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#194 「日刊工業新聞社事件」東京地裁

2007年10月31日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第194号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日刊工業新聞社(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2007年5月25日)

▽ <主な争点>
退職金の一律50%削減を内容とする退職金規程改定の効力

1.事件の概要は?

本件は、N社の元従業員のAら(相続人を含む)および従業員Fの計9名が、N社がそれまでの給与規程に定められた退職金に関する規定を改定して退職金の額を半額に減額し、さらにその規定を改定したが、これらの改定は無効であると主張して、Fは上記各改定の無効の確認を求め、また、その余のAらは、当初の規定による退職金額と現実に支払われた退職金額との差額等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびAらについて>

★ N社は、日刊新聞の発行、書籍の出版等を目的とする会社であり、「日刊工業新聞」の発行を主たる業務としている。

★ A、B、C、DおよびEはいずれもN社の従業員として勤務していたが、定年または自己都合により退職したものである。

★ Fは、昭和49年5月からN社の従業員として勤務しているが、本件口頭弁論終結後の平成19年4月には60歳を迎え、定年となる。

★ 亡きGは、昭和44年4月からN社の従業員として勤務していたが、平成17年3月、死亡により退職した。Gの相続人は、その妻であるH、その子であるIおよびJである。

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<N社の経営悪化と財務状況等について>

★ N社は、いわゆるバブル期までに、海外支局の開設など拡大経営を進めてきたところ、バブルの崩壊に伴い、顧客層である製造業、中小企業等の経営悪化のため、購読者の減少による販売収入の減少、広告売上の激減などにより、業績は低迷していた。

★ その間、借入金の増加により平成5年11月決算時には4億5千万円近くの債務超過となり、その後もこれが拡大し、11年3月決算時には23億円余りの債務超過となった。

▼ N社は経費削減策として、国内、海外の支局を閉鎖したほか、高年齢従業員の希望退職の募集による人件費の削減などを実施し、また、発行紙の土曜休刊を実施して経費削減を試みるなどしたが、営業利益の飛躍的向上を図ることは困難であったことから、財務状況は改善しなかった。

▼ N社は財務状況を改善するため、不動産売却による特別利益の計上も行ったが、依然大きな改善は見られず、固定資産の償却や退職給与引当金の処理も十分にされていない有り様で、間もなく60歳の定年を迎える多数の従業員の退職金支払いを負担することは到底不可能な状況にあった。

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<N社の再建計画および労働組合との交渉までの経緯>

▼ 14年9月、N社は主力銀行であるR銀行からの要請を受けて、経営の抜本的改善を図るための再建計画を策定するべく検討を重ね、資産売却や人員と経費の削減等を内容とする方策をとりまとめたが、同行からはより抜本的な計画が必要であると一蹴された。

▼ その頃、U銀行から経営コンサルタントなどの第三者による分析を求めてきたことから、N社は同行の推薦のあったPWC社との間で委託契約を締結した。同社は、15年1月からN社に常駐して調査、分析に当たり、N社の事業および財務の状況、経営改善計画の内容を検討し、その結果を「N社事業債権に関する調査報告書」(以下「報告書」という)として、同年4月に提出した。

▼ N社は、上記のPWC社の検討結果に基づき再建計画を策定し、R銀行からの承諾を得られると、関係者への説明会等を行い、さらに労働組合との交渉を始めた。なお、N社の労働組合は3組合があった。

▼ 労働組合との交渉の中で、N社は同社の経営が窮境に陥り、私的整理により再建を図らざるを得なくなった事情を説明して謝罪し、再建への協力を要請したが、Aらの所属する組合は激しく反発し、理解を示すことがなかった。

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<N社退職金規程の改定について>

★ N社の給与規程の退職金に関する部分(以下「本件退職金規程」という)は、退職金基準金額の勤続期間欄に対応する倍数を退職時の基本給に乗じた額を基準額とし、定年による退職者、死亡による退職者には、その10割を支給する旨定めていた(以下「A規定」という)。

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