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#35 「トーコロ事件」東京地裁(再掲)

2004年4月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第35号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 用語の解説

三六協定」とは、労使協定のうちで時間外労働・休日労働に関する協定届のこと。労働基準法第36条にその根拠があることから、一般にこう呼ばれている。

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■ 【トーコロ(以下、T社)事件・東京地裁判決】(1994年10月25日)

▽ <主な争点>
三六協定の有効性

1.事件の概要は?

本件は、Xが(1)残業の全面的中止を主張し、残業拒否をもって反抗したこと、(2)職場で労働基準法違反の時間外労働等が行われているがごとく、誇大に中傷および誹謗を行い、職場の秩序を乱し、職場環境を悪化させたこと、(3)人事考課を拒否し、反抗的態度であったこと、(4)協調性が欠如していたこと、(5)勤務能力が不足していたことが就業規則の懲戒解雇事由に当たるとして、T社は普通解雇を行った。これに対して、Xは当該解雇は無効であること及び解雇は不法行為・債務不履行を構成するとして、慰謝料100万円の支払いなどを求め争ったもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、学校から受注する卒業記念アルバムの制作を主たる業務とする会社であり、毎年11月から翌年3月までが繁忙時期であり、この時期を「シーズン」と称していた。

★ Xは、平成3年7月にT社と期間の定めのない雇用契約を締結し、当初は写真焼の業務に従事していたが、同年8月より、電算写植機のオペレーターとして、住所録の作成(組版)業務に従事するようになった者である。

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<T社の三六協定、Xの人事考課表への対応等について>

▼ 3年11月上旬、中途採用社員の研修等が行われた際にA総務部長が「シーズン中の有給休暇は病気にかぎって認める」趣旨の発言をしたのに対し、Xは「理由による年休の制限は労働基準法(以下、労基法)違反になる」と指摘した。

▼ 同月中旬、XはA部長に対して、三六協定の謄写を申し入れたが、機械コピーを断られたため、手書きで書き写し、初めて三六協定の内容を知った。その際、同部長は「労基法違反なのはXの言うとおりだが、だんだん良くなってきた。業界の特殊性があるので労働基準監督署(以下、労基署)も黙認してくれている。一シーズンまわりの人を見てくれれば、様子が分かる」などと述べた。

★ 3年4月にT社が労基署に届け出ていた三六協定にはT社友の会役員であるBが「労働者の過半数を代表する者」として署名・捺印をしていた。同友の会は、役員を含めたT社の全従業員によって構成される親睦団体であり、その役員は会員の選挙によって選出されていた。

▼ その後、C営業部長はXを呼び出し、「納期は徹夜してでも守らなければならない。もっとひどいところは一杯あるのだから、労基法違反のことなど言わずに残業しなさい」と約2時間にわたって、残業をするよう説得した。このとき、Xは眼精疲労を訴え、長時間の残業は無理である旨を述べた。

▼ 同年11月末、人事考課表が渡されたが、Xは自己評価欄に記入せず、欄外に「労基法違反を前提に評価基準が設けられるならば、労働者の権利を主張すること等はその労働者の不利益につながる。それをよしとしないので、この文を自己評価に替える」旨を記載して提出した。

▼ 同年12月、XはC部長から「人事考課の自己評価欄に記入せず、協調性がないので、年末賞与についてマイナス3万円の査定をした」旨を告げられた。

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<Xによる手紙の送付、本件解雇に至った経緯等について>

▼ 同月下旬、XはYと連名で、主任以上を除く全社員に対して、「T社にお
ける女性賃金差別、不法な残業、有給休暇等の労働者の権利無視」などを訴えた手紙を送付した。

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