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#115 「ジャパンタイムズ事件」東京地裁

2005年12月7日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第115号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【ジャパンタイムズ(以下、J社)事件・東京地裁判決】(2005年3月29日)

▽ <主な争点>
作成記事の内容等を理由とする外国人記者の解雇

1.事件の概要は?

本件は、作成した記事の内容を理由として、J社から解雇された外国人記者のXが同社に対し、解雇が無効であると主張し、雇用契約上の地位確認および未払賃金の支払いを求めるとともに、J社による謝罪文の掲載により名誉を毀損されたと主張し、解雇および謝罪文による名誉毀損という不法行為に対する慰謝料と謝罪文によって損なわれた名誉を回復するための謝罪広告の掲載を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<本件労働契約について>

★ J社は、日刊英字新聞であるジャパンタイムズ紙(以下「本紙」という)を毎日約5万8000部発行している新聞社である。

▼ Xは昭和62年8月、J社に入社し、13年5月にJ社との間で非常勤嘱託の外国人記者として、労働契約を締結した(以下「本件労働契約」という)。

★ 本件労働契約には、以下のような定めがあった。

13項 XおよびJ社は1ヵ月の予告期間をおいて契約を解除することができるが、期間満了前に契約を終了することを避けるために最大限の努力をする。

14項 J社はXが重大な過失・非行・就業規則条項に違反した場合、無断欠勤が5日以上に及んだ場合、休業が1ヵ月を超える場合には、予告なく契約を解除することができる。

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<本件記事および掲載記事のチェック体制について>

▼ J社は13年10月、翌年に控えた日韓サッカーワールドカップ開催にあたり、日本および韓国における各試合の開催地の紹介記事を特集として掲載すること(以下「本件特集」という)を決定した。

▼ 本件特集の一つとして、当時運動部長であったXの書いたソウルを紹介した記事(以下「本件記事」という)が14年5月13日発行の本紙スポーツ欄に掲載された。また、これに先立ち、本件記事はJ社のウェブサイトにも掲載された。

★ 本件記事が掲載されるにあたり、少なくともウェブサイト編集者1名、スポーツ欄の編集者2名、副編集者1名、コラムニスト1名が本件記事を読んでいたが、これらの者から本件記事について、問題点は指摘されなかった。

★ J社において、本紙編集局長は全ての記事の原稿をチェックする建前ではあったが、編集局長のAは全てチェックすることはしておらず、本件記事についても、掲載時点までにその内容を読むことはしていなかった。

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<本件解雇までの経緯>

▼ 本件記事をめぐり、韓国大使館からJ社に対して、「日本を代表する英字新聞がなぜ韓国を侮辱する記事を載せるのか理解できない」という趣旨の抗議が寄せられるとともに、読者からも韓国および韓国の女性を侮辱するものであり、不適切であるとの抗議が寄せられた。

▼ 同年5月22日、A編集局長は本件記事に対する一連の抗議についてXに伝え、本件記事の問題点についてXと話し合ったが、Xは訂正記事を出すことには応じてもよいが、本件記事は事実であり正当なものであるとの意見を述べ、以後も同様の態度をとった。

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