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#567 「Hプロジェクト事件」東京地裁

2022年7月20日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第567号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【Hプロジェクト(以下、H社)事件・東京地裁判決】(2021年9月7日)

▽ <主な争点>
専属マネジメント契約を締結し活動していたタレントの労働者性など

1.事件の概要は?

本件は、亡きXの相続人であるYおよびZが、Xとアイドル活動等に関する専属マネジメント契約等を締結していたH社に対し、Xは労働基準法上の労働者であると主張し、Xが上記契約等に基づいて従事した販売応援業務に対する対価として支払われた報酬額は、最低賃金法所定の最低賃金額を下回るとして、労働契約に基づく賃金請求権として、上記報酬額と最低賃金法所定の最低賃金額との差額およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<H社、X、YおよびZについて>

★ H社は、農産物の生産、販売等をするとともに、「農業アイドル」として活動するタレントの発掘および育成等に関する業務等を行う会社である。

★ Xは、中学2年生であった2015年7月、H社との間で研修生契約書を取り交わし、それ以降、同社に所属するアイドルグループ(以下「本件グループ」という)のメンバーとして活動していた者である。なお、上記契約には就業時間に関する規定はなく、報酬は発生しないと定められており、賃金に関する規定もなかった。

★ Yは、Xの実母であり、Zは、2007年8月にXとの間で養子縁組をした者(養父)である。なお、YとZは夫婦である。


<2016年契約、本件契約が締結された経緯等について>

▼ Xはその後本件グループのレギュラーメンバーとなり、2016年12月にはアイドル活動等に関する専属マネジメント契約(以下「2016年契約」という)を締結した。

★ 2016年契約には、マネジメントおよびトレーニングに関する独占的委託が定められており、売上額等に応じた報酬に関する規定はあったが、就業時間や賃金に関する規定はなかった。

▼ H社は2017年9月から売上だけでなく、他のメンバーやファンへの貢献、メンバー自身の努力を評価する目的でポイント制を導入し、ポイント数に基づいて報酬の額が算定されるように制度変更した。

▼ H社は上記制度変更に合わせて、各メンバーとの間で契約を締結し直し、Xとの間でも同年10月、アイドル活動等に関する専属マネジメント契約(以下「本件契約」という)を締結し、報酬に関する規定を変更した。

★ 本件グループのメンバーはイベント等の会場で歌やダンスを披露するライブを行ったりしていたが、ライブが行われない時間帯にはイベント会場で出店している小売店の商品をPRするなど販売活動を応援する「販売応援」と呼ばれる活動にも従事していた。


<Xの死亡、相続について>

▼ Xは2018年3月21日に死亡した。

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