請負等を業務とする会社であり、東京都内に本店を置いている。

★ Y(昭和38年生の女性)は、平成8年にX社に雇用され、同社の千葉支店で勤務していた者である。

★ Aは、平成8年当時の千葉支店の支店長であり、YはAの紹介でX社に入社した。その後、Aは平成20年1月に定年退職するまで同支店の支店長であった。

★ B(昭和24年生の男性)は、Aの後任として千葉支店の支店長に就いた者である。

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<本件盗撮行為とその後の経過等について>

▼ 平成23年6月29日、Bは午前8時37分頃から46分頃までの間、X社千葉支店のロッカー室において、Yの着替えをのぞき見る目的で紙袋にビデオカメラを入れ、Yの姿を録画撮影した(以下「本件盗撮行為」という)。

★ Bは出勤したYがポットの湯を沸かす等の作業をしている間に施錠されていないロッカー室に入り、ビデオカメラを作動させて退出し、その後に入室したYが着替えをするのを盗撮していたものであり、Bはこれと同様の行為を少なくとも同年6月初旬頃から同月28日頃までに週に1、2回行っていた。

▼ 同日、Yは事務服に着替えた後にビデオカメラが作動しているのを発見し、Bが離席したすきにビデオカメラを持って千葉中央警察署に行き、上記被害を申告した。

▼ 同年7月1日、X社がBから事情聴取を行ったところ、Bは本件盗撮行為を認め、同年6月30日付の退職届を提出したが、同社はBに対し、懲戒解雇があり得るので、退職届は受理しない旨伝えた。

▼ 同月7日、X社は取締役会で就業規則62条、表彰および懲戒規定4条2項9号の「セクシャルハラスメントにより円滑な職務遂行を妨げ、就業環境を害し、または一定の不利益を与えるような行為を行ったとき」に該当するとして、Bを懲戒解雇とすることを決定し、Bにこれを通知した。

▼ YはX社の社内に対し、Bを本件盗撮行為により懲戒解雇したことを周知してほしい旨要望したが、同社は周知しなかった。

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<X社とAとの間の訴訟等について>

▼ AはX社を定年退職してまもない平成20年、東京地方裁判所に対し、同社を被告として、「平成12年3月にX社について始まった税務調査の対策として、『X社千葉支店長であるAが同社の発注先から架空の請負代金合計4億円余をA管理の口座に振り込ませて同金員を費消し、X社に同額の損害を与え、AがX社に損害賠償債務を負担している。その一部弁済としてAが同社に金員を支払った』との外形を作出する目的で、X社とAとの間でAの財産を同社に一時的に預託することを合意し、AはX社に対し、その合意に基づいて合計6282万1622円を預託した」等と主張し、預託金返還請求権を含む1億0150万円余の支払いを請求する訴えを提起した。

▼ X社は東京地裁に対し、Aを被告として、「Aが千葉支店長の地位を利用して、X社の受注先に請負代金を水増しして同社に請求させ、事情を知らないX社が発注先に支払った後に受注先から外注費名目で水増し分合計4億円余をA管理の口座に振り込ませて同金員を着服した」等と主張して、労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償として3億円余の支払いを請求する訴えを提起した。両事件は併合されて審理されていた。

★ 同訴訟において、X社が管理しているはずの書類をAが書証として提出したことから、同社代表者はX社本社および千葉支店からの情報漏えいを疑い、平成20年頃、専門業者を呼んで両事業所で盗聴器を探索したことがあった。

▼ 24年5月、東京地裁は同訴訟につき、X社のAに対する損害賠償請求を一部認容する等の判決をした。当事者双方が同判決中敗訴部分を不服として控訴し、現在、同事件は東京高等裁判所に係属中である。

3.女性社員Yの主な言い分は?

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