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#4_四大には気をつけろ。

入学式から1週間ほどが経ち、授業がはじまった。大学生になっても勉強をしなければならないという事実を、ぼくはまだ受け止められずにいた。阿呆である。

朝早く起きて、近鉄電車に乗り、西大寺で乗り換えて大学へ行く。徐々にそのリズムに慣れてはきたものの、灰色に靄がかった不安が頭をもたげる。

サークルが決まらない。

いくつか新歓や見学に行ってはみたが、どこもあまりしっくりはきていなくて。ぼちぼちどこかに決めないと、兄と同じ轍を踏むことになる。基礎ゼミの友だちには、サークルなんてどこでもいいっしょ、とかましていたが、内心ぷるぷるだった。

そんな中、テニサー「WHITE」はこまめに連絡をくれていた。見学あるからおいでよ。花見やるからおいでよ。

今のぼくはとてつもなく楽観主義で、人類誰しも善人だと思っている。ネパールに旅行したときには、日本に宝石を運ばされそうになったり。会社員を辞めたときには、マルチまがいのビジネスに印鑑を押す手前までいった。しかし当時のぼくはと言うと、

「大学生皆我騙ス」

と思っていて。

知らない人にはついていかない。

と母の教えを胸に刻んでいた。とは言え誘われた以上は断り過ぎるのも悪い。しかし行き過ぎるのも怖い。WHITEとは適度なソーシャルディスタンスを保っていた。

そんなある日、あまりイケてないWHITE(当時は)において、珍しくイケていた「ちゃんまん」という先輩に会った。ちゃんまんは服もお洒落で、タバコの吸い方もかっこよくて。後輩によくお酒を奢ってくれる、かっこいい先輩だった。どうしてあんなに金があるんだろうと不思議だったが、あとから聞いた話によると治験のバイトをしていたという。酒の一滴は血の一滴と言うが、

ちゃんまんの酒はほんとに血の一滴だった。

「さこくんサークルどうすんの?」「とりあえずどこかテニサーには入ろうと思ってるんですが。」「どこで迷ってんの?」「ええと…ていうか」

高校でもどの部活に入ろうか、と悩むことはあったが。それはあくまでも、どの"ジャンル"の部活に入ろうかという悩みであって。テニサーだけで30弱もあるこの大学において、どのテニサーが自分の肌に合うのかなんて、わかりっこない話。

ちゃんまん曰く、テニサーは大きく3つに分けることができるという。

どれも苦手じゃないか。

テニスに興味もなければ、お酒もろくに飲めない。イベサー型はまだ悪くないかな、なんて一瞬おもったが、高校時代 学年の女子からゲロシャブ扱いされていたぼくが、ルックスのいい男女に囲まれるなんて…

詰んだ\(^o^)/

だけど「とりあえずテニサー」という魔法の言葉に縛られていたぼくは、地上のどこかに身の丈に合った「下の中テニサー」があるはず、と諦めきれずにいた。

「正直さこくんの言う通り、どのテニサーに入ってもそんなに変わらんとは思うよ。飲みサーって言ってもテニスもすれば、イベントもあるし。代によって色が変わるからさ。」

なるほど。じゃあもういっそ運任せで、誘われたとこに入ろう。そう思った矢先、ちゃんまんが意味深なことを言った。

「あ、でもあそこだけは気つけや。」「どこですか?」

「アップル」「カムトゥギャザー」「シンドバット」「スターダスト」。この4サークルを総称して四大と言う。何をもって、くくられていたかは定かではないが、共通して言えることは、

ギャルい、チャラい、怖い。

針葉樹のような、まつ毛。成人式のような、盛り髪。新入生のぼくでも、四大とその他のテニサーは容易に判別がついた。と同時に、「この人達と関わってはいけない」と本能で理解できた。

一度テニス大会にカムトゥギャザーがいて、五度見したことがある。
・派手なサークルおるやん
・カムやん
・テニスやってるやん
・楽しんでるやん
・ヒール履いてるやん
なぜヒールでテニスをやろうと思ったのか。飛車角抜きみたいな、ハンディ戦だったのか。なんにせよヒールでテニスコートに踏み込むのは言語道断。しかし誰も注意することはできなかった。なぜなら、彼らは四大なのだから。

そんな誰もが怖れる四大に、立ち向かった一人の漢がいた。

生ける伝説、イクラさん。

イクラさんはぼくが1回生当時、WHITEの3回生だった人で。背も低く、四肢は枝のように細く。山崎まさよしを3ヶ月ほど断食させたような顔をしていた。全国の目立たない学生をモンタージュしたら、ちょうどイクラさんになる、そんな雰囲気の人だった。

しかしそんなイクラさんにも特技があった。「テニス」。そう、イクラさんはテニスがうまかったのだ。そしてどういうわけか、イクラさんはDTLという全テニサーを束ねる組織の副委員長にまで登りつめたのだ。

権力とは怖いものである。入部して間もない後輩からも邪険に扱われていた、あのイクラさんが思いもよらぬ行動をとった。

なんと四大の一角である、カムトゥギャザーをDTLから除名したのだ。イクラさんの株はビットコインのように跳ね上がり、全テニサーから尊敬の眼差しで見つめられ、大学キャンパスの地下には「イクラを称える像」が建立されたとか、されてないとか。

こうしてカムはDTLを追われ、翌年にはスターダストもDTLを去り、ひとつの時代が幕を閉じたのだった。
(つづく)

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