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#582 「医療法人社団 和栄会・秀栄会事件」さいたま地裁(再掲)

2023年2月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第582号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【医療法人社団 和栄会(以下、W会)・秀栄会(以下、S会)事件・さいたま地裁判決】(2021年1月28日)

▽ <主な争点>
防塵マスク等を着用して、病院内で着任の挨拶回りをした行為が懲戒解雇事由に当たるかなど

1.事件の概要は?

本件は、XがW会・S会との間で2020年4月1日から2021年3月31日までの期間を定めた雇用契約が成立したと主張した上で、勤務初日に解雇されたのは解雇権を濫用するものであるとして、雇用契約上の地位の確認ならびに賃金の支払を求めたもの。

なお、W会は解雇の有効性を主張するとともに、賃金の額を争っている。S会は雇用契約の成立を争っている。

2.前提事実および事件の経過は?

<W会、S会およびXについて>

★ W会は、Aクリニックを開設して運営する医療法人社団である。

★ S会は、B病院を開設して運営する医療法人社団である。

★ Xは、医師である。


<雇用概要確認書・医師勤務契約書の作成、本件解雇に至った経緯等について>

▼ XとW会は人材紹介会社を通じ、2019年10月、「勤務先をAクリニックおよびB病院、想定年収2500万円、期間を2020年4月1日から2021年3月31日までとする」などの内容の雇用概要確認書を作成した。

▼ Xは2020年4月1日、Aクリニックに出勤し、白衣に硬質の素材でできた防塵マスク、青色のゴム手袋(以下「本件装備」という)を着用した姿で同クリニック内の患者や職員らに挨拶回りをした後、C事務長立会いの下、W会との間で「職位をAクリニック副院長等、年俸2000万円、契約期間を同年4月1日から2021年3月31日まで」とする医師勤務契約書を作成した。なお、XとS会との間においては同様の契約書は作成されていない。

★ この点につき、Xは「契約をW会との間で年俸2000万円、S会との間で年俸500万円に分けるとの通告を受け、この変更に同意した」と主張している。

▼ W会代表者は同日、Xに対し、本件装備が患者および近親者の不安をいたずらに惹起(じゃっき)し、礼儀を軽んじて職場の秩序を乱し、Aクリニックに甚大な損害を及ぼしたなどとして、即日解雇を通告し(以下「本件解雇」という)、同月4日以降、同クリニックへの立ち入りを禁止した。

★ W会がXに交付した解雇理由書には、「Xが着用していたマスクや手袋等が患者および近親者の不安をいたずらに惹起し、礼儀を軽んじて職場の秩序を乱し、Aクリニックに甚大な損害を及ぼしたことが、就業規則84条ハ、ト、チ、ヌ、カに該当する」と記載されている。

★ W会の就業規則84条は、懲戒解雇事由について定める。

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