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#317 「エスエー・SPARKS事件」東京地裁

2012年8月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第317号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【エスエー(以下、SA社)・SPARKS(以下、SP社)事件・東京地裁判決】(2011年3月14日)

▽ <主な争点>
取締役の従業員性の有無、法人格否認など

1.事件の概要は?

本件は、XらがSA社の従業員兼取締役であり、同社による解雇は無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の地位の確認と未払い給与の支払いを請求し、また、SP社はSA社と法人格否認の法理等によって同様の責任を負うとして、労働契約上の地位の確認と、上記同様の金員の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<SA社、SP社、XおよびYについて>

★ SA社は、「チャイナクイック」という名称の中華料理のデリバリーの店舗を約30店舗経営する会社である。平成20年9月、チャイナクイックのうち15店舗を同社からSP社に事業譲渡するという内容の契約書が作成され、現在SP社がこれらの店舗を経営している。

★ Xは、平成15年6月、SA社に雇用され、主として管理的な業務に従事し、管理部門の執行役員等を歴任した後、18年2月、同社の取締役副社長、その後取締役社長(代表権はない)に就任した者である。

★ Yは、17年7月、SA社に雇用され、調理部を含む同社の店舗運営全体を統括するようになり、18年9月に同社の取締役に、19年7月に取締役副社長(代表権はない)および海外事業部(中国でのサウナ事業等)代表に就任した者である。

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<Xらの給与、退職金の取扱い等について>

★ Xの取締役就任前の給与は月額71万2000円であったが、18年9月分から100万円前後となり、19年7月分以降は101万2000円となった。この給与については従業員と同様の様式の給与明細が発行されていた。Xは取締役就任時に事務担当者から、雇用保険の控除について、どのようにするかの指示を求められ、従前のとおりにするようにと指示した。

★ Xは取締役就任時に従業員としての退職金を受領していなかった。SA社には退職金規程がなく、恩恵的給付として退職金を受領した従業員はいたが、労働者の権利としての退職金制度はなかった。

★ YのSA社入社時の給与は月額45万円、取締役就任前は月額56万6820円であったが、18年9月分以降は80万8820円となった。給与の支払い方式、取締役就任時の退職金の取扱いともXと同様であった。なお、Xらの給与はSA社の決算上、役員報酬として計上されていた。

★ SA社の経営体質は非常に悪く、店舗を出店するごとに赤字が生じ、粉飾決算が行われる一方で、銀行融資を受けながら新店舗の出店を続けた。XはYにも相談し、Aの承認を得て、19年11月、専門のコンサルタントに相談して、経営立て直しのための3ヵ年の事業計画を作成し、20年3月、同報告書をAに提出し、経営の改善を提案したが、Aはこれを受け容れることはなかった。

▼ SA社は20年9月、XおよびYに対し、取締役解任通知書(以下「本件解任通知」という)を出し、就労を拒絶した。

3.元取締役Xらの言い分は?

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