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#204 「東宝舞台事件」東京地裁(再掲)

2008年3月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第204号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【東宝舞台(以下、T社)事件・東京地裁判決】(2007年12月6日)

▽ <主な争点>
演劇チケットをダフ屋に売却したことを理由とする懲戒解雇

1.事件の概要は?

本件は、いわゆるダフ屋等へのチケット売却を理由として、T社から懲戒解雇されたXが、主位的に懲戒解雇が無効であると主張して、労働契約上の地位の確認および懲戒解雇後の賃金(賞与を含む)等の支払いを求めるとともに、予備的に退職金等の支払いをT社に対し、求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、舞台・テレビ美術のデザイン・制作、衣装・小道具のデザイン・制作、劇場・ホール・テレビスタジオ等の美術・照明・音響の操作などを目的とする会社であり、映画・演劇の制作配給会社である東宝株式会社の子会社である。また、東宝はT社を含めた子会社などとともに企業グループ(以下「Tグループ」という)を形成している。

★ Xは、昭和48年11月、T社に正社員として入社し、平成19年1月当時、舞台営業部次長の職にあった。なお、Xは昭和56年に舞台操作にミスにより舞台出演者に入院加療を要する傷害を負わせたことを理由とする譴責を受けた経歴はあるものの、それ以外の懲戒履歴はない。

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<本件懲戒解雇に至った経緯等>

▼ 平成18年11月、XはTグループの一定の関係者のみが利用できる営業用チケット予約システムを利用して、堂本光一主演によるミュージカル『Endless SHOCK』(以下「本件演劇」という)の入場券12枚(以下「本件チケット」という)を予約し、同年12月、本件チケットを1枚12,000円、合計144,000円で購入した。

★ 本件演劇は、若手人気アイドルが主演を務めるミュージカル・ショーであるが、入場希望が極めて多く、そのチケットは一般に入手が極めて困難なものであった。

▼ 19年1月、Xは本件チケットのうち2枚を帝国劇場(東京都千代田区)付近で暴力団員であるCに1枚2万円、合計4万円で売却した。その際、今後のチケットの売却方をも念頭において、Cから連絡先の記載された名刺の交付を受けた。また、同月、Xは東京都文京区内の路上で、Cに本件チケットのうち6枚を1枚35,000円、合計21万円で売却した。

▼ 同年2月、警視庁丸の内警察署は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する法律(以下「東京都迷惑防止条例」という)第2条1項違反(以下「ダフ屋行為」という)の容疑でCを逮捕するとともに、Cが保有する本件演劇の入場券を押収したところ、その中に本件チケットの一部が含まれていたことから、東宝およびT社に本件売却が発覚することとなった。

▼ 同月、T社は本件売却が、就業規則第11条の2、第42条12号および第43条2号ならびに同条10号の懲戒解雇事由に当たるとして、Xを懲戒解雇した(以下「本件懲戒解雇」という)。また、T社は就業規則第41条後段(以下「本件不支給事項」という)を根拠として、Xに退職手当を全く支給していない。

▼ また、東宝は本件懲戒解雇の後に、本件演劇の主演アイドルが所属する芸能プロダクションに、本件売却の事実関係を報告するとともに謝罪した。

▼ 同年4月、東京簡易裁判所は東京都迷惑防止条例違反の罪で、Xを罰金20万円に処する等の略式命令を発した。

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<T社の社員就業規則について>

★ T社が定めた社員就業規則は、社員の服務規律、懲戒および退職手当等につき、下記のとおり定めている。

第11条の2 従業員は常に法令を順守するとともに、社会通念上の常識や倫理に照らして正しく行動し、会社の名誉および信用を損なうような行為をしてはならない。

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