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#86 「仙台セクハラ(自動車販売会社)事件」仙台地裁(再掲)

2005年5月11日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第86号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【仙台セクハラ(自動車販売会社)事件・仙台地裁判決】(2001年3月26日)

▽ <主な争点>
契約の合意解約/損害賠償(女性用トイレ侵入事件と職場環境配慮義務違反等)

1.事件の概要は?

本件は、Y社に勤務していたX(女性)が女性用トイレ内に男性従業員が潜んでいたのを発見したが、この事件においてY社が初期の対応を怠ったとして、反抗的な態度を取り続けたところ、同社から退職を迫られて退職した。これについて、XはY社の不適切な対応により、勤務の継続を断念することを余儀なくされたとして、Y社に対して、雇用契約上の地位の確認や同社の職場環境配慮義務違反などの不法行為に基づく損害賠償等を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Y社およびXについて>

★ Y社は、自動車、原動機付自転車およびこれらの部品の販売ならびに修理加工等を目的とする会社であり、10年5月当時、13拠点の営業所を有し、250名余りの従業員を擁していた。

★ Xは昭和39年生まれの女性であり、平成2年3月、営業職社員としてY社に採用され、同社のZ店において、販売係(営業担当)の業務に従事していた。

★ Y社Z店の人員構成は10年5月当時、店長(男性)、営業係長(男性)2名、販売係のX、整備担当マネージャー(男性)、整備員(男性)3名、整備サービス事務(女性)そして洗車パート(女性)の合計10名であった。

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<男性従業員Aによる女性用トイレ侵入事件>

▼ 10年1月4日、初売りのためZ店に出勤していたXが掃除用のモップを出そうとして、店舗内の女性用トイレ(以下「本件女性用トイレ」という)内にある掃除道具置き場の扉を開けたところ、整備担当の男性従業員Aが中でしゃがみ込んでいるのを発見した(以下「本件侵入事件」という)。Aはその日非番だったが、土産を持って、Z店に遊びに来ていた。

▼ Xは驚きのあまり、悲鳴を上げて通路に飛び出し、Aはその間に本件女性用トイレから出て、自分の車で逃走した。XがAの携帯電話に電話をしたところ、Aは「自分は覗きをしたくていたのではなく、頼まれて女性がトイレで用を足している写真を撮っていた」と打ち明けた。

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<本件女性用トイレの構造>

★ Z店のトイレは、男性用、女性用に分かれ、社員および顧客が兼用で使用していた。本件女性用トイレの中には個室トイレ(有施錠)1つと掃除道具置き場(無施錠)があり、個室トイレと掃除道具置き場は仕切り板1枚で区切られていた。

★ この仕切りには、床面から最大で約6.5センチの空間があり、また床からの高さ82センチに位置する水道管の穴の周りにも隙間があって、掃除道具置き場から個室トイレ内を見通すことが可能であった。

★ 掃除道具置き場は本件女性用トイレ内にしかなく、女性従業員がいないときには男性従業員が本件女性用トイレ内に入って掃除道具を出し入れすることがあった。

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<本件侵入事件直後のY社の対応>

▼ XはZ店のB店長に対し、Aによる本件侵入事件について報告したところ、B店長は「社内のことなので外には漏らさないように。6日にA本人が出勤したら事情を聞くから」等と返答し、結果として初売りの残りの仕事を優先して、当日のうちにはAに対する事実確認を含め、何らの措置をとることもしなかった。

▼ 同月6日、B店長は出勤したAから事情を聴取し、Aが覗き見目的で掃除道具置き場に潜んでいたこと、また人に頼まれて写真を撮ろうとカメラを持って入っていたということを確認した。その後、B店長は本社に事情聴取の結果を報告した。

▼ 同月8日、Xは本件侵入事件のショックから出勤できる状態になく、有給休暇をとって自宅にいたところ、Y社のC常務、D総務部長から事情を聞きたいという要請を受けたことから、Z店に出向いて事情を説明した。

▼ C常務とD部長はAからも事情を聴取したところ、Aは覗き見目的で掃除道具置き場に入っていたことは認めたものの、写真撮影の事実は否定した。

▼ 同月9日、C常務はXに対し、警察に届け出るかどうかはXの意思で決めるように指示し、Xは思い悩んだ末、同月12日、警察署に赴いて被害届を提出した。

▼ 同月14日、警察官がZ店を訪れ、現場検証およびB店長から参考人として事情聴取を行った。また、本件侵入事件の約1ヵ月後、警察はAの自宅を捜索したが、カメラ、フィルム等の物的証拠は発見されなかった。

▼ なお、Y社は掃除道具置き場への侵入を防ぐ措置として、掃除道具置き場の入口の扉を取り外し、外部から置き場内が見える措置をとった。

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<Xが退職に至るまでの経緯>

▼ 事件後のXは心身ともに不調が続いていたものの、何とか勤務を続けていたが、同年2月中旬、B店長に対し、「2月一杯で会社を辞めようかとも考えている」と伝えたことがあった。これに対し、B店長は「そうですか。2月末ですね」と、むしろXが退職することに賛意を示す態度をとった。

▼ XはY社への勤務を続ける決意をし、3月に入っても出勤を続けた。3月初め、XはB店長から「3月になっても出勤したということは、辞めないで続けることですか」と問われ、勤務を続ける意思である旨回答した。

▼ XのB店長に対する反抗的な態度がY社の営業面においても支障をきたすようになったため、C常務らはD部長に対し、人事担当者として適正に対処するように指示した。D部長はXが有能な従業員であったことから、Xに勤務を継続してもらうよう努めたが、勤務態度を改めさせることはできなかった。

▼ 同年4月下旬、XはD部長から、XのB店長に対する応対について「挨拶をしない。お茶を出す態度が悪い」と指摘され、また「男性なら転勤という方法もあるが、女性なので、これまでとった行動を反省しないのなら、辞めていただくということにする」旨を言われた。

▼ その数日後、Xは社内で一番信頼していたC常務から「クビではない。Xの場合は自主退職だ。どこかに就職する場合、解雇ではXが不利になるから自主退職とした方がいい」と言われ、Y社を辞めざるを得ないと自覚するに至った。

▼ 同年5月、Xは印刷会社に対し、退職礼状の印刷を依頼し、これを受けて、同印刷会社からY社に対し、Xの退職礼状の納入と印刷にかかる代金の請求があった。

▼ Xの最終出勤日である同年5月31日、顧客10名ほどが花束を持って、Z店に来てXの退職を惜しんだ。翌6月1日から、XはY社に勤務していない。

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<XのY社退職後>

▼ 6月に入り、B店長は自宅にいたXに対し、「辞表を書いてもらわないと、離職票や退職金は出せない。理由は何でもいいから早急に提出するように」と退職届の提出を要求した。これを受けて、Xは6月5日、退職願をY社に提出した。

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