見出し画像

#490 「A市事件」神戸地裁(再掲)

2019年7月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第490号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【A市事件・神戸地裁判決】(2016年11月24日)

▽ <主な争点>
コンビニエンスストア店員へのセクハラ行為を理由とする停職処分など

1.事件の概要は?

本件は、兵庫県A市の男性職員であるXが勤務時間中に立ち寄ったコンビニエンスストアの女性従業員に対してわいせつな行為等をしたことを理由にA市長(処分行政庁)から停職6ヵ月の懲戒処分(本件処分)を受けたため、処分行政庁の所属する同市に対し、本件処分は重きに失するものとして違法であるなどと主張して、その取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A市およびXについて>

★ A市は、兵庫県に所在する普通地方公共団体である。

★ Xは、平成3年4月にA市の職員として採用され、22年4月から自動車運転士として主に一般廃棄物の収集、運搬の職務に従事していた者である。なお、Xは地方公務員法(地公法)57条に規定する「単純な労務に雇用される者」である。

--------------------------------------------------------------------------

<本件処分に至った経緯等について>

★ Xは22年頃から勤務時間中にA市の市章のついた作業着を着用したまま同市内所在のコンビニエンスストア(以下「本件店舗」という)を頻繁に利用するようになり、その際、女性従業員らを不快にさせる言動をしており、これを理由の一つとして退職した者もいた。

▼ Xは26年9月30日午後2時30分頃、勤務時間中に上記作業着を着用して本件店舗を訪れた。その際、顔見知りの女性従業員に飲み物を買い与えようと自らの左手を女性の右手首に締めるようにして飲料のショーケースの前まで連れて行き、商品を選ばせた上で自らの右手で女性の左手首をつかんで引き寄せ、その指先を作業服の上から自らの股間に軽く触れさせた。

▼ 女性従業員はXの手を振りほどいて店舗の奥に逃げ込んだ。同日、本件店舗のオーナーはXが所属するA市の部署に宛てて、上記行為を申告するメールを送信した。

▼ 同年11月7日、A市職員が勤務時間中にコンビニエンスストアでセクシュアル・ハラスメントをしたが、同市は店舗の意向を理由に処分を見送っている旨が新聞で報道された。

▼ これを受けて、A市が記者会見を開き、今後事情聴取をして処分を検討する旨の方針を表明したところ、同月8日の新聞各紙に記者会見に関する記事が掲載された。

▼ A市長(処分行政庁)は同月26日付でXに対し、地公法29条(懲戒)1項1号、3号に基づき同日から6ヵ月の停職を命じる懲戒処分(以下「本件処分」という)をした。その辞令とともにXに交付された処分説明書には処分理由として下記の記載がある。
                記
あなたは、26年9月30日に勤務時間中に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて、そこで働く女性従業員の手を握って店内を歩行し、当該従業員の手を自らの下半身に接触させようとする行動をとった(以下「行為1」という)。

また、以前より当該コンビニエンスストアの店内において、そこで働く従業員らを不快に思わせる不適切な言動を行っていた(以下「行為2」という)。

このことは、公務に対する信用を著しく傷つける行為として地公法第33条(信用失墜行為の禁止)に違反する行為であるとともに、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行である。

よって、地方公務員法第29条第1項第1号および第3号の規定に基づき、懲戒処分として停職6ヵ月を妥当とする。

--------------------------------------------------------------------------

<A市における懲戒処分に関する条例と懲戒処分の指針等について>

★ 一般職に属する地方公務員に対する懲戒処分には戒告、減給、停職、免職の4種がある。A市においては、職員の懲戒の手続及び効果に関する条例2条により、懲戒処分はその旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならないとされている。

★ 上記懲戒条例4条によれば、停職の期間は1日以上6ヵ月以下とされ、この間、停職者は職務に従事せずいかなる給与も支給されないとされている。

★ A市は「職員の懲戒処分に関する指針」を定め、懲戒処分に付すべき標準的な事例を選び、それぞれにおいて処分の標準例を規定している。ただし、具体的な処分量定の決定にあたっては、(1)非違行為の動機、態様および結果、(2)故意または過失の度合い、(3)職員の職務上の地位や職務内容、(4)A市、他の職員および社会に与える影響、(5)他の行政処分、刑事処分の程度等のほか、過去の非違行為やその後の対応等を含め総合的に考慮の上判断するものとされており、個別の非違行為の内容によってはそこに掲げる量定以外とすることもありうるとされている。

ここから先は

3,383字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?