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#532「辻・本郷税理士法人事件」東京地裁(再掲)

2021年3月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第532号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【辻・本郷税理士法人(以下、T法人)事件・東京地裁判決】(2019年11月7日)

▽ <主な争点>
パワーハラスメントを理由とする懲戒処分(訓戒)など

1.事件の概要は?

本件は、XがT法人からパワーハラスメント行為等の事由により訓戒の懲戒処分を受けたところ、同処分は懲戒事由が認められず、懲戒権の濫用(労働契約法15条)により無効であると主張し、同法人に対し、同処分の無効確認を求めるとともに、不法行為に基づき、損害賠償金200万円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T法人およびXについて>

★ T法人は、税務業務を行う税理士法人である。

★ Xは、T法人と雇用契約を締結し、平成27年11月から人事部の課長として勤務している者である。

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<本件処分に至った経緯等について>

★ Xは部下のA(パート社員として勤務していた韓国籍の女性)のビジネスマナーや言葉遣いについて注意、指導することがしばしばあり、また、AがXの指導する内容を理解せず、反抗的な態度を示すことに対しても注意することがあった。

▼ T法人のコンプライアンス室は平成29年6月、Xによるパワーハラスメント行為について匿名による通報を、また同年7月、Xから人事部長のBによるXに対するパワーハラスメント行為について通報を受けた。

▼ T法人は顧問弁護士のCに上記各パワーハラスメント行為の有無および評価について調査(以下「本件調査」という)を依頼し、同弁護士はXおよびB部長、ならびに他の従業員に対する事情聴取を行い、同年7月28日付で調査報告書(以下「本件報告書」という)を作成した。

▼ T法人は本件報告書を踏まえ、同年8月15日、Xに対し、訓戒とする懲戒処分(以下「本件処分」という)を行った。懲戒処分通知書には次の記載がある。
 懲戒内容 訓告処分とし、人事部から代々木支部への転勤を命ずる。
 懲戒規定 就業規則79条(18)(8)に抵触
 懲戒理由 XのAに対する行為として指摘されたもののうち、Aの国籍に関する差別的言動および「席の横に立たせて注意をする」「人事部あるいはフロア全体に聞こえるような大声で怒鳴りつける」という注意の態様はパワーハラスメント行為に該当するものと判断した。上記のほか、遅刻が多い、出社してから20~30分ほどトイレにこもって化粧をしている、などの行為が確認されており、これらについても上記規定に抵触するものと判断した。

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<T法人の就業規則の定めについて>

★ T法人の就業規則には懲戒処分に関し、以下のような規定がある。

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