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#577 「A病院事件」札幌地裁苫小牧支部

2022年12月14日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第577号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【A病院事件・札幌地裁苫小牧支部判決】(2022年3月25日)

▽ <主な争点>
退職勧奨およびその前提となる情報提供が不法行為に当たるかなど

1.事件の概要は?

本件は、臨床検査技師であるXが勤務先のA病院から、誤った事実認定に基づく虚偽の非違行為を理由とする不当な退職勧奨を受け、真意に基づかない合意退職を強要されたなどと主張し、(1)人事の統括者としてXに対する退職勧奨を実質的に決定して告知した事務部長B、(2)所属部署の上司としてXに関する虚偽の非違行為の情報をB部長等に提供して不当な退職勧奨をさせた主任科長Cの各人に対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料の一部である600万円およびこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X、BおよびCについて>

★ X(1976年生の男性)は、2007年4月からA病院との間で期間の定めのない労働契約を締結し、同病院の臨床検査技師として勤務していた者である。

★ Bは、A病院の事務部長として、人事に関する事項を統括する地位にある。ただし、同病院の職務権限規程上、「職員の賞罰に関する業務」については、事務部長が立案・審査権限を有するものの、最終的な決裁権限は理事長が有するものとされている。

★ Cは、臨床検査科における責任者(主任科長)として、在職中のXの上司であった者である。


<Xに関する非違行為の調査の経緯等について>

▼ Xは2018年9月、臨床検査科内の管理職にあたる科長代理に登用された。

▼ 2019年9月頃、臨床検査科所属の職員が退職を申し出るにあたり、退職理由として、Xの勤務状況等について、同僚に対して高圧的な態度をとったり、業務時間中、取引業者の担当者と上司であるCを介することなく長時間にわたって話し込んだりしているなどの問題がある旨を告げたことから、これを契機として、Xを含む臨床検査科内の業務遂行上の問題点等に関する調査が開始されることとなった。

▼ B部長は理事長らの指示を受け、部下職員とともに、2019年9月頃から10月頃にかけて、Xを含む臨床検査科所属の職員ないし退職者および取引業者らに対するヒアリング調査等を実施した。

▼ B部長は上記各調査の結果をとりまとめ、同年11月7日付で「就業規則違反と思われる問題事項」と題する文書を作成し、その内容を理事長らに報告したところ、同文書には「Xの就業規則に抵触していると思われる問題事項について列挙する」とした上で、Xによる各行為を列挙して記載した。

★ A病院の就業規則上、懲戒処分は戒告、譴責、諭旨解雇および懲戒解雇と定められ、懲戒解雇の基準として、(1)職場において他人に暴行を加え業務に妨害を与えたとき、(2)業務上の指示に故なく従わず職場秩序をみだし業務に支障を加えたとき、(3)故意または過失により業務上の機密を漏洩したとき等の一に当たる場合には懲戒解雇とし、情状酌量の余地があるか改悛の情が明らかなときは諭旨解雇または譴責にとめることがある旨が定められている。


<Xが退職するに至った経緯の概要等について>

▼ 2019年12月2日、B部長はXと面談し、非違行為として、無断無償発注行為、情報漏洩等行為、他院誹謗中傷行為、無断出張行為の各行為を挙げて、それぞれ内容を説明した上で、各行為に係るXの弁明を聴取した後、A病院として、「厳しい処分」を検討しているが、合意退職をするのであれば、「処分」をしない方針である旨を告げ、同月5日に再度面談の機会を設け、その際にXの回答を聴取すること、同日まで自宅待機とすることを申し渡し、面談を終えた。

▼ 同年12月5日、XとB部長は面談し、A病院はXと同面談において合意解約が成立し、労働契約は終了したとして、Xに対して退職に伴う諸手続をした(なお、当該退職について札幌高裁2022年3月8日判決においては、合意退職として有効と判断した)。

3.臨床検査技師Xの主な言い分は?

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