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#223 「キヤノンソフト情報システム事件」大阪地裁

2008年12月24日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第223号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【キャノンソフト情報システム(以下、C社)事件・大阪地裁判決】(2008年1月25日)

▽ <主な争点>
自律神経失調症等を理由とする休職期間満了による解雇の効力

1.事件の概要は?

本件は、平成15年7月から自律神経失調症およびクッシング症候群を理由に病気療養中であったXが、16年8月からの復職の意思を表示し、かつ現実に復職可能であったにもかかわらず、C社にこれを拒否され、17年7月をもって休職期間が満了したことにより翌日から退職として扱われたのは理由のない就労拒絶であり違法であるとして、従業員としての地位確認、16年8月以降の賃金および賞与の支払い等をC社に対し、求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<C社およびXについて>

★ C社は、コンピューター利用技術の開発および販売等を業として行う会社である。職種としては営業職、事務職、技術職の3種類があり、そのうち技術職は開発部門とサポート部門に分かれていた。

★ Xは、C社との間で、平成6年4月に雇用契約を締結し、入社以来、コンピューターのプログラマーとして技術職に就いてきた者であるが、契約上職種についての限定はなかった。

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<Xの休職期間が満了するに至った経緯等について>

▼ Xは、平成14年6月、医療法人Hクリニックを受診し、自律神経失調症と診断され、15年3月にはY病院でクッシング症候群* と診断され、その後、O大学医学部附属病院で副腎皮質機能低下症との診断を受けた。

* クッシング症候群とは、コルチゾール(副腎皮質から分泌されるホルモン)の慢性過剰分泌に起因し、中心性肥満、満月様顔貌、水牛様肩、赤色皮膚線条、多毛、月経異常、骨粗鬆症、精神異常など、特有の症状を呈する病気である。

▼ Xは、14年6月から自律神経失調症を理由に欠勤を続けていたものの、15年7月をもって就業規則に定める欠勤期間が満了したため、クッシング症候群および自律神経失調症を理由に最長2年間の休職期間に入ることとなった。

★ C社においては、欠勤期間中の従業員に対しては、休職に至るまでの間、賃金の全額が支給されるものの、休職期間に入った従業員に対しては、賃金が支給されず、休職期間の満了により退職となる扱いである。

▼ Xは16年2月頃から復職を考えるようになり、同年5月、C社の担当者2名を伴い、病状説明を受けるため、O大病院を訪れたところ、同病院の医師からは、Xが罹患しているクッシング症候群は周期性の疑いが強いものの、寛解状態にあり、労務は可能である旨の説明があった。なお、寛解とは、医学的に永続的一時的を問わず、慢性疾患などの症状が好転または消失することを指し、治癒に準ずる場合をいう。

▼ 同年7月、O大病院の医師は、Xについて「クッシング病薬物療法後副腎皮質機能低下症(現在寛解状態)」であり、「現在副腎皮質機能は正常に回復しており、無投薬にて経過観察している。寛解状態であり、労務可能と判断する」との診断書を発行した。

▼ XはC社に対し、同月、書面で同年8月からの復職を申請したが、同社は(1)診断書にも「現在寛解状態」とあり、治療が必要な状況に変化はないこと、(2)O大病院の医師によれば、Xが罹患しているクッシング症候群は周期性の疑いが強いこと、(3)Xは過去に自律神経失調症の診断書を提出しており、今後復職を申請する際は、当該疾病についての診断書の提出も必要であることを理由にこれを認めなかった。

▼ 同年8月、C社はXと面談の機会を持った。同社の担当者から、復職を認めない理由について、寛解期間が半年では短すぎるとの話があり、具体的に寛解期間がどのくらいであれば良いとはいえないが、休職期間満了までにはいずれ復職を検討したいという趣旨の発言がなされた。

▼ 同年11月、C社がXとの面談の機会を持った際、Xは自律神経失調症に関して「以前の症状は完全に消失しており、意欲もあり、労務可能であると判断する」との診断書を持参した。面談の中で、C社の担当者からは「開発部門以外への配転は難しい。開発部門では残業が増えており、それについていけるようになってほしい。もし転職するのであれば、再就職の支援を行う」というような話があった。

▼ XはC社に対し、17年3月、改めて書面で復職を申請したが、同社は「Xの自律神経失調症はクッシング症候群を主因とする」という診断に疑義を抱いていること等を理由にこれを認めなかった。

▼ 同年5月、C社はXに対し、内容証明郵便にて同年7月9日をもって休職期間が満了し雇用契約が終了する旨通告し、同日の経過により退職扱いとなった。

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