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#112 「オリエント信販事件」東京地裁

2005年11月16日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第112号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【オリエント信販(以下、O社)事件・東京地裁判決】(2004年10月29日)

▽ <主な争点>
中途採用社員の条件付きボーナス

1.事件の概要は?

本件は、入社時に覚書を交わし、「新基幹システム立ち上げ」という条件付きで支給することが約されたボーナス300万円について、その支給条件が成就したとして、元社員XがO社に対し、その支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<O社のシステムについて>

▼ 信販会社であるO社は平成12年6月、外資系の投資会社であるU社に買収されたが、A社の開発による当時のO社の消費者金融向け汎用コンピュータ・システムは旧式で、本部で全体の貸付残高が把握できない等の問題点を抱えていた。

▼ そこで、O社はA社のシステムに代えて、次のような機能を備えた新システムを導入することとした。
(a)基幹系:顧客の取引内容をはじめとした各種情報について、本部にデータベースを作成して一元管理できるようにするとともに、各支店の端末を増設し、コンピュータ端末による管理に改める。
(b)情報系:一元管理されたデータに基づき業績を集計するとともに、各種の情報分析ができるようにする。
(c)コールセンター:顧客の電話対応について、データベースとの連動と自動接続ができるようにする。

▼ 13年1月、O社は上記の新基幹系システムの開発業者として、B社を選択した。同年4月、O社ではU社の主導で新システムの導入が示され、この問題に関して、管理職を集めて検討された会議において、14年1月までに「情報分析システム・基幹システム導入」、14年6月までに「コールセンター設備導入」と記載された資料が配られていた。

▼ 13年5月、O社の取締役会は基幹系の開発をB社(関連会社を含む)に発注することを承認し、同年6月、B社の下請け会社であるC社との間で「基幹系システム開発(結合~運用・評価)」について、開発契約を締結した。その後、O社は同年8月、情報系・コールセンターに係る開発契約についてはD社との間で締結した。

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<XがO社に入社した経緯および本件覚書等について>

★ Xはシステムエンジニアであり、数社のコンピュータ関連会社を経て、年収として1200万円を得ていたが、更なるキャリアアップを目指し、ヘッドハンティング会社に登録していた。

▼ 13年2月、Xはヘッドハンティング会社から、O社がシステム部長を募集しているとの話を受けてU社に赴き、新システム導入計画の概要について説明を受け、同年3月、O社代表者らとの面談を経て、O社のシステム部長として採用することに内定した旨を告げられた。

▼ Xは同年4月、O社との間で、次の事項を含む覚書(以下「本件覚書」という)を交わした。
(a)役 職   システム部長
(b)勤務場所  O社本社所在地
(c)報 酬   年俸1200万円
(d)ボーナス  新基幹システム立ち上げ時に300万円。それ以降はO社規定の賞与に準ずる

▼ Xは同年7月からO社での勤務を開始し、基幹系の開発に従事するとともに、情報系・コールセンターについて、システム要件定義作業に従事した。また、O社がC社に発注した内容には、信販会社等が利用する外部からの顧客の信用情報に関する機能が含まれていなかったので、Xの判断でこれらの機能の追加発注を行った。

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<新システムの稼動およびXの退職等について>

▼ 14年9月、O社と開発業者は基幹系・情報系・コールセンターを一斉に稼動させたところ、コールセンターの障害によりシステム全体が停止してしまった。一週間かけて行った補修後、ある程度安定した稼動を確保することができたが、その後も顧客の信用情報に関する機能等に係る障害が毎月数件~20件程度発生した。

▼ Xは同月、C社に対し、O社代表者の記名・押印を得た「基幹系システム開発(結合~運用・評価」等に係る検収通知書を交付し、O社はC社に対して、注文代金を支払った。

▼ 同年10月以降、Xは親の看病のため年次有給休暇等を取得したり、欠勤したりするようになり、週2、3日しか出勤せず、同年12月末日をもってO社を退職した。Xは退職に先立って、O社代表者に本件覚書のボーナスの支給を依頼したところ、同代表は「来年4月に再度決めされてくれ」と回答した。

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