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#243 「日本インシュアランスサービス事件」東京地裁(再掲)

2009年9月30日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第243号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日本インシュアランスサービス(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2009年2月16日)

▽ <主な争点>
休日の事業場外労働と労働時間の算定等

1.事件の概要は?

本件は、生命保険会社が行う契約選択業務に係る確認業務を受託しているN社の業務職員であるAら5名が、休日労働を行ったと主張して、休日労働手当について支払われた額との差額等の支払いをN社に対し、求めたもの。

なお、業務職員は、N社から送付される担当案件の資料を自宅で受領し、指定された確認項目にしたがい、自宅から確認先等(保険契約者宅、被保険者宅・病院・警察・事故現場等)を訪問し、事実関係の確認をし、その確認作業の結果を確認報告書にまとめ、本社や支社に郵送またはメール等で送付する。このような業務職員の確認業務は、各業務員の自宅を起点として、直行・直帰で行われることから、事業場外労働のみなし労働時間制が採用されている。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびAら等について>

★ N社は、生命保険会社の契約調査業務の代行会社として設立され、生命保険制度の健全な運営を実現するために生命保険会社が行う契約選択業務に係る確認業務を受託している会社である。

★ N社の業務職員は、平成19年4月現在、117名である。また、同社には業務職員の労働組合として、18年3月以降、下記のAらが所属するNIS第一労働組合(以下「第一労組」という)等がある。

★ N社が取り扱う主要な業務は、(1)生命保険の死亡保険金や各種給付金等の支払いに際し、告知の有無、事故の状況や事故により生じた障害の状態、入院加療の内容等を確認する業務、(2)生命保険、生命共済などの新たな契約を締結する際に、その契約の諾否を決定する為に必要な判断材料を収集することを目的として実施するもので、被保険者の健康状態、職業、契約者の収入状態、および契約者・被保険者・受取人の関係、申込み動機等について確認を行う業務、(3)損害保険の調査に関連した確認業務である。

★ Aら5名は、N社と雇用契約を締結した業務職員であり、上記(1)ないし(3)の各業務に従事している。

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<業務職員の確認業務の手順等について>

★ 業務職員が行う確認業務の手順は、以下のようなものである。

(1)業務職員はN社から宅急便やメール等により送付される担当案件の確認業務に関する資料を自宅で受領する。その後、指定された確認項目にしたがい、自宅から確認先等を訪問して、事実関係の確認を実施し、その確認作業の結果を確認報告書にまとめ、本社ないしは支社に郵送またはメール等でこれを送付する。

(2)業務職員は10日ごとに活動日報を提出することとされている。活動日報は、業務交通費を支給する際の根拠となる資料という意味合いが強かったため、N社は、訪問先・走行距離等を活動日報に記入するよう求めていたものの、業務に要した時間を記入することは求めていなかった。

(3)以上のような業務職員の確認業務は、各業務職員の自宅を起点として、直行・直帰で行われるため、業務職員は、本社あるいは支社に出社することはなく、原則として月に一度、情報の共有、研修を目的として支社等のN社が指定する場所へ出社するのみである。

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<業務職員の労働時間等について>

★ 業務職員は就業規則において、土曜日が特別休日、日曜日が休日とされている。

★ 平日の就業時間は、「労働時間7時間 休憩時間1時間」、就業時間の配置については「始業9時00分、終業17時00分、休憩は就業時間中適時行う」とされ、「日常の確認活動については、通常の労働時間就業したものとみなす」とされている。

★ 業務職員の確認業務は上記のように、各職員の自宅を起点として、直行・直帰で行われ、業務職員はその確認業務を専ら事業場外で遂行することから、「事業場外労働のみなし労働時間制」が採用されている。

★ 業務職員は確認業務の遂行にあたり、労働時間の配分を自己の裁量で行っており、各業務の処理にあたっての優先順位付けや確認先とのアポイントメント等、業務に関する作業の段取りも自己の裁量で行い、N社が各業務の遂行に関し、個別具体的な指示を行うことはない。

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<N社が休日労働手当の精算を行うまでの経緯等について>

▼ 18年1月、N社は労働基準監督官から、Aの17年5月11日から同年8月10日までの休日の就業に関して、同人の時間外労働および休日労働に対し、割増賃金を支払うよう是正勧告を受けた。

★ これは、N社が是正勧告を受けるまで、業務職員の活動日報に休日に就業した旨記載されていても、代わりに平日に休みを取ることとされていたために、実際に平日に休みを取ったか否かにかかわらず、当該休日の賃金を支払っていなかった実態を受けたものであった。

▼ 上記是正勧告を受けて、N社は18年1月中に業務職員の各組合、各業務職員に対して、15年12月11日以降17年11月10日までの期間における未払いの時間外労働手当、休日手当を支払う旨を通知した。

▼ N社は18年3月、各組合および各業務職員に対して、上記期間の休日労働に関して、15年12月11日以降の休日において、活動日報に就労した旨の記載がある場合、確認場所間の移動時間、確認に要した時間、報告書の作成に要した時間、机上事務等に要した時間、書類の郵送手続きに要した時間については労働時間として扱い、これに対する賃金を支給する旨連絡した。

▼ 同時にN社は上記期間中の休日における各業務職員の労働時間を算定した後、その結果を業務職員に提示し、同社と業務職員との間で労働時間の確認を行う旨を連絡した。

▼ N社は各組合の姿勢を考慮した結果、各業務職員と休日労働についての賃金の精算に関するすり合わせを行い、各業務職員の了解を得て精算を行う方針とした。業務職員が報告書作成、および机上事務を活動日報に記載していたか否かは業務職員ごとに区々(まちまち)であったことから、活動日報に記載がなかった場合であっても、報告書作成または机上事務を毎月2回行ったものとして扱うこととし、その旨を各組合および各業務職員に連絡した。

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