ユメミーワールドを絶賛したい

一流の僕のリスナーであれば周知の事実かもしれないが、僕には映画クレヨンしんちゃんを見まくる時期がある。

映画クレしんの最高傑作といえば、オトナ帝国を挙げる人が大半だろう。確かにあの作品は名作だ。子供も大人も楽しめるアニメ映画の極地と言える。僕も一番好きだ。

次点で戦国、カスカベボーイズ、ヤキニクロード、ジャングルあたりも高評価の印象だ。これら2000年代前半の5作品が人気な一方で、3分ポッキリ大進撃から近年にかけての作品はあまり評価が芳しくない。

しかし、そんな近年の映画クレしんの中にもオトナ帝国クラスの名作はある。それが、「爆睡!ユメミーワールド大突撃」だ。

正直なところ僕の中のユメミーワールドの期待値はあまり高くなかった。「夢の世界ってありきたりだしどうなん?」とか「10年代はロボとーちゃん越えられんでしょ」とか思っていた。

約1時間半後、そんな僕の手のひらは目にも止まらぬ速さで回転することとなる。

ストーリー

ある日、巨大な魚に呑み込まれる夢を見たのをきっかけに野原一家を始めとする春日部市民たちは夢の中で巨大魚の体内にある不思議な世界「ユメミーワールド」に迷い込む。その世界ではやりたい事が自由にできるということで二度目の時、市民たちは自分の夢に浸っていくが、その中で大人たちのは小さく不完全な夢で謎の生き物によって奪われて魚の体内に放り出されてしまう。魚の体外は地獄のような世界で次々と現れる恐ろしい出来事=悪夢にうなされた大人たちは次第に元気を無くし、日が経つにつれて子供までもが夢を奪われて悪夢ばかり見るようになってしまう。
それに気づいた野原しんのすけ達カスカベ防衛隊は原因を探るため、悪夢のせいで元気を無くした佐藤マサオの代役として春日部に引っ越してきた少女・貫庭玉サキを仲間に加えて夢の中に入るも、風間トオルが彼女が春日部に来てから事件が起きた事と夢の中で見かけないことで彼女を疑い、後に原因がサキの父親・貫庭玉夢彦であることを突き止める。夢彦は悪夢しか見られない貫庭玉サキのために人々の夢を操っては楽しい夢を奪い取り、そのパワーで貫庭玉サキの悪夢を中和していた。
風間トオル、桜田ネネ、ボーちゃんも悪夢を見るようになり、サキとわだかまりが生まれる中、真相を知ったしんのすけはサキの幸せのためにサキの悪夢を獏に食べさせるという作戦を考え、仲間達を救う為、野原一家は揃って夢の中へ入っていく。

感想

今作ではゲストヒロインが珍しく同年代の少女であり、まずこの子がとにかく良い。

ふたば幼稚園に突如転入してきた少女サキは、しんのすけたちに対し冷淡かつ横柄な態度で、何より「おバカ」な言動を殊の外嫌うという、なかなかクセの強い性格でまず僕の目を奪った。

そして物語が展開するにつれて、周囲に冷たく振る舞うことを彼女が選んだ悲しい理由や「おバカ」に対して人一倍厳しくなった原因が明かされ、さらに僕の心を奪った。

この子は齢五つにして本当に色々なものを背負いすぎている。

まずユメミーワールドの存在自体が、過去のトラウマから悪夢しか見ることのできないサキのために父親が発明した代物であり、彼女は誰かの幸せな夢を奪わない限り安らかに眠ることができないのだ。

そしてそのことが原因でかつての友達を傷つけてしまい、以降は自分から冷たく振る舞うことで誰も傷つけないようにしていた。もう本当に優しい良い子すぎる。

それだけの優しさを持ち合わせた彼女が感じたであろう、自分のせいで周囲の人々に悪夢を見せていることへの自責の念は計り知れない。

そして彼女を終わらない悪夢へと苛んでいる原因こそが、過去の自らの不注意のせいで実の母親を死に追いやってしまったという考えうる限り最悪のトラウマである。

自分の「おバカ」な行動のせいで母親は亡くなってしまったサキにとって、「おバカ」はもっとも忌み嫌うモノだったのだろう。

そのせいで当然しんのすけ達とは当初折り合いが悪かったのだが、どれだけ邪険に扱っても自分を仲間として、一人の友人として扱ってくれるカスカベ防衛隊のメンバーに徐々に心を開いていく様はベタだが目頭が熱くなる。

とまあ、彼女の魅力について文のみで語り尽くせるほど僕に文才は無いので、ぜひ本編を見てほしい。

サキはもはやゲストヒロインというよりは本作の主人公と言っても過言ではない。

そして今作は終盤の展開も良かった。

今作には明確な悪役はおらず、サキの悪夢が最後に立ち向かう障壁に当たる。

カスカベ防衛隊のメンバーと共に悪夢を消し去るために戦うのだが、悪夢の力は凄まじく倒しきれない。

悪夢の正体は事故で亡くなってしまったサキの母親が自分のことを嫌っている・恨んでいると思い込んでいるサキ自身の自己批判精神であり、サキまたは母親が自分のことを許さない限りは決して消えないため、あくまで友人にすぎないしんのすけ達にはそもそも対処できなかったのだ。

そこで活躍するのがしんのすけの母みさえ。同年代の息子を持つ母親として、自身が母親として抱える思いと共にサキの母親の胸中を代弁することでサキに救いを与え、悪夢を受け入れるという結末へと導いた。

映画クレしん自体、家族がテーマになっている作品は多いが、みさえが単体で最後に活躍する作品はおそらく初なのでとにかく新鮮であった。

何よりみさえの子供に対する母親としての想いが立派すぎて僕は色々心が痛かった。これ本当に全人類見てほしい作品。道徳の教科書の巻末に円盤つけろ。

あとはゲストヒロインが年上の女性ではなく同年代の少女であったため、友人としてあれこれ手を尽くしてサキを元気付けるしんのすけの善性がより強く印象に残った作品でもある。

しかし、残念な点が一つだけある。

それは、サキが本作にしか登場しないことだ。

実は貴重な園児枠として登場したは良いものの、彼女は父親共々話の都合上海外へと左遷されてしまった。

確かに、自身を苛む問題が解決したことで、周囲を傷つけないための優しさのベールである冷淡な態度を取る必要が無くなり、残った個性はただの優しい可愛い子というキャラ付けの薄い人物になってはしまった。

だが、女子園児枠はマセガキのネネちゃんとテンプレお嬢様のあいちゃんの二人しかおらず、どちらもアクの強いキャラクターに仕上がっているため、むしろキャラの薄さは差別化になる。

よって、貴庭玉サキはクレしん女子園児レギュラー枠として登場は十二分に可能なポテンシャルを秘めている。ーQ.E.Dー






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