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#203 「新津田事件」大阪地裁(再掲)

2008年3月5日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第203号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【新津田(以下、S社)事件・大阪地裁判決】(2006年11月2日)

▽ <主な争点>
腰痛等既往症労働者への配転告知と不実施、残業制限措置と損害賠償

1.事件の概要は?

本件は、S社の従業員であるXが、同社から配置転換を告知され、また、残業を禁止されたことが違法であると主張し、不法行為に基づく損害賠償として、逸失利益(時間外賃金相当額)104万2240円および慰謝料50万円、ならびに、これらに対する遅延損害金の支払いを求めているもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<S社およびXの職歴等について>

★ S社は、鋼材の加工等を業とする会社であり、同社の製造部の人員は、平成14年10月現在、業務・物流班が4名、レベラー・シャー班が11名、スリッター班が4名そして精製班が7名であった。レベラー・シャー班は、さらにレベラー班とシャー班に分かれており、Xはシャー班に属していた。

★ X(昭和25年生)は、平成2年1月、T社に雇用され、3年7月、スリッター班からシャー班に異動になり、以後、同社がS社に営業譲渡されたのに伴い、S社のシャー班に所属し、鋼材の切断等の作業に従事していた。

★ Xは6年5月、作業に従事していた際、ギックリ腰になり、7年7月、作業従事中、腰捻挫を発症し、それぞれ安静、通院加療のために約10日間休業した。その後、Xは腰痛に関して、重量物を運搬する際に機械を用いるようにする、腰に負担がかかった際に自宅で安静にする、医者から針治療を受けるなどしていた。

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<本件配置転換に関する経緯>

★ S社の製造部は12年以降、従業員に多種多様の作業を経験し、その能力を高めること(多能工化)を目的として、班長・副班長以上の役職者および非役職者について、担当作業を変更するために配置転換をしていた。

★ S社のシャー班は、8つのラインを4名の従業員で分担して担当していたが、各ラインの作業量が大幅に異なり、各従業員の残業時間は相当程度異なる状況だった。

▼ S社の製造部長(当時)のAは、多能工化をさらに進めて、各ライン間の作業量の差をなくして、このような作業実態を解消するために、まず勤続10年以上の従業員を対象として配置転換をすることにし、14年12月、異動対象となる従業員8名に対し、配置転換を告知し、Xに対しては、シャー班からレベラー班への異動を告知した(以下「本件配置転換」という)。Xはこれに対し、申立書を提出し、本件配置転換に異議を述べた。

▼ A部長は上記申立書を見て、Xが腰痛を負っていることを知り、総務経理部長のBと相談し、Xに対して、年明けに配置転換に関して話し合いたいと伝えた。B部長は、Xの腰痛に関する病状を把握するため、産業医を受診するのが良いと考えた。

▼ A部長、Xおよび従業員のC職長は15年1月、話し合いを行い、XおよびA部長らは、「XがS社の指定する産業医の診断を受けること、Xが希望する職種に配置転換された場合、必要となる床上5トン超クレーン資格を受講すること、この資格を取得するまでXに対して配置転換をしないこと」を合意した。

▼ その際、Xは希望する作業として、スリッター作業等を挙げたが、A部長はいずれの作業もその態様からみて、シャーリング作業より腰への負担が大きいため、Xに対する配置転換を留保する必要があると考えた。

▼ S社は同月、製造部従業員8名のうち、班長、副班長以上の役職者5名に対して異動を命じたが、Xを含む非役職者3名に対してはXが配置転換にならないことから、異動を命じなかった。

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<本件残業制限等に関する経緯>

▼ Xは同月、産業医であるM医師の診断を受けたが、診療録には、Xは7年前から腰痛を続いており、左下肢外側がしびれている旨記載されている。

▼ その後、M医師はXを呼び出し、MRI検査の診断結果について話した後、A部長らを診察室に呼び出し、Xの診断結果および作業内容について話した。その際、M医師は同部長らに対し、職場に軽作業はあるかと尋ねたが、A部長は「軽作業はない」と回答した。M医師は、A部長らに対し、「病名:腰椎椎間板ヘルニア」、「上記病名にて現作業より軽作業が望ましいと思われる」と記載された、Xの診断書を交付した。

▼ A部長はXについて、現作業より負担の軽い作業に従事させることは難しいと考えて、B部長と相談した上で、現作業のまま残業をさせない方法がよいと考え、同年2月、Xに対し、今後残業をさせないと告知した(以下「本件残業制限」という)。XはD取締役に書面を送付し、本件残業制限について抗議した。

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